わからない子にわかりやすく教える方法(教えるときの心がけ)
質問
僕は数学が好きです。
昔から、教科書さえ見れば授業を受けなくてもわかったので「わからない子の気持ち」や「わからない子の視点」が理解できず、教えるのが下手です。
どのような点に気をつければ、わかりやすく教えることができるでしょうか。
回答
ご質問ありがとうございます。
自分がわかるだけではなく、わからない子に教える工夫をしたいという心がけはすばらしいと思います。
わかりやすく教える万能の方法はありませんが、工夫する価値がある二点のことを話します。
一つ目は、相手の言葉に耳を傾けること。
二つ目は、あなたが説明するときの方法を多様化させること。
この二点です。
相手の視点を理解することは、相手の言葉に耳を傾けることから始まります。この子は何がわかっていて何がわかっていないのか。それを相手の言葉(行動の場合もあります)を通して理解する必要がありますね。難しいのは、相手が「ここはわかっている」とたとえ言ったとしても、実際にはわかっていない可能性があるということ。相手の言葉に耳を傾け対話を通して探ります。
あなたは教科書を読んですぐ理解できるようですね。でも、自分の理解を誰かに説明するときには一つの方法になってしまうことが多いと思います。自分が理解した順序で説明するという方法です。でも、あなたと相手は違う人間ですから、あなたの順序が相手にとってもわかりやすいとは限りません。そのときには、あなたには自明と思えることに対して説明が必要になったり、わかりきったことに対して例示が必要になることもあるでしょう。
それはつまり、あなた自身が、自分の理解を深め、説明の方法を多様化させることになりますね。いま話題になっている概念だけを説明すればいいとも限らず、相手が引っかかっているもっと前段階の概念を見つけ「まずはこれを理解するところから始めましょう」と伝える必要が出てくるかもしれません。
相手の頭の中には概念が形作られています。でもそれはどこかが欠けていたり、どこかがズレていたり、どこかが不安定だったりしているのです。相手との対話を通して「それ」がどこにあるかを見つけ、適切な形に導くことになりますね。
相手の言葉に耳を傾け、自分の説明を多様化させることで、あなた自身の理解も深まるはずです。
蛇足ですが「わからない子」という認識は改めた方がいいかもしれません。わかる子/わからない子のように認識してしまうと「どこまでわかったか」という段階的な視点を見失いがちだからです。あなた自身についても「教えるのが下手な人」と言われたくはないでしょう? それと同じです。
がんばってください!
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年5月22日 Vol.321 より
結城浩はメールマガジンを毎週発行しています。
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