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自分の判断、自分のリアル(仕事の心がけ)

「〇〇は何の役に立つのか」という疑問をときどき見かける。純粋な疑問の場合もあれば、非難の意味を込めた場合もある。

ところで、イノベーションを起こす人というのは、「〇〇は何の役に立つのか」の答えを、誰よりも早く見つける人のことではないだろうか。

○○が何の役に立つのか。○○をどう使えばおもしろいことが起きるのか。それに誰よりも早く気付く人は、新しいものを生み出す。

現世的な応用に最も遠いと思われた「整数論」が、現代のセキュリティの核心にある。まさに「これが何の役に立つか」を見抜いた人の勝利だと思う。誰も見抜けなかったこと。誰も思いつかなかったこと。それを見抜いた人が世界を変革した。

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自分が理解できないことを、誰かに尋ねるのは大事だ。「○○は何の役に立つのか」と尋ねることは悪ではない。○○を理解するために必要なことかもしれない。

しかし、どこかの段階で、自分一人で判断しなければならないときがくる。判断というのは、次のようなことだ。

「○○がこれからどう変化するかはわからない。でも、私はこれで行けると思う。うまくいくと思う。私はこれに時間を掛けてみよう!」

そのような判断をできるかどうか。タイミングよくできるかどうか。そしてその判断を、自分の行動に移せるかどうか。

抽象的すぎたかな。

自分が行動を起こすとき、一から十まで他人にお尋ねするわけにはいかないという話だ。

これは、ビジネスの話でもあるし、恋愛の話でもあるし、個人の生き方の話でもある。

リスクを伴う仕事上の判断を行うとき、情報集めは大事だ。いろんな人に相談することもある。けれど、どこかでは自分が判断する必要がある。

誰かに告白するとき、プロポーズするとき、自分の恋敵に相談する人はいない。友達のアドバイスを聞くことはあるかもしれないが、告白するのは友達ではなく、自分だ。

自分の進路を決めるとき、一から十まで誰かの考えで決める? そんなことはないはずだ。最後に「よし、こうする」と決めるのは自分だ。

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「○○は役に立ちますか」のような質問は大切だけれど、それをいくら繰り返しても判断の変わりにはならない。判断は情報収集とは異なる。

情報がしっかりそろってから判断しようと考えがちだけれど、それもまた難しい話である。時間は待ってくれないからだ。

自分の準備がまだできてない。まだ納得ができない。もっと情報を集めてから。もっとアドバイスをもらってから……と願ったとしても、時間は待ってくれないし、止まってくれない。

あるとき、あなたは言われるだろう。

「あなたが自分の武器をとって戦うときが来ました」

そのときに自分が持っている武器を試されることになる。

学校が与えられた。あなたは学んだか。書店や図書館が与えられた。あなたは読んだか。友人や家族が与えられた。あなたは語ったか。時間が与えられた。あなたは考えたか。祈ったか。蓄えたか。力をつけたか。整えたか。

あなたは、戦いに備えたか。突然始まる、人生の戦いに。

あなたに与えられているのは、一日24時間という時間である。本を読もうが、誰かと話そうが、考えようが、祈ろうが自由だ。よく考えてみればわかる。あなたには24時間がフルに与えられている。あなたが何をするかは、あなたの支配下にある。誰のせいにもできない。あなたの時間は、あなたの時間だ。

そんなふうに考えるのは、とてもこわい。自分のリアルに直面しなくてはいけないように感じるからだ。

確かにこわい。自分のリアルに直面して、世界と対峙するなんて、とてもこわいことだ。ショックを受けるかもしれない。失敗するかもしれない。でも、思うのだけれど、そのようなリアルを通過することなしに、リアルな幸せに触れることは難しいのではないだろうか。

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自分のリアルを認め、現状を理解し、こわいながらもぐっと足を踏みしめたとき、ようやく「○○は何の役に立つのか」という質問が持つ意味を知るのかもしれない。

場つなぎでの質問でもなく、何となく批評するために行う質問でもなく、時間稼ぎの質問でもなく、自分が必要な情報を真剣に求める質問とは、何だろうか。

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結城自身も、自分のリアルを認めることはとてもこわいと感じる。結城はここ二十数年来、毎日、「いつも喜び・たえず祈り・すべてのことに感謝」で生きている。ここに人生の秘訣が隠されていると信じているからである。

結城が毎日書いているのはささやかな読み物である。その中でも葛藤があり、悩みがあり、迷いがある。これから進む方向についてもわからないことばかりだ。

どんな仕事に対して、どのような準備を行い、これからの時を過ごしていくのか。

結城は、そんなことを考えながら、日々の仕事を進めている。

あなたは、どうだろう。

結城浩のメールマガジン 2016年9月20日 Vol.234 より


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