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『数学ガール/ガロア理論』を書いてるときの試行錯誤のようすを手書きメモとして公開します(本を書く心がけ)

※ほぼ半分を無料公開しているノートです(結城メルマガVol.037より)

今回の「本を書く心がけ」は「手書きノートのスナップショット」をお送りします。

このコーナーは、結城が書籍を書くときにノートに手書きしていたメモをお見せするというものです。メモが何を意味しているか、書籍にはどう反映されたのかを合わせて解説します。執筆の舞台裏をちょっぴりお見せしているといえるかもしれません。

以下では数式がいくつか出てきますが、あまり数学的な内容には踏み込んで解説しません。数学的な内容はさておき、書籍の前段階であれこれ手書きで試行錯誤している様子を感じていただければと思います。

●「積の和」の和

以下は、2005年11月29日の手書きメモです。

 ◆離散的なコンボリューション1(手書きメモ)

この手書きメモでは離散的なコンボリューション(たたみ込み)という式を使って何かおもしろいお話が書けないかなあと試行錯誤しています。もう少し正確にいうと、離散的なコンボリューションを手でいろいろ書いて「自分なりの理解」に至ろうとしている過程です。

ここで結城は「積の和」や「和の積」や「「積の和」の和」という言葉で式をとらえやすくできないかなという試みをしています。

たとえば、結城の好きな公式で「和と差の積は二乗の差」というものがあります。和(a+b)と、差(a-b)の、積(a+b)(a-b)は、二乗の差a^2-b^2に等しくなるという公式のことです。結城はこれがとても好きです。言葉で表現することで、数式を違う視点でパターン認識できるように思うからです。

この手書きメモの上の方に薄く

 「Σをよみとばすかどうかが理系かどうかのわかれめよ」

と書いてあります。

これは、この手書きメモを作っているときにふと誰かが私にささやいた言葉です(ミルカさんのようにも思えますが、違うかもしれません)。「理系」という表現が適切かどうかはさておき、Σを読むかどうかは、数式に慣れているかどうかの一つの境目のように思います。

手を動かして数式を書いていると、先ほどのような「ささやき」がよく聞こえます。結城はそれをしっかりメモしておき、いつかどこかの書籍でそれを使うのです。

以下は、『数学ガール』に書いたコンボリューションの要約です。

 ◆離散的なコンボリューション1(書籍)

ここでは、難しい数式を「僕」のノートという形で要約しています。

Σを使って「数列のコンボリューション」が「母関数の積」になることを表現しています。母関数の積は「「積の和」の和」の形です。

これだけを取り出すと数学に慣れていない人は「なんのことやら」なのですが、本文中で説明していることを納得できた人はここで「なるほど!」と感動するはずです。おそらく…。

●シンプルな形を模索

以下も、2005年11月29日の手書きメモです。

 ◆離散的なコンボリューション2(手書きメモ)

この手書きメモでは、やはり離散的なコンボリューションを何とかして自分なりに捕まえようとしています。コンボリューションというものを、できるだけシンプルな形で表現できないか何かおもしろい性質をもった式を作れないか、と実験しているところです。

ここでは"Cantoradiction"という表現をメモしていますが、"Cantoradiction"なんて単語は存在しません。

"Cantor"は数学者のカントール、"Contradiction"は矛盾です。その両方をまぜて、"Cantoradiction"という単語にして、「対角線論法における矛盾」という意味にしたらどうだろう…ということを考えているのです。結城が作成したジョークのメモですね。いつか、どこかで使うことはあるでしょうか。

もしかして誰かが使ってるかなと思って検索したら、Googleで二件見つかりました!ところが、見つかったのは2005年4月の結城のページでした…以下です。

 ◆対角線論法における矛盾

上の手書きメモは直接書籍には出てこなかったのですが、『数学ガール』の以下の部分を書くために少し役立っています。

 ◆離散的なコンボリューション2(書籍)

これは、フィボナッチ数列の一般項を求めるときのことを思い出して母関数を操作しようとしているところです。

※ここまででおおよそ半分です。以降も同じような調子で文章と画像が続きます。もし「おもしろそうだな」と思った方はぜひご購入をお願いします。

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