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メディアの特性に合わせて文章を整える(文章を書く心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです(結城メルマガVol.114より)

文章を書くときに心がけていることはたくさんあります。

その一つに、

 「読者が読む状態にできるだけ近づけて読む」

があります。

自分は書き手として、できるだけ自分が書きやすい環境で書きます。手になじんだエディタを使い、使い慣れたマシンを使い、自分が読みやすいフォントで、字の大きさで書きます。

でも、それで終わりにしてはいけません。

読者が読む状態を想像し、できるだけそれに近づけた環境を作り、その状態で自分の文章を読み返すのが大切です。そうすることで、読者がどんな印象を受けるかを身近に感じることができるからです。

たとえば、この文章の初出は自分の有料メールマガジン「結城メルマガ」ですが、結城は自分で自分のメールマガジンを購読しています。そうすると、読者にメールが届くタイミングと同じタイミングで自分にもメールが届きます(当たり前ですね)。そうすると、読者がどのような気持ちで結城が書いた文章を読むのか、どういう環境で読むのかをより身近に感じることができるのです。

紙の本の場合も同じです。結城は書店に行き、自分の本がどんなところに並んでいるかを確認します。そして、ぱらぱらと立ち読みしたり、他の本と読み比べたりします。それはきっと、読者もそのような行動を取ると思うからです。

本を書くときには、読者が頭から読んでいくことを想定しますが、書店でぱらぱらめくってみると、読者は必ずしも頭から読むとは限らないことに気付きます。全体をざっと見て「自分が読めそうかな」「面白そうかな」とあたりをつけますよね。書き手として読者がどのような行動を取るかを想像するのは、とても大切です。

Webで文章を公開するときには特に、このような「読者に近い状態で文章を読む」という経験は大事になります。なぜなら、ブラウザやOSの違いで、見栄えがずいぶん異なるからです。

とはいえ、ソフトウェアの動作テストをやっているわけではないので、すべてのOS、すべてのブラウザで網羅的なテストをするのはちょっと無理があるでしょう。それでも、できるだけ機会をとらえて、自分が文章を公開しているWebサイトを見るのは大切なことです。

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ちょっとした経験談を一つ。

結城はこのnote(ノート)というサイトで、文章を公開し、テキストを販売しています。このサイトは購入テキストをHTMLメールで購入者に送信します。つまり、いったん購入したノートは購入者の手元に残るということ。販売者がノートをサイト上で書き換えても、あるいは極端なことをいえば削除しても、購入者の手元にはノートがちゃんと残ります。

でもあるとき、結城が読者の気持ちになってノートを購入してみたところ、Web上で見たときのレイアウトと、メールで見たときのレイアウトがずいぶん違っていることに気付きました。特に、段落巻のアキがずいぶん違い、文章の印象がWebとメールでがらっと違っていました。これはとてもいやだったので、運営さんに連絡したところ、数日のうちに修正されました。

このように「読者の気持ちになって」という態度は、書き手にとって大切です。さもないと、せっかく文章を書いたとしても、意図がうまく伝わらなかったり、誤解されたりする危険性があるからです。

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書いているメディアが変わると、文章が変わることはよくあります。

たとえばTwitterで書く文章と、メルマガで書く文章と、書籍で書く文章はずいぶん違うものになります。

結城メルマガでは、Twitterでの連続ツイートを整理して読み物仕立てにすることがありますが、あれは簡単なようで意外に手間がかかるものです。

Twitterでの連続ツイートの場合、ツイートとツイートの間の関連が薄くても意外にするっと読めてしまいます。あまり不自然さを感じません。

でも、まとまった文章として読もうとすると、論理的なつながりが不明確だったり、どんどん話題がずれていったりして、読みにくくなってしまうことがあるのです。

その読みにくさを整えて文章にまとめようとすると、もとのツイートとは違う文章になってしまうことすらあるのです。

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結城は「数学ガールの秘密ノート」というシリーズの文章を書いています。Webに連載したものを書籍化しているのですが、Web連載と書籍にしたものの間では、ずいぶん違いがあります。

Web連載は、Webで読むのが基本なので、画面一つ分くらいで話の見通しが付くように分量を考えます。それから、Webならではの「勢い」のようなものもわざと残します。ちょっと過剰なくらいの重複もあまり気にしません。

それに対して書籍は、だいたい一ページか二ページ前後で話の見通しが付くように分量を考えます。それから、Webよりは「保守的」なトーンに抑えるようにしています。 また、書籍では「練習問題と解答」や「研究問題」のような要素も追加します。それは読者が書籍を読んでいる様子を想像して生まれたものです。

Web連載と書籍では基本となる素材は同じです。でも、読者が触れるメディアの特性に応じてアレンジをしているといえましょう。

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メディアの特性という点で非常に興味深い例をお話しします。

以下の「ハシモトスズ」さんのコミックは、ブラウザでスクロールしながら読むという特性を効果的に使った表現です。たいへんおもしろいので、未読の方はぜひご一読ください。

 ◆planetarium
 http://www.hasimotosuzu.org/planetarium/

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書き手は、読者が読む状態に近づけて読むことが大事」という話と、「メディアの特性に合わせて文章を整える」という話を書いてきました。

これはどちらも、結城がいつも書いている、

 《読者のことを考える》

の一つのあり方ですよね。

自分の書いたものが、どのような形で読者にいつ届くのか。読者がそれをどのように開いて読んでいくのか。そのような事柄に健全な関心を持つのは、書き手として自然なことです。しかし、必死で書いているときには意外と忘れがちなもの。

ですから、せめて読者の状態に近づけて読み返すことを大切にしたい。

結城はいつも《読者のことを考える》という原則を掲げていたい。

これは《あなたのことを考える》という原則ともいえます。

「わたし」の文章を読む「あなた」のことを考える。

結城は深い確信を持って《読者(あなた)のことを考える》という原則が正しいといえます。なぜなら、これは「愛の原則」だからです。愛はすべてを結ぶ帯として完全です。

書き手には限界がある。でも。

でも、《あなたのことを考える》という愛の原則に従うのは正しい。

結城はそう確信しているのです。

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http://www.hyuki.com/mm/

※Photo by Walt Stoneburner.
https://www.flickr.com/photos/waltstoneburner/7946581522/

※以降に文章はありません。「投げ銭」感謝。

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