
変化が激しい分野ですぐに古くなる知識をどう学ぶか(仕事の心がけ)
質問
コンピュータ関連の技術では、勉強した知識がすぐに古くなって役に立たなくなるものが多い印象があります。
結城さんは、コンピュータ関連のことで「必要だから勉強するけど、本音をいえば、すぐに古くなってしまうから勉強したくない」と思うことはありますか。
もしそう思うことがあるなら、その気持ちにどう折り合いをつけていますか。教えていただけるとうれしいです。
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月27日 Vol.309 より
回答
ご質問ありがとうございます。
これは気持ちが非常によくわかる質問です。
変化が激しい分野で勉強しなければならないのは、なかなかつらいものがあります。
基本的に私は「できるだけ古くならない知識に関連した仕事をしよう」とは心がけています。「すぐに古くなる知識」を学ばなければならない状況のときには、「学び方を含めて学ぶ」ように心がけています。
以下のページにも書きましたが「時代に追いつくのが大変なのは自分だけではない」という視点も大事です。そこに飯のタネがある可能性があるためです。
情報不安について
古くならない知識に関連した仕事
「古くならない知識に関連した仕事」について補足します。
たとえば私は、個々のアプリの本は書かないようにし、プログラミング言語に関連した本を書くようにしてきました。それは個々のアプリより、プログラミング言語の方が長生きであると考えたからです。もっとも最近は必ずしもそうではありませんが……
数学の本は、分野にもよりますが、数年で古くなるということが比較的少ないので好きです。
学び方を含めて学ぶ
「学び方を含めて学ぶ」について補足します。
知識を身につけるとき、もしも「知識だけ」を身につけたなら、その知識が古くなったら使えなくなります。あたりまえのことですけれど。
でも、知識を身につけるときに「知識を身につける方法(つまり学び方)」も合わせて身につけるなら、知識が古くなってもすべてが無になるわけではありません。
それは「学び方を学ぶ」態度なので「メタな学び方」といえます。また、知識を身につけるときに「少し抽象化して学ぶ」ともいえます。機械学習でいう汎化能力にも似ています。それは、賞味期限が短い知識に限らず、自分の学びを加速させる方法でもあります。
他人に尋ねるときの工夫
他人に尋ねるときには、「知識だけ」を尋ねるのではなく、「知識の身につけ方」を尋ねるのはいいことですね。つまり、
「〇〇は〇〇ですか?」
と尋ねるだけではなく、
「あなたは〇〇をどうやって知りましたか?」
のように尋ねるということです。
ストックとフローの違いを意識する
もう一つ意識したいことがあります。それは蓄える「ストック」と流れる「フロー」の違いを意識することです。
多くの場合、知識をストックすることだけに注力していると破綻します。新鮮な知識のフローの中に自分の身を置くことを意識しましょう。知識のフローの中から、現在の自分の必要なものや有効なものを選り分ける目を養うことです。
知識を見分ける目を求める
要するに、自分が手に入れるべきものは、「知識」ではなく「知識を見分ける目」なのです。
では、どうやったら「知識を見分ける目」を養えるのでしょう。それは一人一人違うでしょうね。だってその「目」こそ、各人の個性になるわけですから。
これはいい。これはわるい。これは必要。これは不要。これは手に入れよう。これは捨てておこう。この感覚が「目」ですが、それは各個人の価値観に密着しているはずです。
みもふたもない話ですが、人は求めるものを手に入れるものです。知識を求める人は知識を得ます。目を求める人は目を得ます。
私は何を求めるべきか?
このような問いを心に保ち続けることは、変化が激しい現代において大切なことではないかと思います。
ご質問ありがとうございました!
結城浩はメールマガジンを毎週発行しています。