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「魅力」について思うこと

質問

世の中には「魅力的」な人がいて、自分も「魅力的」な人間になりたいと思っています。

しかし「魅力」という言葉自体が曖昧なので、そのためにはどうするべきなのだろうとも思います。

自分が魅力的だと思うものを愚直に追い求めるべきなのか。

自分としてはそこまで魅力を感じないけれど、世間一般が魅力的だと思うものを獲得しようとすべきなのか。

結城先生の思う「魅力」について教えてください。

結城浩のメールマガジン 2019年6月11日 Vol.376 より

回答

ご質問ありがとうございます。

私自身は、魅力的な人間になりたいと思う気持ちはそれほど強くはありません。もちろん、自分が好きな人に嫌われたくはないとは思いますが、全体として自分の魅力を増したいという気持ちになることはありません。

魅力的な人は世の中にたくさんいます。特に「我を忘れるほど何かに夢中に、真剣に取り組んでいる人」はとても魅力的に見えます。そんなふうに思いませんか。

それに対して「魅力的な人間になることを第一にしている人」はそれほどは魅力的に見えません。どちらかといえば、自意識過剰で鼻持ちならない人に見えなくもないです。

私は本を書くのが仕事です。ですから、読者にとって魅力的な本を作りたいとは思っています。自分の魅力についてはあまり考えませんが、作品の魅力についてはよく考えます。というか、そればかり考えています。そこで大事になるのが、どんな魅力を追求するかですね。

本は読者が読むものですから「読みやすい」「内容が正確」「読んでいて楽しい」「文章にリズムがある」……そのような魅力はあれこれあります。

結城が最近関心があるのは「うまく説明できない魅力」です。

どうして魅かれるのかわからないけど、つい魅かれてしまう。なぜかはわからないけど、繰り返して読みたくなる。説明できなくはないけど、その説明だけですべてがいえたとは思えない何かがある。私は、そのような「うまく説明できない魅力」に強い関心があります。

世の中にも、そのような魅力を持つ人や作品は確かに存在しますよね。

「説明できない魅力」に関心がある理由は「説明できない魅力」は他のものと交換できないからです。他のものと交換したら意味を失ってしまう。かけがえがないものがそこにある。魅力を抽出することが難しい。無理に抽出すると大切なものが消え失せてしまう。私はそんな種類の魅力を持つ本を書いてみたいといつも考えています。

とはいえ、これはもちろん「書き手の勝手な都合」にすぎません。本を書くときに大事なのは《読者のことを考える》という原則ですから、それは外さないようにしつつも、「うまく説明できない魅力」を放つ、かけがえのない本を書きたいと願っています。

そのようなものを実現するヒントの一つは「普遍性と個別性の同居」にあると思っています。「一般性と特殊性の共存」と呼んでもかまいません。たくさんの人に共通するものを持っているにも関わらず、たった一人に向けて書かれている本。「私のために書かれたに違いない」と感じる本。それです。

あなたの質問にいきなり戻ります。

「魅力のある人間になりたい」と願う場合、どうすべきかを考える前に、あなたの感じる魅力についてよく研究するのが大事だと思います。魅力についてというか、魅力を備えた存在について研究するのです。

たとえば、あなたが「この人は魅力的だ!」という人がいたならば、その人をよく研究しましょう。その人は多くの人にとって魅力的かもしれませんが、あなたという個人と響き合う何かを持っているはずです。ですから、あなたが魅力的だと思う人を研究することは、自分の価値観やテイストを磨くことにもつながります。

あなたは二つの魅力を対立させて書いていました。「自分の思う魅力」対「世間が思う魅力」のことです。第一次近似としては有効ですが、どこまでもそれでは進めません。魅力は二つに分類できるわけではないからです。魅力はもっと多次元で入り組んで複雑で動的な構造を持っています。そしてあなた自身の個性と深く絡んでいるはずです。

興味深い質問をありがとうございました。あなたの質問に回答しながら、私自身にも得るものがたくさんありました。感謝します。

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