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逢ひ見ずは恋しきこともなからまし音にぞ人を聞くべかりける

#読人しらず #古今和歌集 678 #jtanka #恋  

もしもあなたに逢わなかったならば、これほど恋しく思うこともなかったでしょうに。あなたのことはただの噂としてだけ聞くべきだったのでしょうねえ。

「見ずは」は「見+ず+は」。「見」は動詞「見る」の未然形。「ず」は打消の助動詞「ず」の未然形。「は」は係助詞。「見ずは」は「見ないならば」の意味。

「なからまし」は「なから+まし」。「なから」は形容詞「なし」の未然形。「まし」は反実仮想の助動詞。「なからまし」は現実に反することを想像する表現。「(現実とは違って)……でしょうに」という意味。ここでは「逢わなかったら恋しくなかっただろうけれど、実際には逢ってしまったので、恋しく思ってしまう」という意味。

「音」は「お話」や「噂」のように耳で聞くだけのもの。ここでは「直接逢って相手を見る」ことと、「直接は逢わず、噂にだけ聞く」ことを対比しています。

「ぞ……ける」は係り結び。

「聞くべかりける」は「聞く+べかり+ける」。「べかり」は助動詞「べし」の連用形。「ける」は助動詞「けり」の連体形(係り結び)。「聞くべかりける」は「聞くべきだったのだろうなあ」という意味。

「噂として聞くべきだった」というけれど、もちろん「もう逢いたくない」という気持ちではありません。相手が恋しくて「もっと逢いたい」といっているのです。

あひみずは こひしきことも なからまし おとにぞひとを きくべかりける
あいみずは こいしきことも なからまし おとにぞひとを きくべかりける

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