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図形問題で誤差はどこまで許されるのか(学ぶときの心がけ)

質問

質問があります。数学の図形問題で、誤差はどの程度まで許されるかという基準はあるのでしょうか。

図形問題では、そこに描かれた図が、ある程度は正確であることに依存していると思います。でも、問題で与えられた長さや角度は、手で描くとどうしても不正確になるでしょう。また逆に、完全に正確な図を描いたなら、解くまでもなくすべての長さや角度はわかっているはずでしょう。

さすがに鋭角が鈍角になってしまうような誤差はまずいと思います。でも、30度を45度に描くのは大丈夫なのか……と考えていると、本に書かれた内容や自分が書いた答案が怪しく思えてきてしまいます。

数学がわかっている人たちの間では「このくらいまでなら誤差が許される」という暗黙の了解がたぶんあるのだと思います。でも、そのあたりのことが語られているのをあまり見たことがありません。よろしければ言語化していただければうれしいです。

結城浩のメールマガジン 2019年8月13日 Vol.385 より

回答

ご質問ありがとうございます。

一般に、数学で図形問題で証明するとき、実際には描いた図を使って証明しているわけではありません。そうではなくて、論理的な推論と計算によって証明するものです。図の正確さによって論理が変化するわけではありません。言い換えるなら、誤差が図形問題の成否を決めることはありません。

(一般的な数学の図形問題の話です。製図や有効数字の問題の場合には誤差も大事になってきます)

数学で図形問題が出たときに、ある程度は正確な図を描くことは大事ですが、それは問題を理解したり、解法の糸口を探るために必要なのであって、証明の論証のために必要なのではありません。たとえば、二つの線分の長さが等しいことを示すのに実測して証明するわけではありません。

定規とコンパスを使って極めて正確な図を描いてしまうと、証明の邪魔になることすらあります。たとえば、二つの線分の長さが等しいことを証明しなくてはいけないとするとき、最初から等しく見えてしまうので、何が前提で何が証明すべきなのかが混乱してくるからです。

そもそも図形の証明問題では、作図が不可能なこともよくあります。たとえば「二つの角が等しい三角形は二等辺三角形であることを証明せよ」という問題です。私たちが実際に作図できるのは無数にある三角形のうち一つ(あるいは数個)しかありません。でも証明で求められているのは無数の「二つの角が等しい三角形」について考えることなのです。作図は不可能で、論理に頼るしかありません。

ですから、図形問題における作図は目安や補助的なものであって、実際の論証は論理と計算によって行われます。「作図してみたらこうなったから証明ができた」というケースは通常はありません。

もちろん、証明の手がかりを見つけたりするために、目安としての図は描けた方がいいですね。接線をちゃんと接しているように描ける、直角を直角らしく描ける、あなたが質問に書いた通り鋭角と鈍角を区別して描ける、といった技術です。

以下余談です。

数学には有名な「角の三等分問題」という不可能問題があります。簡単にいえば「一般的に与えられた角を定規とコンパスを有限回使って三等分できるか」で、その答えは「不可能である」となります。

不可能であることは証明されています。でも「角の三等分問題」が可能だと主張する人がときどきいます。三等分したかのような作図を行って測定して「三等分できました」と主張するのでは駄目で、論理と計算で示さなくてはいけません。また、ある特定の角を三等分できるだけでは駄目で、任意の角を三等分できなくてはいけません。

「角の三等分問題」については、こちらの本をごらんください。

「角の三等分問題」は、私が書いた『数学ガール/ガロア理論』でも詳しく解説しています。

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