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生徒からやってくるヒント(教えるときの心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです(結城メルマガVol.071より)

こんにちは、結城浩です。

今回の「教えるときの心がけ」は「生徒からやってくるヒント」というお話です。

以下では「教師」と「生徒」という言葉を使いますが、必ずしも学校の教師と生徒ではなく、誰かが誰かに教えるという状況を考えています。

 * * *

教師は忍耐のいる仕事です。

うまく教えて当たり前、まずく教えると文句が出る。生徒にもできのよしあしがあり、教材にもさまざまな難易度がある。それにも関わらず、教師は「うまく教えること」を求められる。

教師は忍耐のいる仕事です。

もっとも忍耐がいるポイントはどこにあるでしょう。それは、生徒に問いかけをして、生徒が何らかの反応を返すまでの時間です。

生徒に、こんな問いかけをしてみましょう。

 それではみなさん、答えは何になると思いますか?

生徒から瞬時に答えが返ってくることもあるけれど、待てど暮らせど答えが返ってこないことがある。「答え」が返ってこないだけではなく、まったく「反応」が返ってこないことすら多い。

教師が生徒に問いかけをして、生徒から反応が返ってこないとき、教師は忍耐を試されます。生徒が考えて、何らかの反応を返すまでじっと「待つ」という忍耐です。

 * * *

待ちきれず、つい先走ったことを言ってしまうと、せっかく生徒が心の中に作ろうとしていた答えを邪魔してしまうでしょう。

試行錯誤していた途中の生徒は、自分の考えを吟味検討するのをやめて、「教師のお話拝聴」モードに入ってしまうかもしれません。お、先生が答えを話し始めた。じゃあ、もう考えるのをやめよう……

その一方で教師は、生徒からの反応が返るのを機械的に待っていればいいというものでもありません。もしかしたら生徒は行き詰まっているかもしれない。すでに自分の現在の力量で試せることはすべて試し、なすすべもなく放心しているのかもしれない。

あるいはまた、教師の問いかけの意味がまったくわかっておらず、何をどう考え始めたらいいのか、その一歩目すら踏み出せていないのかもしれません。

簡単に言えば、生徒に問いかけを行った後の教師は、

 ・生徒の心の様子を適切に推察し、
 ・待ったほうが良ければ忍耐強く待ち、 ・タイミングを見計らって言葉をかける。

ということが求められます。
しかし、これこそ「言うは易く行うは難し」の典型でしょう。

しかも、学校教師の場合には生徒は複数人いるのです! 授業を適切に進行させることができる教師というのは、なんとすごい能力を駆使しているのかと思います。

 * * *

さて、そのように考えてきますと「教えること」の難しさのひとつは、明らかに

 「生徒の心の中をのぞき見ることはできない」

という点にあります。

教えることがらそのものについては、教師は予習して備えることができます。教材研究を行って、内容を理解し、教える順序を整え、問いかけを準備することができます。

ところが、準備万端整えて生徒に問いかけることができたとしても、そこでバトンは教師から生徒に渡ってしまいます。生徒がそこまでで何を理解したのか、問いかけをどの程度理解したのか、それに対してどのような思考を進めようとしているのか……。

教師はそれらの情報、生徒の手がかりを切に求めますが、残念ながら「生徒の心の中をのぞき見る」ことはできません。生徒が何を考えるのかに備えることは困難です。

教師が知ることができるのは、

 ・生徒の表情(困っている、目を輝かせている、放心している)
 ・生徒の行動(ノートを見る、本を見る、空をにらんでいる)
 ・生徒の言葉(はい、いいえ、わかりました、質問があります、答えは○○です)

のように生徒が外に出している情報だけです。手がかりはそれだけ。それを元にして「待つか、進むか」を決めなくてはいけません。

生徒が意欲を持ち考えを進めようとしているならば、生徒にもう少し時間を与えて待つのがよいでしょう。

生徒は意欲を持っているけれど行き詰まっているならば、何かしらのヒントを示してひっかかっているポイントを外してあげるのがよいでしょう。

すでに飽きてしまい意欲も失いつつあるならば、ヒントよりも答えを示してさっさと次に進むのもひとつの方法でしょう。

いずれにしろ、生徒の状態を知ることができれば、うまく「教えること」を進めることができるでしょう。

 * * *

「生徒の表情」を読んだり、「生徒の行動」を観察することには、教師の経験がものをいいます。生徒が無意識にやっていることだからです。

それに対して「生徒の言葉」の制御は、もう少し何とかなるかもしれません。

 ・たとえば、内容がわからないなら「わからない」という言葉を生徒に言ってもらうこと。
 ・あるいは、教師の問いかけが聞きにくかったら「聞こえませんでした」という言葉を生徒に言ってもらうこと。

つまり、生徒自身に適切な言葉を発してもらうように働きかけるのです。教師と生徒のやりとりの「プロトコル(やりとりの約束事)」が定まっていると、短い時間でも教師と生徒の間のやりとりがスムーズに進むでしょう。

生徒が適切な言葉、特に「自分の状態を語る言葉」を使ってくれるかが一つの鍵です。そして、「自分の状態を言葉にする」のが学習によい効果を及ぼすと、生徒が知っているかどうかがもう一つの鍵。

生徒は「学習内容」を学びながら「学習方法」も合わせて学んでいるものです。自分の学習に何がよいことなのか、はっきり認識していない場合があります。

もしも生徒が教師のことを「学習内容を自分に伝達するだけの存在」と認識していたら、教師に自分の状態を伝えようとは思わないでしょう。教師と生徒が向かい合って「教えること」が進行するとき、生徒が自分の状態をうまく教師に伝えたいと考えるなら、「教えること」はスムーズに進むでしょう。

 ・生徒が「自分の状態を教師に伝える」ことの意義を理解しているかどうか。
 ・自分の状態を教師に伝えることがよい学習方法であることを知っているかどうか。

教師から問いかけを受けた生徒の心には、さまざまな思いが渦巻きます。教師からの問いかけに対して、生徒は、

 「ここはわかったけれど、こっちはわかっていない」
 「言葉の意味はわかっているが、なぜこうなるかがわからない」
 「どうしてこんな方法を思いつくか、それが気になる」

ということを考えているかもしれない。しかし、このような複雑な内容を表情や行動から知ることはむずかしい。どうしても「生徒の言葉」が必要です。

 * * *

生徒は自分の状態を表現する言葉を持っているだろうか。自分の状態を表明してもいいと理解しているだろうか。

教師は生徒に対して「学習内容」だけではなく「学習方法」も伝えるといい。「言葉を使って自分の状態を教師に伝える」ことの重要性を伝えるといい。

それは、教師が生徒に対して出す「ヒント」と似ている。教師が生徒に問いかける。生徒が考えに詰まったときに教師は生徒にヒントを出す。生徒の学習内容の理解を促し、思考を効率的に先へ進めるきっかけになる。

生徒が自分の状態を教師に伝えるのは、教師へのヒントになる。生徒から教師へのヒントです。それは、生徒の状態に対する教師の理解を促し、「教えること」を効率的に先へ進めるきっかけになるでしょう。

 * * *

今回の「教えるときの心がけ」は以上です!

※Photo by webtreats.
https://www.flickr.com/photos/webtreatsetc/4155634227/

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