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わざとゆっくり書く(文章を書く心がけ)

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年8月4日 Vol.175 より

いそいで書かなければいけないときには、ゆっくり書く方がいい

文章を書くときに《わざとゆっくり書く》という話をしましょう。

いそいで文章を書かなければならないとき、つい、いそいで文章を書いてしまいがちです。あたりまえのようですが、実はそれ、あまりいい方法ではありません。

いそいで文章を書かなければならないときほど、ゆっくり書いた方が短い時間で書き上げられることが多いものです。

とても逆説的な話ですね。

書くべきことの全体像を思い描く

そもそも、文章をいそいで書くのはむずかしいことです。すでに頭の中に文章ができあがっているならばいいのですが、そうでない状態で文章を短時間で作り上げることはできません。

無理にいそいで文章を書こうとするのは、いわば「目的地を定めずに自動車で走り出す」ようなものです。一見、前に進んでいるように見えるのですが、実は逆方向に進んでいたために、結局は無駄な時間を使っただけという結果になりがちです。

いそいで文章を書かなければならないときに大事なのは、頭の中に「いま書くべきこと」をしっかりと思い描くことです。文章の方向性を定めるといってもいいですし、文章の全体像をイメージするといってもいいでしょう。ともかく「いま書くべきこと」がしっかりと思い描ければ、文章はスムーズに進むものなのです。自動車で走り出す前に目的地までのことを考えるのと同じです。

これは私固有の話かもしれませんが、文章をゆっくり書くようにすると、「いま書くべきこと」を頭の中に描きやすいように感じます。「いま書くべきこと」の中に頭がどっぷり浸かるような感覚かもしれません。きっとそれは、文章をゆっくり書くと、頭の中でその文章を何度も反芻することになるからでしょう。

頭の中に「いま書くべきこと」が描けていなければ、メモやアウトラインが手元にいくらあっても、文章をすばやく書く助けにはなりません。頭に情報がしっかり「ロード」されていなければ、メモもアウトラインも絵に描いたモチなのです。

文を一つ書いてじっくり眺める

具体的にどうやってゆっくり書くかという話をしましょう。

たとえば、いそいで書いてほしい原稿依頼を受けたとします。そのときに、短時間でぱぱぱぱっと書くのは危険な場合があります。いったん書けたとしても、文章全体の構成がうまく定まらず、修正のために多くの時間を使ってしまうからです。

ではどう書くか。

結城は「原稿依頼を受けたときに、最初に考えたこと」をひとつの文にして、それをエディタに打ち込み、しばらく眺めます。心の奥では、

 「早く書かなきゃまずいんじゃない? 早く書き進めようよ!」

という焦る声が響きますが、まずは無視。じっくりと最初の一文を検討します。

そして、文章を少しずつ少しずつ足していきます。

このようにすると、先ほど話したように、頭が「いま書くべきこと」にどっぷりと浸かります。そうすると、少しずつ少しずつ書くスピードが上がっていくのです。

落ち着いて状況をコントロールする

さらに、おもしろい現象が起きます。それは、

 「ゆっくり書いていると、自分の心が落ち着いてくる」

という現象です。

いそいで書いてほしい原稿依頼というのは、〆切までの時間も短いわけです。そうすると、どうしても焦りが出てしまいがち。うまくまにあうだろうか、ちゃんとできるだろうか、とドキドキする。

しかし、ゆっくり書くようにすると、私の中の無意識は、どうもこんなふうに考えるらしい。

 「お、私は焦りがちな状況であっても、ゆっくり落ち着いた対処ができているな。私は状況をコントロールしているぞ」

これは一種の錯覚なんですが、ゆっくり書くことで、自分が状況をコントロールできていると感じ、それによって自分の心がほんとうに落ち着いてくるのです。人間とはおもしろいものですね。

まとめ

いそいで文章を書くときこそ、ゆっくり書いてみましょう。

・書くべきことの全体像を思い描く
・文を一つ書いてじっくり眺める
・落ち着いて状況をコントロールする

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