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聞いたことのない用語が出てくると嫌になる(学ぶときの心がけ)

質問

結城先生にお聞きしたいことがあります。

新しいことを始めると、聞いたことのない用語が出てくると思います。

意味を取りにくい用語は、それを見るたびに嫌悪感を抱くようになり、読み進めることが嫌になることがあります。

結城先生は初めて見る言葉に嫌悪感を抱くことはありませんか。また、そういうときには、どう対応していますか。

私は、なるべく平易な言い換えをして慣れるようにしています。それ以外に方法があれば知りたいです。

結城浩のメールマガジン 2019年5月21日 Vol.373 より

回答

ご質問ありがとうございます。

少しびっくりしました。何かを学んでいるとき、見知らぬ用語や意味の取りにくい用語に出会うことは、たいへんよくあります。でも、嫌悪感を抱くことはないですねえ。

用語に対して嫌悪感を抱くことはありませんが、自分の理解力の低さに対して無力感を感じることはあります。

新しいことを学ぶというのは、自分にとって未知の概念を学ぶということですから、その概念を表す用語が未知であることはまったく不思議ではありません。

むしろ、自分がよく知っている用語なんだけど、その分野では別の意味で使われるということの方が理解を困難にするはずです。典型的な例はゲーデルの不完全性定理の「不完全」という用語です。これを日常の言葉としての「不完全」と混同してしまうと理解の妨げになります。

未知の用語に出会うと「あ、これは知らない用語だ。きっとこの分野で特別な意味を持つ重要な言葉なんだな」とはっきりわかるので学びやすいはずです。「見慣れない」というのは、あなたが攻撃される予兆ではなく、攻略ポイントの目印なのです。

用語の意味を取りにくいときは、その用語の意味を理解していない状態なのですから、定義を確認してきちんと理解する以外に方法はありません。慣れないうちは何度も何度も「どういう意味だっけ」「この用語の定義は?」と振り返ることになるでしょう。これは学びにおいて大切なことです。根気が必要です。

あなたは平易な言い換えをして慣れるということですが、もしも意味を変えずに平易な言い換えができるなら、それはたいへん深く理解している証拠になります。ただし、この「意味を変えずに」はたいへん難しいことです。

平易な言い換えをして慣れるのは結構ですけれど、浅い理解の状態で安易な言い換えをして意味を変えてしまうなら、それは理解の妨げになります。「なんだ、要するに○○っていうのは△△なんだな」と言い換えるのが適切にできるためには○○を深く理解していなくてはなりません。

たとえば「実数というのは要するに数直線上の点だよ」と言い換えたとします。これはある側面においては正しい言い換えですし適切ですが、これが実数のすべてだと思うのは誤解です。いろんな側面を持っている複雑な概念を「実数」という二文字で表しているのです。

「実数」という用語をいくら眺めても、その意味はわかりません。実数をめぐる諸概念や主張などを学んで理解することで始めて「実数」の意味を知ることができます。平易な言い換えが悪いわけではありませんが、それは自転車の補助輪のようなもので、いつかは外す前提のものなのです。

ご質問ありがとうございました。

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