ほめることが苦手(教えるときの心がけ)
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ほめることが苦手(教えるときの心がけ)

質問

ほめることが苦手です。

私は情報理工系の博士学生なのですが、後輩の論文や発表にコメントを入れることがときどきあります。できる限りほめることを意識するのですが、あまりほめる場所が見つけられず、うまくいきません。

後輩の研究や発表がおもしろくないわけではありません。でも「指導」として伝えないといけない部分と、ほめる部分を両立できないのです。

たとえば後輩の発表にコメントするとき、内容はおもしろいと感じていても、発表がうまくないとスライドの作りや喋り方にばかりコメントしてしまい、批判的になってしまいます。批判的なことはいいと思うのですけれど。

私自身、先輩に「このアイデアはおもしろい」や「ここ頭いい」などと言われると研究意欲がすごく湧きます。ですから後輩も積極的にほめて、研究室全体に「ほめる文化」を定着させたいのです。

結城先生がコメントするときに意識していることや、ほめる方法論などがあれば教えていただけるとうれしいです。

結城浩のメールマガジン 2019年7月9日 Vol.380 より

回答

ご質問ありがとうございます。

一般的に、批判することよりもほめることの方が難しいものです。特に、的確にほめることは難しいですね。悪い点や直すべき点は見つけやすいですが、うまくいってるものはうまくいっているがゆえに気付きにくいからです。

私がいつも心がけているのは「お世辞としてほめないこと」です。リップサービスをしない。つまり、自分で本当にそう思っていることだけを言うということです。口先だけでほめるのは、一回くらいならまだしも、長続きしません。

それから「対象をよく理解すること」も心がけています。対象をよく理解するというのは、良い点をほめて悪い点を批判する前に必要なことです。良い点や悪い点というとすでに評価が入ってしまっています。評価の前には理解が必要です。誤解に基づいた評価には意味がないからです。

何かの作品や行為にコメントするときには、対象をよく理解し、その上で自分が気付いたことやわかったことを相手に伝えるように心がけています。

最初から、ほめる/批判するという二つに分けて考えるのではなく、自分が「正直な鏡」となることを心がけています。自分が気付いたことを相手に伝える。それは結果的には良い点でありほめたことになるかもしれない。悪い点であり批判になるかもしれない。でも、それはあとの話です。まずは正直な鏡になってフィードバックを返す。そのフィードバックをどう利用するかは、相手の側の問題です。

質問の中にあった「後輩の研究や発表がおもしろくないわけではありません。でも「指導」として伝えないといけない部分と、ほめる部分を両立できないのです」という部分は、私には不思議に感じます。というのは「後輩の研究や発表がおもしろくないわけではない」ならば、それをきちんと伝えればいいのではないかと思うからです。

ほめるときには具体的に表現するといいですね。「おもしろい」だけでもいいのですが、それだけじゃなく「ここがおもしろい」と伝えるのです。

・おもしろい
・ここが、おもしろい
・ここのこういう点が、おもしろい
・ここのこういう点が、こんな理由でおもしろい

具体的にほめるためには対象を深く理解している必要があります。評価の前には理解が必要であるというゆえんです。

表現を修正する場合には「修正点そのもの」を伝えるだけでなく、「なぜそう指摘したのかの理由」や、「今後どうすればその指摘を受けないように準備できるかの方法論」にも触れられるといいですね。

ほめるためには多様な語彙も必要ですね。

・おもしろい、興味深い、注目に値する
・新しい、めずらしい、見たことがない
・明解だ、はっきりしている、簡潔だ、
・着眼点がいい
・具体例がいい
・わかりやすい、よく伝わる……

面と向かってコメントする場面では、分析的な表現だけではなく「生の反応」もいいものです。発表を聞くときや、説明を受けるときに大きくうなずく。「なるほど!」と声を上げる。それは発表者にとって大きなはげましとなります。おもしろいと思ったら、素直にそれを表明するのです。

それから、コメントするときには「謙虚な態度」が大事です。あなたがそうしていると言いたいわけじゃなく一般論ですが、相手が発表しているときに腕組みをしてお説拝聴とふんぞり返るのはよくありません。メモと筆記具を持って前のめりになって聞くのです。そのように「私はあなたの発表に前向きな関心がありますよ」と全身で伝えるのです。

あなたが研究室全体に「ほめる文化」を定着させるのなら、健全な関心を互いに持ち、表現し合うことは大事ですね。多少は大げさになってもいいと思います。みんなで「なるほど」「そりゃいいな」「そこがおもしろい」「わかりやすい」「すごい」と言い合うことは悪くないと思います。

その際にも「対象を理解する(理解しようとする)」ことが前提になるのは言うまでもありません。よく理解せずに「わかりやすい」というわけにはいきません。

批判を含む指導を相手に受け入れてもらうためには「信頼関係」が必要です。「ああ、この人はちゃんと理解している。この人は自分の活動に健全な関心を持っている」と相手が感じないなら、どんなにいい指導をしても伝わりません。

後輩に比べたら、あなたには一日の長があります。ですから、後輩がその分できないのは当然です。そこで必要になるのは、「ほめること」と「はげますこと」です。指導する機会が複数回あるならば、まずいところだけではなく、前回より良くなったところをきちんと伝える必要があります。「言わずもがな」ではなく「自明なことも明示的に言う」のが大切です。

「研究の内容はおもしろい」けれど「発表はよくない」というなら、その両方を伝えましょう。「悪いから直すべきところ」だけを伝えるのではなく「良いから直さなくてもいいところ」も伝えましょう。

あなた自身の大きな強みがあります。それは「ほめられたらやる気が出る」のを先輩からの指導で体験している点です。ぜひそれを後輩にも味わってもらいましょう!

「ほめる文化」という意味では、あなたを励ましてくれた(励ましてくれる)先輩に、「ほめて育ててくれたことのフィードバックを返す」のもいいですね。「先輩はいつもそう言ってくださるので、励みになります!」と先輩に伝えるのです。そうやって互いに良いコミュニケーションが築くことが大事です。

質問への回答は以上です。何かヒントになるものがあればうれしいです。

あなたの質問を読むと、あなたは大変前向きで、しかも正直な気持ちを表現できる方だと感じました。きっと後輩に対していい指導ができると思いますし、「ほめる文化」を醸成することができると思います。がんばってくださいね。

「ほめること」に関連した読み物をいくつかご紹介します。

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#結城浩 #教えるときの心がけ


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本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『暗号技術入門』『数学文章作法』など多数。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。