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数学の勉強方法を教えてください/センター試験/「ノナちゃん」の書籍化/再発見の発想法/生きる気力/人生を共にする/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2019年1月15日 Vol.355

目次

・生きる気力を失っている
・センター試験直前のアドバイス - 学ぶときの心がけ
・数学の勉強方法を教えてください! - 学ぶときの心がけ
・人生を共にする相手としての「好き」とは
・数学苦手な新キャラ「ノナちゃん」の書籍化へ向けて - 本を書く心がけ
・アーカイブ - 再発見の発想法


【配信ミスのお詫び】2019年1月15日07:00の配信の際に「結城メルマガ」マガジンに格納するのを忘れてしまい、メールとして配信されず、またマガジンの定期購読している方にもWeb上で有料表示になってしまっておりました。これは結城の設定ミスです。お詫びいたします。
https://mm.hyuki.net/n/n673e8d263529?magazine_key=m73f865053b52


はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

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結城は、物理学者ファインマン先生の名言を紹介するbot (@ProfFeynman)をフォローしています。含蓄のある明言が多いのですが、先日は、こんなツイートがありました。

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There is no authority who decides what is a good idea.

https://twitter.com/ProfFeynman/status/1080146955022553090

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翻訳すると「何が良いアイディアかを判断する権威など存在しない」とでもなるでしょうか。

ファインマン先生がどういう意図でこの言葉を出したのかはわからないので、以下に書くのはこの言葉からの連想です。

確かに、権威によって「これは良いアイディアである」や「これは良いアイディアではない」と判断することはできません。

もちろん、えらい先生や有名な先生が何かを言ったとき、それを尊重するのは悪いことではないでしょう。経験が豊かで、他の人が知らないことや気付かないことに目を向けることができている可能性があるからです。

しかし、「これは良いアイディアである」という主張が「なぜならば」という理由を持たないとき、その権威はいささか怪しくなります。それは、つまり「権威のみ」が根拠になることの危うさともいえるでしょう。

数学や自然科学では特によく当てはまります。どんなにえらい先生が何かを考え何かを主張したとしても、数学の論理やこの自然のあり方をねじまげることはできませんから。数学や自然科学の研究においては、謙虚さが必要なのです。

そこで私はふと、cakesでのWeb連載「数学ガールの秘密ノート」第249回で「僕」が語ったことを思い出しました。

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僕「そこに、数学のおもしろさの一つがある。誰がなんと言おうとも、正しいものが正しい。話す人がどれだけ偉いか、どれだけ年が上か、どれだけパパッと答えるか、どれだけ大声を出すか、そんなことは、正しさとは無関係」

ユーリ「《ささやき声でも真理は真理》」

https://bit.ly/girlnote249

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私も同じように感じます。ここでユーリが言っている《ささやき声でも真理は真理》というのは、数学ガールに登場する双倉図書館に掲げられている言葉です。

権威というものについて、あなたはどう思いますか。

* * *

二つの軸で整理する話。

湊川あいさん(@llminatoll)が一つの図と共に、こんなツイートをしていました。

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A.楽しいしお金になる活動
B.楽しくないけどお金になる活動
C.楽しくてお金にならない活動
D.楽しくないしお金にもならない活動

Cの時間を意識して増やすと、引きずられるようにAが自然と現れる

https://twitter.com/llminatoll/status/1074282798003810304

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◆「楽しいかどうか」と「お金になるかどうか」という二つの軸で活動を整理した図(湊川さんによる)

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この図は「楽しいかどうか」と「お金になるかどうか」という二つの軸で整理しています。二つの軸があるので四つに分かれるというのは、当たり前といえば当たり前です。でも、一つ一つを見てじっくり考えるのは意味がありそうです。

湊川さんが書いているように「Cを育ててAにする」(お金にならないけれど楽しい活動を育てて、楽しい上にお金になる活動にする)というのは素敵な考えですね。

もしかしたら、たとえばBとCの活動しか経験がない人もいるかもしれません。つまり「B.楽しくないけどお金になる活動」と「C.楽しくてお金にならない活動」という二つです。そういう人は、楽しくてしかもお金になる活動(つまりA)の経験がないので「お金をもらう仕事は楽しくなくて当然」という発想になるかもしれません。

また、こんなケースもありそうです。お金を度外視して楽しいからやっている活動(つまり右下のCの部分)があった。でもふと気がつくと右下のCから、右上のAにポンと移動していたというケース。言い換えると「お金にならないと思っていたのに、お金になった!」というケースです。

活動を育てているという意識はなかったのに、 自分の「楽しい!」という気持ちを追求して活動した結果、他の人にも「楽しい!」というインパクトを与えて、結果的に収入につながるような場合といえます。

右上のA「楽しくてお金になる」は楽しいので、注意しないとワーカホリックになりそう!

「楽しくなくてお金にもならない」(つまり左下のD)という部分を、「お金にはならないとしても楽しい」(つまり右下のC)という部分に移動する試みも生活の品質を上げてくれそうです。

たとえば「確定申告の準備」という活動は、左下のDに相当すると私は感じます。でも「確定申告の準備のためのプログラムを作って使う」という活動に変化させれば右下のCに移動してくれるのです。

湊川さんのこの図は、そんな発想をうながす図になっています。

この図では、自分の活動を「楽しいかどうか」と「お金になるかどうか」という二つの軸で整理しています。でも他の軸を持ってくることもできるでしょう。ちょっと考えると以下のような軸が思いつきます。

・未来につながるかどうか
・自分のためか社会のためか
・これまでの継続か新規開拓か
・インプットかアウトプットか


あなたなら、自分の活動を俯瞰するのにどんな軸を考えますか。

なお、湊川あいさんは『わかばちゃんと学ぶ Git使い方入門』など、楽しい本をたくさん書いていらっしゃいます。

◆湊川あいさんの著者ページ(アマゾン)
https://amzn.to/2CnPcFk

* * *

映画の原題の話。

映画『アナと雪の女王』の原題は『Frozen』です。直訳すれば「凍り付いて」ということになります。『アナと雪の女王』の方が未視聴段階でも内容がわかりますが『Frozen』の方が深みがあってすごいと感じます。深みがあるというのは、凍り付くという表現が、この映画の中では多義的で比喩的な意味も持っていることに気付くからです。登場人物の心理の変化ですね。

映画『塔の上のラプンツェル』の原題は『Tangled』で、こちらは「もつれて」という意味。ラプンツェルの長い髪の毛がからみあいもつれるだけではなく、状況がもつれているのも表現しているのでしょうか。

映画『カールじいさんの空飛ぶ家』の原題はすごいです。何と『Up』という一単語ですから。確かに「上へ」ですし、一度聞いたら忘れませんが、タイトルをこの一単語にするという思い切りに感動します。

スティーヴン・キングの『IT』は有名なので、さすがに邦画になっても『IT』です。でも副題が付いて『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』となります。

タイトルを付けるのは難しいものですね。

拙著『数学ガール』は、たいへんうまくいったタイトルだと思っていますが、最初のアイディアでは『数学ガール/ミルカさんとテトラちゃん』というタイトルにする予定でした。でも編集長から『数学ガール』だけにしましょうという提案を受けて修正したのです。いまにして思えばその提案は大正解だと思います。

『数学ガール』という五文字は短くてインパクトもあり、しかも内容をよく表しているからです。

* * *

では、そろそろ今回の結城メルマガを始めましょう。

どうぞごゆっくりお読みください。

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生きる気力を失っている

質問

愛する人に疎ましがられ、いまの私は生きる気力を失っています。

こういうとき、どうしたらよいのでしょうか。

回答

時間です。

時間を味方につけましょう。つらいつらいつらいときは私もありました。つらいつらいつらいときを、何とかやり過ごすだけの力をかき集めましょう。気持ちをしっかり持って時間を過ごすのです。

あくまで私の場合ですが「信頼できる他者」が、大きな助けになりました。自分じゃない誰かと関わること。それは大事な一手です。

愛する人に疎ましがられることは本当につらいです。愛する人との関係は、人の心と身体に直接的な影響を与えます。気力を失い、どうすればいいか、まったく困り果てます。こんな状態が永遠に続くなんてと感じます。

しかし、信じられないかもしれませんが、人は変わり、状況は変化します。

ですから、時間を味方につけるのです。自分一人では難しいことが予想されるので、何とか「信頼できる他者」と関わり、乗り切りましょう。

あなたのこと、祈っています。

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