
最初はいっしょに(教えるときの心がけ)
※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです(結城メルマガVol.041より)
「教えるときの心がけ」のコーナーです。ここでは教えるときのちょっとしたヒントをお話しします。
今日は「最初はいっしょに」というお話をします。
以下では便宜上「教師」と「生徒」という表現を使いますが、「教師」はあなた自身で、「生徒」はあなたが教える(指導する、しつける)相手だと思ってください。たとえば親が子に教えるなら教師は親、生徒は子にあたります。
●宿題をさせる ―― 最初はいっしょに
私たちは教えるときに、相手との関係を固定的に考えがちです。
たとえば、親が子供に宿題をさせるとき、
子供のそばに座って宿題をみてなんかいられない
と思うことがあります。まあそれは正論です。
でも、子供によってはなかなかきっかけがつかめなかったり、宿題をするという習慣が身につかなかったりするでしょう。
結果的に「宿題やりなさい。なんで自分でしっかりできないの!」と口で怒るだけになってしまいます。
「子供のそばに座って、ずっと見てやらなくちゃいけない」と思い込んではうまくいかないことでも、少し柔軟に考えるだけでうまく回ることがあります。相手との関係は固定的に考える必要はないのです。自分も相手も変化する人間なのですから。
・相手がうまくできそうなら、放っておけばいい。
・相手ができないようなら、最初だけいっしょにやってあげる。
そんなふうに柔軟に考えるのも一つの手です。
「最初」というのは「一回目」と考えてもいいですし、宿題をはじめる「はじめの5分」と考えてもいいでしょう。
●仕事をまかせる ―― 最初はいっしょに
別のシチュエーションを考えてみます。
会社で、上司が部下に新しい仕事をまかせたいという状況を考えます。上司が仕事の段取りをぜんぶしてしまって、最後の機械的な作業だけを部下にさせてしまうと、部下はあまり進歩しません。
いつまで立っても進歩しないので、「あいつにはなかなか仕事をまかせられないな」と考え、機械的な作業だけをまかせるというループに入ってしまいます。
ぜんぶ上司が段取りするのではなく、部下に段取りをさせてみましょう。ただし、上司が「最初はいっしょに」やる。いわば、ダブル体制にするのです。それは失敗に備える意味もありますし、部下の不安を除くためでもあります。
ぜんぶをまかせてしまうのではなく、
・部下と「最初はいっしょに」やってあげる。
・部下の背後についていて、迷いそうな要所要所で助ける。
・部下がヘルプを求めてきたら、少し手助けをする。
・でも、あくまで部下が主として動く。
それは教育的な仕事の進め方になります。
・部下がうまくできそうなら、そのまままかせてしまう。
・部下ができないようなら、最初だけいっしょにやってあげる。
●自動車の教習所 ―― 最初はいっしょに
このような「最初はいっしょに」というパターンはよくありますね。
たとえば、自動車の教習所がそうです。
あくまで生徒がハンドルを握る
しかし、
教師の足はブレーキの上に乗っている
そのような状態です。ここに大事なポイントがあります。
●大切なポイント:あくまで生徒がハンドルを握る
「最初はいっしょに」行うとしても、ハンドルをずっと教師が握っていては教育効果は半減です。
どこかのタイミングで、生徒がハンドルを握る必要があります。「生徒がただ見ているだけ」と「生徒が実際に行う」の間には大きな違いがあるからです。
「生徒がただ見ているだけ」だと、簡単そうに見えるし、すぐできると生徒は思いがちです。自分にもできると思ってしまったら、緊張感は薄れてしまうでしょう。
生徒にハンドルを握ってもらい(しかし教師の足はブレーキの上に置き)、「あなたが運転するんだよ(私も最初はいっしょにいるけれど)」と生徒に伝えるのです。
●大切なポイント:教師の足はブレーキの上に乗せる
「最初はいっしょに」行うとしても、教師の足はブレーキの上に乗っているだけで、生徒はどこか安心します。
その安心は「思い切ってやってみる」という良い効果を生みます。失敗をまったく許容しない環境では教育はできません。
●大切なポイント:教師はいつかいなくなる、と伝える
「教師の足はブレーキの上に乗っている」という状況に慣れてしまうと、真剣味に欠ける危険性があります。「いざとなったら、先生が助けてくれるから」と頼りにしすぎる状況です。
ですから教師は、生徒に対して
いまはいっしょにいるけれど、
あなたはこれをいつか一人でやるんだよ
と繰り返し伝える必要があります。
●大切なポイント:うまくできたなら、ほめてあげる(小さな成功体験)
首尾良くうまくいったとき。それはほめるチャンスです。
生徒が喜ぶタイミングで、教師はしっかりほめましょう。生徒がはじめて一人でハンドルを握って動かしたなら、「小さな成功体験」を味わってもらうよい機会なのです。
ほめられてうれしいとき、生徒の心は開きます。教師と生徒の間によい関係が構築できたときに、細かい指導を効果的に入れることができます。
●まとめ
ということで、今回の「教えるときの心がけ」では「最初はいっしょに」を紹介しました。
・生徒との関係を固定的に考えず「最初はいっしょに」やる
・大切なポイント:あくまで生徒がハンドルを握る
・大切なポイント:教師の足はブレーキの上に乗せる
・大切なポイント:教師はいつかいなくなる、と伝える
・大切なポイント:うまくできたなら、ほめてあげる(小さな成功体験)
いかがでしたか。あなたが「教えるとき」の役に立ちそうでしょうか。
※Photo by webtreats.
https://www.flickr.com/photos/webtreatsetc/4155634227/
※結城浩はメールマガジンを毎週発行しています。あなたも購読してみませんか。
http://www.hyuki.com/mm/
※以降に文章はありません。この文章が気に入ったなら、ぜひ「投げ銭」をお願いします。