本の企画を立てよう(本を書く心がけ)
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こんにちは、結城浩です。
「本を書く心がけ」のコーナーでは、これまでの約20年の書籍執筆の経験から学んだことを紹介します。
今日は「本の企画を立てよう」というお話をしましょう。
●「本の企画」って何?
結城は本を書くのを仕事にしています。ある期間コンピュータに向かってぱたぱたと文章を書き、編集部に送り、校正して、本ができあがります。
基本的な作業の流れとしてはそれで終わりなのですが、文章を書き始める前の段階で出版社さんと約束しておく必要があります。それが「本の企画」についての約束です。
・結城は「どんな本」を書こうとしているか
・出版社さんは「どんな本」なら売っても良いと思っているか
この「どんな本」かを定めるのが「本の企画」です。具体的には、
・本の名前
・対象読者
・価格
・本の大きさ、厚さ
・内容
・主な章立て
・図版・表・文章の割合
・〆切
・などなど…
本の企画に関する合意がないと、時間をかけて文章を書いたとしても、書き上げた後で出版社さんから、こういう本はうちでは売れませんね…と言われてしまう可能性があります。
説明の都合上、出版社さんを出しましたけれど、実は「本の企画」を考える上では、出版社さんが必須というわけではありません。著者が自費出版をする場合でも「本の企画」を立てる必要はあるからです。
●「本の企画」では何を考えるべきか
結城は本を書こうとするときに、「本の企画」を前もって考えます。まあこれは当然ですね。たとえば『数学ガール』だとしたら、
・本の名前:数学ガール
・対象読者:高校生から社会人(場合によっては中学生も)
・内容:「僕」と高校生の女の子が登場して、数学を勉強する青春物語
・特徴:数式をたくさん出す
・特徴:さわやかな読後感になるようにする
・などなど…
自分がこれから書きたいと思う本について、箇条書きで構わないのでノートに列挙していきます。
ところで、本の企画の中で、結城が非常に大切だと考えていることがあります。それは、
・その本は誰が読むのか?
という問いに答えることです。つまり「対象読者」ですね。
たとえば『数学ガール』だとしたら、対象読者として、
・高校生で数学が好きな人(苦手でもいいが、嫌いではない人)
が真っ先に思い浮かびます。その他にも、
・社会人で、学生時代に数学が得意だったけれど、
最近はぜんぜん数学に触れていないなあと感じている人
という読者像も浮かびます。あるいはまた、
・数学に強い興味がある中学生で、
特に自分でも積極的に数学書を読みたいと想う人
という読者像もありえます。結城が「本の企画」を考えるときには、この
・その本は誰が読むのか?
という問いを自分に投げかけ、それに真剣に答えようとします。これは最重要な質問だと考えています。
●なぜ「読者」が最重要なのか
どうして「本の企画」で「読者」が最重要なのでしょうか。それは、本の企画における他の項目が「読者」に左右されるからです。
・内容(題材、難易度など)
・形式(物語、説明文、語り口など)
・大きさ(ページ数、判型など)
・価格
上のような各項目は、「その本は誰が読むのか?」という問いにしっかりと答えた上でないと定めることは難しいですよね。
●本の企画と出版社
出版社さんで本を出すときの話をします。
本の企画は著者から始まる場合もありますし、出版社さんから始まる場合もあります。いずれにしても、本を出版するときには、出版社さんと「本の企画」について打ち合わせをします。打ち合わせがどう進むかはケース・バイ・ケースではありますが、
・著者である私は「こんな本を書きます(書きたいです)」と話す。
・出版社さんは「こんな本を書いてください」と話す。
というのが基本形になります。まあ当然といえば当然です。
本の企画が著者と出版社のどちらから出た場合でも、著者の側は主に「本の内容の面」からの意見を出し、出版社の側は主に「本の商業的な面」からの意見を出すことが多くなるでしょう。
本の企画を出版社さんと議論するときに私が最も気をつけているのは、ここでも「読者が誰であるか」という点です。
「読者が誰であるか」の他にも、次のような点に注意します。
・自分に書けるから書くのではなく、おもしろい題材だから書く。
・世の中にたくさん類書が出ているから書くのではなく、類書にはない何かを提供できるから書く。
・世間で流行しているから書くのではなく、自分の中でホットになっている題材だから書く。
・読者さんを自分の本で囲い込めるから書くのではなく、自分の本を読んだ後、読者さんが他の本も楽しく読めるようになる本だから書く。
そのようなことを考えながら本の企画を練っていきます。
要するに「本の企画」とは、著者である自分が「本」というものをどうとらえているか、また、自分が「本を書く」意味や価値をどうとらえているか、
それを表すものであると結城は考えています。
●著者の立場
「本の企画」に関してさらにいうならば、結城は
・できあがった本の良し悪しを編集者や出版社のせいにしない
ように心がけたいと思っています(難しいことですが…)。
結城は、自分の本に書かれているすべてのテキストに対しては自分に責任がある、と考えています。もちろん編集者さんから指摘を受けて修正することや、時間的・予算的な意味で「妥協」をすることはあります。しかし、ここは譲るがここは譲らないという判断は著者にあります(あると思っています)。
「本の企画」において、著者の権限と裁量は非常に大きいものがあります(あると思っています)。本を作るというプロジェクトにおいて、著者は唯一無二のリーダーです。だからこそ、本の表紙に著者の名前が載るのです。
ですから、本の表紙に自分の名前を載せることをゆるした時点で、本のできばえを編集者や出版社のせいにすることはできないと思っています。
著者は、名誉も、非難も受ける立場にあるのです。
(これは結城個人の考えであって、他の人に強制するわけではありません)
●まとめ
ということで――
今回の「本を書く心がけ」のコーナーでは、
「本の企画を立てよう」
というお話をしました。いかがでしたか。
この文章は「結城メルマガ」Vol.005の内容を編集したものです。
http://www.hyuki.com/mm/
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(Photo by Rui Fernandes. https://www.flickr.com/photos/ruifernandes/4930218619/)
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