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理解は複雑なプロセス(学ぶときの心がけ)

理解の話。

ある先生からこんなエピソードを聞きました。

勉強がよくできる中学生が「確率」で引っかかり、どうしても納得がいかず、前に進めなくなり、次第に成績も落ちてきた。先生に勧められて『数学ガールの秘密ノート/場合の数』を読んだあと、急に理解が進み、結果的に成績も回復した。うまく説明できないけど、何かを悟ったらしいです。

もちろん、著者としてそういうエピソードはうれしいですが、この話を聞いたとき結城は別のことを考えていました。それは、いくら成績が良い生徒でも、何かに引っかかって理解が進まなくなるという現象はよくあるということです。

何かに引っかかり、理解が進まなくなるというのは、必ずしも本人が悪いわけではありません。能力が低いわけでも、そのときの教師が悪いわけでも、教え方や課題が悪いわけでもないことがあるのです。

まじめに数学に向かう人や、ほんとうに理解したいと願う人の場合は特に、理解が進まなくなるという現象がありそうです。

人間の理解は、コンピュータにデータをダウンロードするのとは違います。ボタンを押して時間が過ぎれば理解完了!とは行かないのです。

大事なところで引っかかったなら、できれば、疑問点の周りを散歩したり、問題と一緒にダンスを踊ったり、数式と一緒にコタツに入ったり……謎とともに時間を過ごすのがいいのです。できれば。

「こんなの、理解できるだろう!」と怒鳴っても、理解が進むわけではありません。

「あと三時間で理解すること。用意スタート!」という要求は、いささかナンセンスです。

理解とは、複雑なプロセスなのです。

理解のためには忍耐が必要なことも多いでしょう。「数学は魅力的である」と感じている人は、忍耐しやすいものです。

「数学には何かしらホンモノの匂いがする」と感じている人もまた、忍耐強くいられるでしょう。

教師の真摯な態度や、学ぶ仲間の誠実さ、それらは理解とは無関係に見えるかもしれませんが、数学の学びを底支えしていると思います。

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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年1月3日 Vol.249 より

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