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文章をなかなか公開できない/集合・位相や代数を学ぶ意義/本を書き始めるタイミング/読書術/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2019年1月8日 Vol.354

目次

・自分の文章をなかなか公開できない - 文章を書く心がけ
・どこまで理解してから本を書き始めるか - 本を書く心がけ
・数学を専門としない学生が、集合・位相や代数を学ぶ意義はあるか - 学ぶときの心がけ
・経済学を学ぶうちに数学に興味を持ったが、内容がなかなか頭に入らない - 学ぶときの心がけ
・結城浩の読書術


はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

2019年になって早くも一週間が過ぎました。一年は約52週あるので、一週間は一年の約2%にあたります。さて「約2%」は大きいのか小さいのか……微妙な値ですね。

* * *

数学が苦手な登場人物の話。

「数学ガール」シリーズで七年ぶりに新しいキャラクタが登場しました……という話題は結城メルマガで何回かお話ししました。

◆数学ガールに新キャラ登場 - 本を書く心がけ(Vol.347)
https://bit.ly/hyuki-mm347

◆数学ガールに数学苦手なキャラクタが登場するという新しいチャレンジ(Vol.350)
https://bit.ly/hyuki-mm350

時の経つのは早いもので数学苦手な新キャラ「ノナちゃん」が誕生してから八週間が過ぎ、今週と来週の二回で今シーズンの十回が終了します。本当に早いものですね。

今回の新キャラ登場についてはかなり準備をし、時間を掛けて執筆してきました。今回、Webでの連載のもっともいい側面を体感できていると思います。それは「読者からのリアルタイムな反応」です。

Web連載を更新すると、多くの方がいつも話題にしてくださるのですが、今回の「ノナちゃん」については、いつもよりもずっと多くの反応がありました。しかも、いつもとは異なる読者さんも読んでくださったり、書籍で読むからWeb連載は追っていないという読者さんも読んでくださったりという状況になっていました。たいへん感謝です。

ノナちゃんとは長い付き合いになると思いますが、まずは残り二週分の更新に力を注ぎたいと思います。また、今シーズンの記事に関しては(まだ検討中ですが)早めの書籍化も考えたいですね..oO

◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」
https://bit.ly/girlnote

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「そういえば」の話。

結城は人と話すとき「そういえば……」と始めることが多いようです。つまり、相手が言ったことや話題にのぼったことに対して、何かしら連想したことや思いついたことを話すというスタイルですね。

個人的な考えですけれど、会話は「でも」で始めるより「そういえば」で始める方がうまく流れるように思います。相手が言ったことを否定するよりも、そこから続けていく方がスムーズなのでしょうか。議論の場合には「でも」が登場することは多いでしょうけれど。

* * *

体調がちょっと変なときの話。

結城は個人で仕事をしているので、自分の体調管理はとても大事です。この「結城メルマガ」も、Web連載「数学ガールの秘密ノート」も、私が寝込んでしまったら誰も代わりに書いてくれないからです。

結城は喉が弱くて、疲れたときや体調が変なときに、喉に違和感を覚えることが多いようです。「む、何だか喉がおかしいぞ」というときには、次のような対策を取ります。

・水分を摂る
・空腹が原因のときには食事をする
・食事は、冷たいものではなく温かいものを選ぶ
・漢方薬の「葛根湯」を飲む
・お腹にドライヤーをかける
・早めに眠る

これは結城個人に「効く」方法なので、あなたに合うかどうかはわかりません。基本的には「身体を温める」ことで解決しているような気がします。いくつか解説します。

「葛根湯(かっこんとう)」は、市販されている葛根湯エキスを顆粒状にしたものをまとめて買っておき、何包かをいつもカバンに入れています。完全に「これは風邪だな」という状態になる前に「何となく身体が冷えて調子が悪いぞ」というときに一包飲みます。

「お腹にドライヤーをかける」は、結城がもう何年も愛用している方法です。自分の部屋に小型のドライヤーを置いておき、「調子が出ないな」「何となく気分が乗らない」「気持ちがザワついて落ち着かない」というときに、お腹(特に下腹部)にドライヤーで温風を当てるのです。驚くほど気分が変わり、ぐっと落ち着くことができます。

「早めに眠る」は、いうまでもなく睡眠ですが、実は一番効くのがこれですね。体調がちょっと変なときは、とにかく早めに眠る。睡眠重要です。

体調がちょっと変なとき、あなたはどうしていますか。

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時間で区切る話。

インフラガールエンジニアのなつよさん(@infragirl755)がこんなツイートをしていました。

 >>>>

 定時で帰る人、仕事が早いから帰るのではなくて定時だから帰っているということに気づいた

https://twitter.com/infragirl755/status/1074664163916505089

 <<<<

なるほど、確かに。

「定時で帰る人」は「自分の仕事を手早く片付けて帰っている人」と錯覚しそうだけど、実はそうではない。「定時で帰る人」は「定時だから帰っている人」なのだという気付きですね。まったくその通りです。

ところでこの気付きは「日々の仕事の中で、コンスタントに進捗を出す方法」にも通じているように思います。仕事をしていると、つい「手応え」や「成果」に注目します。もちろんそれは悪くないのですが、手応えや成果だけに注目していると、それらがないときに、つらくなってしまいがち。

仕事に「手応え」があってもなくても、開始時間が来たら開始する。終了時間が来たら終了する。
仕事で「成果」が出せても出せなくても、開始時間が来たら開始する。終了時間が来たら終了する。

そのような進め方も大事です。やるべきことを「時間で区切る」わけですね。

「手応え」が得られない原因を探ったり、「成果」が出せない理由を調べたりするのは、また別途行うことにします。日々の仕事を続けていくためには「時間で区切る」という発想も重要だと思います。仕事は一日で終わるものではないので、コンスタントに進捗を出していくために時間で区切り、今日の分だけは進めるということですね。

* * *

小早川さんの話。

先日Twitterで「メモリちゃんと積んでくれ」という文を見て、一瞬「何を積むの?」と思ってしまいました。

もともとこれはどういう話かといいますと……会社で開発者にコンピュータを配布するときには、開発作業に支障をきたさないように「十分な量のメモリを積んでほしい」という意味でした。

でも「メモリちゃんと積んでくれ」というのを見て、結城は「メモリちゃん」という女性の名前だと勘違いしてしまったのですね。伝わるでしょうか。名字は、たとえば「小早川」とでもしましょう。小早川メモリさん。小早川メモリちゃん。

そういう女性の存在を仮定すると「メモリちゃんと積んでくれ」の「メモリちゃん」が人名に見えてきませんか、どうですか。「メモリちゃんと積んでくれ」……何を積むの?

この文の揚げ足取りをしているわけではありません。話し言葉ではよく「を」が省略されますよね。「メモリちゃんと積んでくれ」の代わりに「メモリちゃんと積んでくれ」のようになります。

Web連載「数学ガールの秘密ノート」は対話形式の文章なので、口語的な言い回しをどう書くかはずいぶん考えています。テトラちゃんは比較的ていねいな語りをするので書きやすいのですが、ユーリの語りを書くのは難しいのです。

たとえば「逆行列作れないよ」という発言は「逆行列作れないよ」のように表現することがあります。「が」を省略する代わりに読点「、」を入れていますね。

その他に頻出するのが「○○とは○○」という言い回しの代わりに「○○って○○」というもの。「とは」が「って」になっています。「aの逆数とは1/aのこと?」や「aの逆数というのは1/aのこと?」の代わりに「aの逆数って1/aのこと?」のようになります。

数学の物語なので、誤読や誤解を生まないようにしつつも、カジュアルな会話のようすを作り出すような調整をあれこれ行っているのです。

* * *

それでは、そろそろ今回の結城メルマガを始めましょう。

どうぞごゆっくりお読みください。

自分の文章をなかなか公開できない - 文章を書く心がけ

質問

結城さんのいろいろな文章を読んで、私もブログを始めたくなりました。

ただ、自分の内面をさらけ出すのは、やっぱり勇気がいります。公開を何度も考えましたが、なかなか行動に移せません。

Web日記やブログ、Twitterを長年続けている結城さんから、何かアドバイスをいただけませんか。

回答

ご質問ありがとうございます。また、結城の文章をお読みくださり、感謝です。

慣れるまでは、なかなか自分の文章を公開することができないものです。それはあなただけではないと思いますよ。

まず、あなたが書いた文章を公開するかどうかというのは、100%あなた自身の選択です。誰かから強制されるものではありませんし、誰かから禁止されるものでもありません。あなたが公開しようと思ったタイミングでいいし、無理しなくてもいいのです。

一つ言えるのは、文章を書く側の人(つまりあなた)が意識するほどは、文章を読む側の人(つまり読者)は意識しないものです。「こんなこと書いたらどう思われるだろうか」と意識するのは大事ですが、意識し過ぎる必要はありません。リラックスして「試しに公開してみる」くらいの感覚でもいいと思います。

そもそも、書き手が気にするほどは多数の人には読まれませんし、反応も来ません。一生懸命「読んで読んで!」と宣伝すれば別ですけれど。

その一方で、文章を公開することで得られるメリットはたくさんあります。文章を読む力や書く力は確実に磨かれるといえます。「読むのは自分だけである」というのと「誰か一人でも自分以外の人が読むかもしれない」というのとでは全然違います。

変な言い方になりますが、あなたが公開をためらう意識が大きいほど、公開したときの文章力向上は大きいかもしれません。それだけ自分の文章を意識的に書くことになるからです。

ご質問の中であなたは「内面をさらけ出す」という表現をしました。あなたがどのような文章を公開しようと思っているかはわかりませんが、文章は必ずしも「内面をさらけ出す」ものでもないように思います。また、現実問題として「内面をさらけ出す」ような文章を書くのは難しいです。文章を通して自分の考えていることを人に伝えるためには、しっかりと考えを深める必要があるからです。その意味では、公開することを前提として文章を書くことは、自分の考えを整理し、深める働きもあるといえるでしょう。

あなたは「公開を何度も考えた」ということですので、自分の文章を公開するかどうかを迷っているわけですよね。私の考えはこうです。

 文章を書くかどうか迷っている人は、書き始めた方がいい。
 文章を公開するかどうか迷っている人は、公開した方がいい。

きっと、新しい世界が広がると思いますよ。

ご質問ありがとうございました。

どこまで理解してから本を書き始めるか - 本を書く心がけ

質問

現在論文製作中の学生です。

結城さんがある分野の本を書く際は、書き始めるまでにどの程度までの習熟を目指しますか。

また「本が完成した」と言えるのはいつなのでしょうか。

論文を書き始めるまでにどこまでの理解度を求めるべきか、また書き出してから理解を深めるべきか、まだ不十分なのではないか、と悩むことが多いです。

回答

ご質問ありがとうございます。

あなたの論文のことはわからないので、結城が本を書くときのことを書きますね。

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