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数学愛好家としての学び(学ぶときの心がけ)

数学ガールをはじめて刊行したころに比べて、私の理解できる数学の世界がほんの少し広がったと感じます。それは、本を読んで勉強したこと、本を書いているうちに気づいたこと、Twitterやメールで教えてもらったことのおかげですね。私にたくさんのことを教えてくださるみなさんに感謝です。

結城は数学者ではありません。数学に関わる研究者でもありません。個人的な数学愛好家で数学に関わる読み物を書いているという立場でしょう。

個人の数学愛好家の場合は、やさしいかむずかしいかだけではなく、信頼できるかどうかという観点で数学の本を選ぶのがいいと思います。いくらやさしくても信頼できなければ困りますから。大学の教科書は基本的に信用できます。複数の数学徒(数学を学んでいる方々)や、複数の数学の先生が推薦している本は一応信用できると思います。

「わかったふりをしない」「自分が本当にわかっていることは何かを知る」ということをきちんと守れば、数学を学ぶ上での「大失敗」はあまりしないと思っています。知ったかぶり厳禁。わかったふり厳禁。でも、それとともに「これは要するにこういうことではないかと思う」と失敗を恐れずに思い切って表現してみることも大事でしょう。

個人の数学愛好家は大学でいうところのゼミがないので、自分で「危ういことを言って正してもらう場」を持つことが大事だと思います。もちろんそのためには「自分のまちがいを認める」という心が必要です。

要するに「正しさに対する敬意」がいるということ。自分をえらそうに見せたり、自分を賢そうに見せたりすることではなく「何が正しいの?」に関心があるかどうかですね。

個人の数学愛好家の場合には、新しい定理を発見して数学を前進させるというよりは、自分がどのように数学を理解するか、どのように数学を図や言葉や動画で表現するか、どのように数学を楽しむかに重きが置かれると思います。そのためには自分が学ぶ場、表わす場、そしてまちがう場が必要になるでしょう。

自分がどこにそのような場を作るかは各人の自由ですが、そのような場を見つけて育むことは、長い人生に大きな喜びと深みを与えてくれるはずです。幸いにして、インターネットはそのような場を作ったり、同好の士を見つける助けとなってくれるはず。ネットにはたくさん数学愛好家がおりますし、あちこちで数学の読書会や勉強会は開かれています。

直接人に会わなくても、数学的な内容をブログに書いて、いろんな人に読んでもらい、数学に造詣の深い人にツッコミを入れてもらうだけでも、ずいぶん勉強になると思います。

おそらくは(勝手な想像ですが)、自分の羞恥心や思い込みが一番大きな障害物です。こんなこと言って恥をかいたらやだなとか、誰も私の言うことに耳を傾けてはくれないはず、とか。

数学に限りませんが、自分が一生学んだり楽しんだりできる「何か」を見つけることは、とても大切なことだと思います。見つけなくちゃダメ、と言ってるのではありません。見つけられたら、なかなか豊かな時間がありますよ、と言いたいのです。

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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年8月9日 Vol.228 より

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