
就職を考えたくない(仕事の心がけ)
質問
結城先生、勉強になるメルマガを毎週楽しみに読んでいます。
匿名希望で質問があります。僕は大学生なのですが、先日先生がツイートなさっていた「選択肢が提示されない」というのが気になっています。あれはどういう意味だったのですか。
僕はもうすぐ卒業や就職を意識しなくてはいけなくて、でも就職のことを考えたくなくて大学院に行くのもいいかもと何となく考えているヘタレなんですが、もしかしたら先生がツイートしていた「選択肢が提示されない」というのと関係しているのかもしらないと思います。
勉強をするのはまじめにできているのですが、自分が就職するという意味がわかりませんし、自分には特に何がしたいということがないので、どこに行きたいという希望もないのです。
そんな希望を出せるほど楽勝な時代でもないとわかっているのですが・・・成績がよいだけではだめなんだとわかっているのですが、何をしたいか僕にはわからないんです。友人はいますが、進路の話はできないです。
回答
結城メルマガを毎週ご愛読ありがとうございます。
また、結城のツイートも読んでくださったのですね。
「選択肢が提示されない」というツイートというのは、おそらく以下のものだと思います。
小学校、中学校、高校、大学と来て、急に「次に自分が選ぶ選択肢」が誰からも提示されないことに焦る学生さんは多いんじゃないかと想像しています。特に、勉強をまじめにする学生さん。
https://twitter.com/hyuki/status/329855518216691713
これは結城の2013年5月2日のツイートですが、このときに考えていたのは「自分の進路」ということでした。
結城が自分を振り返ったとき、小学、中学、高校、大学と勉強がそれなりにできた人というのは「自然と決まる道」のようなものがあったように思います。「成績がこのくらいなんだから、じゃあ偏差値からいって、この学校かな」という具合に。
その良し悪しをいいたいわけではありません。結城の場合には、進路についてそれほど悩まずにいわば「道なり」に進んで来ちゃった感覚があります。「この成績なら、あの学校かこの学校が選べる範囲だし、もう少しがんばるつもりなら、この学校」のような選択肢がどこかからやってきた。存在した。
でも、そのような選択肢がありえるのは(あったとしても)、せいぜい大学選択くらいまでで、そこから先の自分の生き方、職業の選択については、ちょっと違うストラテジーが必要になる。目の前に選択肢なんてないし、周りを見て「自分と同じような人」と「同じような道」を歩むというわけにもいかない(んじゃないだろうか)。
若い頃の話ですが、急に「あ、自分の目の前には選択肢なんて実はないんだ」ということに気づいたとき、けっこう恐かった。いまにして思えば、いささか過剰な恐れを抱いていたように思うのですが、若い時代には、それはしかたがないですね。
そんなことをぼんやりと考えながら先日のあのツイートをしたのでした。
ですから、あなたがおっしゃるような、
僕はもうすぐ卒業や就職を意識しなくてはいけなくて、でも就職のことを考えたくなくて大学院に行くのもいいかもと 何となく考えているヘタレなんですが…
というのはまさに結城が考えていた内容に共鳴した思いということになります。
「何をしたいか僕にはわからないんです」というあなたの気持ちも、結城にはよくわかります。結城自身もそうでしたから。小学生のころは名探偵になりたい。床屋さんになりたい。数学者になりたい。と勝手なことをいえたのですが、大学を出る頃になっても、「でも、自分は何をしたいのだろうか?」というのに明確な答えなんて出せなかったです。
結局はどうなったかというと、ある意味では「道なり」にプログラミングの仕事をして、いつの間にか雑誌に原稿を書くようになって、そのうちに文章で生活するようになっていました。そこに落ち着くまでには何度かガタゴトと人生のきしみのようなものはありましたが、現在の我が身を振り返ってみると、「まあ、結局は、自分のしたいことはこれだったのかもしれない」と理屈の後付けのような幸福を感じているところです。
結城は、大きなヴィジョンを掲げて、ゴールを目指して走るというのは苦手です。わりと成り行きで進むタイプです。ただ、次のステップ、次の一歩はよくよく考えるかも。そのステップの大きさが大きくても小さくても、がんばって自分の最高品質を出そうとがんばるタイプではありますね。ゴールオリエンテッドではなくプロセスオリエンテッドなタイプです。
本を書くときも、次の一歩、次の一冊を必死でがんばるタイプかも。それが功を奏してまだ生き残っていられるのかもしれません。
あなたへ「正解」を答えることも難しいですし、「アドバイス」にもならないように思いますが、「まあ、なるようにはなるし、ならないようにはならないよ」くらいの言葉をお送りしたいと思います。
以上です。
ぜんぜんお答えにはなっていなくてすみませんが、またお気軽にご質問をお送りくださいね。では!
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年5月7日 Vol.058 より
結城浩はメールマガジンを毎週発行しています。