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数学科教員に望むことはなんですか(教えるときの心がけ)

質問

私は数学科教員です。

結城さんが数学科教員に望むことはあるでしょうか。

あるならば、それはなんでしょうか。

回答

ご質問ありがとうございます。

これはたいへん興味深い問いです。

まず最初に、私は「教育現場の先生」に対して、大きなエールを送りたいです。

日々リアルな生徒に向き合って、そこで生じるあらゆる問題に現実的な解決策を見つけ出さねばならない、そんな先生方に対して私は深く敬意を抱いています。

その上であえて望むこととしては、

 生徒を数学嫌いにさせないでほしい

ということです。

もちろん、数学を生徒の「好きな科目」にしていただけるなら、それに越したことはありません。でも、せめて、嫌いにさせないでほしいと願います。

いきなり後ろ向きな願いに聞こえるかもしれないですが、私は大事なことだと思います。

先生が、その生徒に対して数学を教える期間は短いものです。長くて数年ですよね。

先生のところから巣立っていった後、生徒の生活を想像してみます。もし、数学を嫌いになっていなければ、どこかで数学を好きになるチャンスがあるかもしれません。

でも、いったん嫌いになってしまったら、 数学に触れる機会すら少なくなるのではないでしょうか。それは、とても悲しいことです。なので、数学の先生には「生徒を数学嫌いにさせないでほしい」と思うのです。とても難しいことはわかりますけれど。

といっても、数学で面倒な計算をさせるなとか、数学のテストをするなとか、そういう無茶なことを言いたいわけではありません。

そうではなくて、たとえば、以下のようなことをお願いしたいのです。

 ・数学の問題を「罰」として解かせないでください。
 ・正当な疑問を抱いた生徒に、理不尽な押し付けをしないでください。
 ・数学的に正しい答えをしたにも関わらず、バツを付けないでください。
 ・素朴な疑問に対して、馬鹿にしたり笑ったりしないでください。

数学は、教師が生徒に「圧」をかけやすい科目です。教師は答えを持っていますし、正しいかそうじゃないかは明確です。ですから、生徒のまちがいがときに愚かしく見え、必要以上に糾弾する危険性があります。

「しないでください」だけでは何なので「こうしてください」も書いておきます。

 ・難しい計算や概念が出てきたときには、苦労だけではなく面白さが見いだせる工夫をしてください。
 ・小さなことに対しても達成感が味わえ、もっと学びたいという気持ちを起こさせるようにしてください。
 ・単元や分野を越える数学の面白さをぜひ伝えてください。

ある問題を解くときに「この方法でなくてはダメ、これ以外はバツ!」のように押しつけるのではなく、数学的に正しければ別の方法でもかまわないと伝えてください。先生が教えなかった方法でもまったく問題ないのだと、むしろそれはすごいことなのだと積極的に教えてほしいです。

もちろん、一つの技法を学ぶためにそれを繰り返し練習することはあるでしょう。でも、それにとどまらないでほしいのです。

この問題のパターンなら、この解答だけが正解。このパターンなら、この解答だけが正解。というのでは数学のおもしろみをかき消してしまうと思います。

数学的に正しければ、驚くべき発想から生まれる解法でもかまわない。そもそも問題を解くだけが数学ではない。そういう点を積極的に教えてほしいです。

繰り返しになりますが、最後にもう一度書きます。

私はいつも現場の先生に対し、強い尊敬の念を抱いています。さまざまな限界や制約の中で、生徒のことを思い、現実的に解決策を見出していこうとしている先生方に。

未来を担う子供たちを、どうか、よろしくお願いいたします。

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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月27日 Vol.309 より

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#結城浩 #教えるときの心がけ #教員 #学校 #数学


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本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。