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十円玉と五円玉で泣いた思い出

能楽師の安田登さん(@eutonie)がこんなツイートをしていました。

(能楽師の安田登さん)僕はひらがなを覚えるのがもっとも遅い子のひとりだった。文字というものがよくわからなかった。書いていても、これが何だかわからないうちにマネだけをしていた。「あ」が「a」という音に結びつかない。だから何度書いても全然覚えられなかった。そして、だから文字に興味を持つようになった。
https://twitter.com/eutonie/status/810988185434001409

結城は、このツイートに深い感動を覚えました。他の人と比べて遅いこと、わからないこと、覚えられないことは、長い人生で見たらぜんぜん悪いことではないのだと感じたからです。

このツイートを見て結城も自分の体験を思い出しました。

結城は小さいころ「十円と五円を合わせて十五円になる」ということが理解できませんでした。

祖母と姉が二人がかりで教えてくれるのですが、どうしても理解できず、しまいに大泣きしたのを覚えています。

ここにある十円玉、これが十円っていうのはわかる。
ここにある五円玉、これが五円っていうのもわかる。
でもその両方を合わせたら、十五円だっていうのがわからない!
(大泣き)

何がわからないのか、自分で説明することはできない。でも、わからないという事実ははっきりしている。納得できてない事実も、はっきりしている。おばあちゃんとおねえちゃんが一生懸命教えてくれるのも、はっきりしている。

いくら一生懸命教えられても、わからないものはわからないし、わからないことを自分で説明できないのはもどかしい! とてもくやしい! 悲しい!!

(いま思い出しても、涙がにじむくらい悲しいです)

あのときの私の気持ちは、『数学ガールの秘密ノート』に登場する「ユーリ」というキャラクタに通じるところがあるかもしれません。彼女の根底には、十五円を前にして泣き出した幼い結城少年が生きているようです。

そのときに教えていた祖母と姉はどんなことを思っていたのでしょう。

いま、遠い記憶をたぐってみます。祖母と姉は困惑してはいたけれど、幼い結城を決して怒ってはいませんでした(幸いなことです)。「理解できないことで怒られた」記憶はまったくありません。ギャン泣きしている私をなだめたり、はげましたり、ていねいに教えたりしている祖母と姉のようすが思い出されます。

十円と五円で十五円になることが理解できず 大泣きした私。そんな私が現在は数学読み物を書いているなんて不思議な話ですね。

それにしても、いったい、何が理解できなかったんだろう。

結城浩のメールマガジン 2016年12月27日 Vol.248 より
※追記:この文章を書いたのは2016年のことですが、2021年の現在読み返してみると「数学ガールの秘密ノート」に出てくる「ユーリ」だけではなく「ノナちゃん」にも通じるものを感じます。『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』を書いているときにこの結城のエピソードを思い出すことはなかったのですけれど。

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