生徒の質問(教えるときの心がけ)
※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです。
こんにちは、結城浩です。
「教えるときの心がけ」のコーナーです。
●生徒の質問
生徒の質問はとても大事です。
次のような情景をちょっと考えてみてください。
教師が生徒にいろいろ教える。
教師が生徒に「質問はありますか?」と訊く。
でも、生徒からまったく質問が出ない。
質問が出ないのは、教師が教えた内容を生徒が100%理解しているからでしょうか?
もちろんそういう場合もあるでしょう。教師の教え方が的確で、内容も難しくない。生徒は教師が教えた内容を100%理解している。だからまったく質問が出ない。
でも、どちらかといえば、
・質問するのが恥ずかしい。
・質問しても的確に答えてもらえる気がしないので質問しない。
・内容がまったく理解できなくて、何を質問していいかわからない。
のような状況が多いのではないでしょうか。
うまく教えているときというのは、生徒からまったく質問が出ないのではなく、適切な分量・内容の質問が出るように思います。いわば、生徒からの質問は「教える」という活動がうまくいっていることのバロメータと言えるのです。
●質問に対する基本的な応答
生徒からの質問に対する基本的な応答はこうです。
◆生徒の言った質問を反復する(エコーの一種)
生徒「どうして、0で割ってはだめなんですか?」
教師「うん、《どうして、0で割ってはだめか》というと…」
このように「生徒の言った質問を反復する」のは、質問した生徒に対して「私はあなたを受け入れています」ということの表明になります。
また、「生徒の言った質問を反復する」のは、質問した生徒以外の生徒への配慮でもあります。質問した生徒本人は、質問の内容をよくわかっていますが、それ以外の生徒は、質問がよく聞き取れていない場合もあるからです。ですから、いったん教師が生徒の質問を反復することは全体に「何がいま話題になっているのか」を周知する効果があります。それをやらないと、教師と生徒の二人だけの対話になり、他の人がみんな「蚊帳の外」になってしまいます。
◆質問した生徒をほめる
質問を受けたら、基本的な態度として「質問した生徒をほめる」べきです。
教師「お、なるほど。それはいい質問だな」
とんちんかんな質問であっても、ほめる場所を探し、きちんとはげまします。教師は少なくともそのような態度で質問に臨むべきです。
◆質問に答える
「質問に答える」ことはもちろん大切です。質問によっては、答えることが難しかったり、教師自身も知らなかったりするかもしれません。そのときもあいまいにごまかしたり、適当にあしらって流すのではなく、
教師「うーん、それは後で説明しよう」
教師「実は、先生も知らないんだ。あとで調べておくよ」
のように、何らかの「決着」をつけるべきです。それは、
「質問に答える」
だけではなく、
「質問に応える」
態度といえるかもしれません。
●質問の種類:自分の理解を確認するときの質問
「生徒の質問」といっても、さまざまな種類があります。
まず、自分の理解を確認するときの質問。
生徒は教師が教えるのを聞きながら、自分の中に仮説を立てるものです。そして、その仮説が正しいかどうかが気になります。
(生徒の心の中)
先生は、こんなことを言った。
と、いうことは…きっとこれが成り立つな。
でも、ほんとかな? ほんとかな?
「ほんとかな?」を心に持ちながら、引き続き教師の話を聞き続けることは難しいもの。生徒はここで、
「先生、aが0ならこの公式は使えないということですか?」
という質問をしたくなります。教師の答えが「はい」ならば安心して先に進めますし、「いいえ」ならば自分の誤解を補正するチャンスを得ることになります。
理解を確認する質問で生徒にメリットがあるのはもちろんですが、メリットがあるのは生徒だけではありません。教師のほうも生徒の質問によって「ははあ、この生徒はここまで理解したのだな」と確認できるのです。
●質問の種類:教師が誤っていると思われるときの質問
次に、教師が誤っていると思われるときの質問。
教師も人間ですから、誤りをおかすものです。でも、教師が自信たっぷりに間違うと、生徒は混乱します。
(生徒の心の中)
え、いま先生は「±3」って言ったよな。
でも、答えは正の数なんだから「+3」が正解なんじゃないか?
でも、教室の誰もツッコミを入れないぞ…
教師と生徒(たち)の間に良好な関係が持たれている場合には、生徒は気軽に教師にツッコミを入れます。
(生徒からの気軽なツッコミ)
生徒A「先生! -3はちがうっしょ?」
生徒B「+3だけでいいんですよね、先生?」
そして教師は、
教師「あ、ごめん、間違っていたよ」
と訂正するか、
教師「いやいや、ここではさっきの条件はないから±3が正解!」
と生徒のツッコミを却下することになるでしょう。
教師は、自分の誤りに気がつかない可能性もあります。ですから、生徒に対して
教師「いいか、先生が間違っていたらきちんと指摘するんだぞ」
ということを伝えておく必要がありますね。さらには、生徒から誤りの指摘が合った場合には、大いにほめるべきです。
教師「確かにそうだな!よく気がついたなあ!」
指摘した生徒は得意満面です。教師の話をさらにしっかり聞いて理解し、また誤りがあったら指摘しようと思うでしょう。これは、生徒のモチベーションをアップするのに非常に効果があります。
ただし、教師は心の底から生徒の質問や指摘を歓迎していなくては逆効果です。生徒は、教師が「ごきげんとり」をしてるかどうかを必ず見抜きますから。
●質問をうながす教え方
さて、教師は生徒に教えるわけですが、すべてを先回りして教えたほうがいいとは限りません。
上で話したように、質問は生徒の理解を確認したり、生徒のモチベーションを上げたりする重要なものです。ですから、わざと生徒に質問させるような「質問をうながす教え方」をうまく使いたいものです。
たとえば、「質問をうながす教え方」の一つとして「ちょっぴり難しい話をポンと出す」教え方があります。ここまでの説明を聞いたとしてもすぐにはわからないような内容を話し、「さて、生徒から確認のための質問が出てくるかな?」と待つわけです。
教師「だから、この公式があれば、
どんな二次方程式でも、絶対に解が求まるといえる。
この公式で解が求まらない二次方程式を作ることは不可能になる」
(といって間を置く)
質問が出てくれば、それに合わせて補足説明をする。質問が出てこなかったら、「これは難しかったかな」と断りを入れて補足説明することになります。生徒の反応を待つタイミングが命です。早すぎず、遅すぎず、十分に生徒が頭を回転させるための時間を確保してあげる必要があります。
また、別の「質問をうながす教え方」として、たとえば「教師がわざと間違ったことをする」教え方もあります。教師が説明した内容と反することをさらっとやってみせて、生徒が間違いの指摘をするかどうかを見るのです。
ただし、教師が間違ったことをするのには細心の注意が必要です。「ひっかけられた」や「ばかにされた」と感じる生徒もいるからです。教師(自分)と生徒(相手)の間に十分に信頼関係が成り立っているときに使った方が無難です。
●まとめ
ということで――
今回の「教えるときの心がけ」のコーナーでは、
「生徒の質問」
という話題をお話しました。生徒の質問によって、
教師(自分)と生徒とが、
きちんとコミュニケーションを取れているかが確認できる
ということになりますね。いかがでしたか?
次回もどうぞお楽しみに!
なお、結城浩のWebサイトには「教えるときの心がけ(Web版)」というWebページがあります。よろしければごらんください。短くてすぐに読めて、読者さんにはなかなか好評のページですよ。
◆教えるときの心がけ(Web版)
http://www.hyuki.com/writing/teach.html
(Photo by webtreats. https://www.flickr.com/photos/webtreatsetc/4155634227/)
このノートは「結城メルマガ」Vol.004の内容を編集したものです。よろしければ、あなたもご購読くださいね。
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