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「知っていること」と「調べたこと」(文章を書く心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです(結城メルマガVol.058より)

「文章を書く心がけ」のコーナーです。今日は「知っていることを書くか、調べたことを書くか」というお話をしましょう。

文章を書くときの大原則の一つは、

 「自分が理解していないことは書けない」

だと結城は思っています。

 ・自分が理解していないことは書けない。
 ・自分が理解していることしか書けない。

まあ、それはそうですよね。

その次に来る質問は、

 ・「知っていることを書く」のか?

それとも、

 ・「調べたことを書く」のか?

というものです。

結城は何冊か本を出版するまではほとんど「知っていることを書く」というスタイルでした。

何も参考書を見なくても書けることしか書かない。そうでなければいけない、と思い込んでいました。すべてを知っている。すべてがわかっている。そういう状態の題材しか書いちゃだめだと思っていたのです。

でも、何冊か本を書いてから二つのことを思うようになりました。一つは「自分の知っていることだけを書いていては続かない」ということ。もう一つは「自分の知っていることだけを書いていてはつまらない」ということ。

それまでは、参考書をできるだけ読まずに書いていたのですが、それから180度方向転換をして、参考書をできるだけ読んで書くように心がけるようになりました

●知っていることだけでは続かない

自分の知っていることだけを書いていては続かない」というのはどういうことか。

これは、文章を書くたびに「自分の貯金を取り崩す」ようなことをやっていてはだめだ、ということです。

 自分は現在、このことを知っている。

 だから、これについての文章を書ける。

というのは正しいといえば正しいのですが、うっかりすると、

 自分は現在、このことを知らない。

 だから、これについての文章は書けない。

こんなふうに勘違いしてしまうのですね。

「自分は、これについての文章は書けない」と範囲を限ってしまうと、自分の守備範囲は広がらないし、知ってることだけ書こう、いつもの話だけ書こう、のように活動がしぼんでいきそうです。これはまずい。

ですから、

 自分は現在、このことを知らない。

 けれども、がんばって調べれば書けるかも知れない。

という見極めが大事になってくるんじゃないかな、と思うようになったのです。

●知っていることだけではつまらない

自分の知っていることだけを書いていてはつまらない」とはどういうことか。

これは「文章」と「学び」とに関係しています。文章を書くことも読むことも、広い意味で「学び」です。「新しいことの発見」といってもいいでしょう。

 「はっ! そうだったのか!」

文章を読んでいて、そういう体験ができたらとてもうれしいものです。

自分の知っていることだけを書いていると、どうしても発見の要素が少なくなります。

まあそれは当たり前ですね。知っていることだけを書いているのですから、発見が少なくなるのは当然です。

でも、自分が知らないことを題材に、調べて文章を書こうとすると、そこが少し変わります。つまり、書き手である自分がまず「学ぶ」というプロセスを通過することになるのです。それはすなわち、

 「これってどういう意味なんだろう」
 「わかんないなあ…」

 「あ、もしかして、こうかな」

 「うん、やっぱりそうだ」

という疑問や気づきや発見を通過するということです。そのような経験を踏まえて文章を書くなら、読者にも同じような体験を伝えやすくなるでしょう。

 「これって意味わかりにくいですよね」
 「ここは最初は難しく感じられるでしょう」

 「これはどういう意味だと思いますか」

 「そうなんですよ!」

このような言葉を、書き手である自分が実感込めて表現することができるのです。それは書き手自身が、読み手よりもちょっぴり先行して「学んだ」からです。

自分の知っていることだけを書くなら、そのような「学びたてのピチピチした新鮮な思い」を読者に伝えることは難しいでしょう。

●バランスを意識する

もちろん「知っていること」と「調べたこと」のバランスは微妙です。「知っていること」に偏れば、新鮮さが低くいつもの話題に終始する危険がありますが、よく練られたなめらかな解説が可能かもしれません。それに対して「調べたこと」に偏れば、うまく処理できずゴツゴツした印象を与える危険がありますが、新鮮な驚きや発見を含んだ文章になるかもしれません。

「知っていること」と「調べたこと」の塩梅をマニュアル化することは困難です。書き手の力量、題材、媒体、もちろん読者にも依存するでしょう。

自分が書いている文章がその両方を含んでいるということを意識するのは有益です。それは「すでに知っていること」と「新たに調べたこと」の
バランスに気を配るということです。

そこをさらに深めて考えれば、自分の学びをデザインすることにも繋がっていきます。いつもいつも「知っていること」ばかり書きたがる自分に気づいたら、それは体系的に新しいことを学ぶ必要がある印なのかもしれません。あるいは逆に「ちょっと調べた生半可な知識で書きたがる」自分に気づいたら、それはきちんと自分で内容を消化し、熟成させる時間が必要である印かも。

「知っていることを書く」と「調べたことを書く」というのは決してどちらか一方が良いというものではありません。どんな文章にも両方が含まれています。その含有の度合いをどれだけ意識できるか、そしてどれだけ自分の力でそのバランスを調整できるか、そのあたりが書き手の力量ということになりそうです。

あなたは、文章を書くときに、「知っていること」と「調べたこと」のバランスを意識していますか。

 * * *

以上、「知っていること」と「調べたこと」(文章を書く心がけ)でした。

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本を書いています。『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など。https://link.hyuki.net/mm でメルマガ配信中。https://link.hyuki.net/girlnote でcakes連載中。2014年度日本数学会出版賞受賞。

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コメント (3)
発見 というのはとても共感できるものでした。私にとって詩を描くときに胸に抱く 言の葉の海へと漕ぎ出す感覚ととてもよく似ています。 何度でもその宝物みたいな 煌めきを見たくて 私は描き続けているのだと 改めて思いました。 私もこれを読ませて頂いて 気づきがありました。ありがとうございます。
自分の言葉の裏付けや、中身に幅をつけるに調べる、書き始めの題材も調べる。私は調べずに済むことのほうが無さそうです。
僕の仕事は基本的に知ってる分かってる事を教える事です。でもまだまだ知ってるつもりや知らない事や分かってるけど深みが足りない?事も多い。そういう事は自分で書いてみるとよく分かる。なんでも書けば良いというものではないけど、書いてみる、外に出してみるという事をする事で何かが変わるし気がつく。
昔だと自分の周囲でしか其れが出来なかったのが、今ではネット環境さえなんらかの形であれば、簡単に実現できる。まぁ読んでもらえるかどうかが問題だけど、それもこういうサービスもある。とても素敵だなぁ!
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