大学に入っても「競争としての勉強」のステージからシフトできない(学ぶときの心がけ)
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大学に入っても「競争としての勉強」のステージからシフトできない(学ぶときの心がけ)

質問

こんにちは。現在大学生のものです。

なんと愚かな、あるいはなんと贅沢な、と思われるかも知れません。いえ、実際に自分でもそのように感じているのですが、私には悩みがあります。

私は、新たな知識を得ること、新たな概念や発想に触れて「なるほど!」という知見を得ることに対する喜びや楽しさは知っているので、決して勉強が嫌い・苦手というわけではありません。

しかし、中高時代の学問に対する最も大きいモチベーションは「模試や校内テストの成績における順位を上げること」でした。オンライン対戦ゲームで強くなりたい、強豪になりたい、といった動機のそれと同一のものと思われます。もしかすると順位を上げることや、自分が成績上位層に位置することに伴う賞賛が心地よかったのかも知れません。

その結果として、超難関大とは言わずともそこそこ難関クラスの大学に合格することができました。

しかし今になって、他人との競争をモチベーションとしていたために、二つの悩みに直面しています。一つは「東大や京大といったトップに上り詰めることができなかったことに対するやるせなさ」で、もう一つは「なぜ、なんのために私は今勉強しているのだろう、という問いに答えられず、学問に対するモチベーションが上がらないこと」です。

おそらく、学問の本来のあるべき目的というのは「自分の人生を豊かにするため」といったところかと愚考するのですが、今まで抱いていた「競争としての勉強」のステージから「自身の人生を豊かにするための学問」というステージにシフトすることがうまくできず、悶々としています。

この悩みは自分自身で解決するべきであることは理解しているつもりです。しかしどうにも解決の糸口が見出せずにいます。どうか私に解決のヒントを示しては頂けませんでしょうか。

結城浩のメールマガジン 2019年7月30日 Vol.383 より

回答

ご質問ありがとうございます。あなたのお気持ちはよく伝わりますし、よく理解できます。あなたの解決のヒントといえるかどうかはわかりませんが、私の思うところを書きたいと思います。

「オンライン対戦ゲームで強くなりたい」という感覚に近いという気持ちはよくわかります。また、それは実際楽しい体験でしょう。自分が行う勉強という活動が数値化されて見え、さらにそれが自分に対する肯定的な評価に繋がるのですから。

あなたの文章を読むと、あなたの賢さはよく伝わります。あなたは自分が置かれている状況をよく観察し、それをしっかり説明しているからです。自分の状況説明がしっかりできるというのは、自分の現在を客観視できているともいえますね。それは基本的にいいことだと思います。

しかしながら、逆説的にそれが、つまりあなたの賢さが「さまざまな物事を決めつけ過ぎてしまう」という部分もありそうだなと感じました。決めつけというのは「これはこうに違いない」「これはきっとこうあるべきだ」という態度のことです。

「学問の本来のあるべき目的」の一部には、確かに人生を豊かにする部分があるでしょう。私も同感です。しかし、学問や人生はそんなに一枚岩ではありません。純粋なものだけではなく、もっと俗っぽい、ドロドロした部分もあると思いますよ。人間の活動なんですから。

そして、落ち着いて考えてみるならば、あなた自身が難関大学に合格したこと、難関大学に合格するだけのスキルを身につけられたことというのは、競争やゲーム感覚でがんばった部分もあるのではないでしょうか。

「本来こうあるべきだった」「自分はそうできなかった」のように、固定的なゼロイチで判断する必要はありません。あなたは「そのときどきにおける最適解を求めて努力してきた」といえると私は思いますよ。

もっとも、そんなことは私が言うまでもなくあなたは理解しています。なぜなら、自分が現在直面している状況を「ステージのシフト」としてしっかりとらえていますから。

 * * *

学問は、教科書という形であなたの前に現れるとは限りません。あなたはいま切実な問題として、人生のステージ変化にどう対処するかを考えています。あなたの前には解決したい問題があります。

あなたは「よりよく生きたい」と願う。自分が高校までに考えてきたストラテジーは大きく偏っていたようだ。困ったぞ。新たなパラダイムを身につけていかなければならないぞ!

でもちょっと待ってください。

あなたが考える「ステージのシフトにうまく対処する」というのは、少し身を引いて考えるならば、あなたが考える「オンライン対戦ゲームで強くなりたい」という発想と(メタなレベルでは)大差ないようです。ゲームを少しスケールアップしただけで。

「学問の本来の意味とはこれこれだから、それに対処しよう」と決めつけるのではなく、もう少し自分をリラックスさせて、楽しいものや興味が持てるものを探してみてはどうでしょうか。

「人生を豊かにする」は大変結構です。でも、「人生を豊かにしよう」として何かを行うのは少し変といえば変です。好きなことをやる、気持ちがいいもの、なぜか心が惹かれる活動…それに日々没頭する。その結果として、あるときふと「おや? 自分はなんだか豊かな時間を過ごしてるぞ」と思うのです。

本当の学びというのは、しばしば学びの姿をしていません。遊びに見えるときもあり、単純作業に見えるときもあり、人生の悩みに見えることもあります。

おもしろいこと、淡々と進むこと、苦しみもがくこと。つまりは自分が深く関わるところに大きな学びがあります。

いろんな思い込みや、あなたがいつのまにか考えている決めごと、シバリ、「これは本来こういうもの」という枠組み。

それらを取っ払って「そういえば私の好きなことって何?」「本当に本当に心からおもしろいと感じるのは何?」と考えてみる。すぐには答えは見つかりません。何年も何年もかかるかも。

でもそうやって自分で考えて進むとき、誰に言われたからではなく自分の手探りで迷いつつ進むとき、あなたは自分の人生を生きているといえます。自分は何を考えてどうしてきたか。自分はそもそも何をしたいのか。どう生きていきたいのか。

しっかり考えて毎日を過ごしていく。そのために、あなたの前にはいま時間が与えられています。考える時間、試す時間、振り返る時間…

考えましょう。感じましょう。悩みましょう。そうやって、毎日を一歩ずつ歩んでいくのです。

あなたはこれからもっともっと自分の新しい姿を見ることになるはずです。

応援しています。頑張ってください!

ご質問ありがとうございました。

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結城浩はメールマガジンを毎週発行しています。

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本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『暗号技術入門』『数学文章作法』など多数。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。