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人のいうことを素直に聞けない/初心者の気持ちを忘れてしまう/基礎を積み上げるのが苦手

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年11月13日 Vol.346

はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

早いもので11月ももう中旬ですね。

先日、たいへん気持ちのいい天気の日がありました。ほんの少し肌寒いんだけど、寒さよりは爽やかさが先に立ち、空を見上げれば雲一つ無い。道を歩いていると公園では小さな子供達が楽しそうに遊んでいる。

「とても気持ちがいい」と思っていると「この気持ちの良さはどんなふうに表現したらぴったり来るだろうか」という疑問が心に浮かびました。気持ちの良さを表現するのはなかなか難しいものですが、そのときにはパッと答えが浮かびました。こんな表現です。

 「一年間同じ天気にするならどんな天気がいいか
 と聞かれたときに、
 「たとえば今日のような天気
 と答えたくなるほど気持ちのいい天気。

なるほど。いささか天邪鬼な答えではありますけれど、まさにそういう気持ちの良さでした。

これから次第に寒い季節に向かいますね。どうぞお風邪など召しませぬように。

* * *

数学のココがわからないという話。

いま「数学のココがわからない」というアンケート企画を行っています。「数学ガール」や「数学ガールの秘密ノート」の執筆で参考にするため、あなたが感じている「数学のココがわからない」という情報をお寄せください。「分数の割り算」のように算数の話題でも構いません。

以下のフォームからお送りください。名前などを書く必要はないし、文章じゃなくて単語だけでもいいのでお気軽にどうぞ。

◆数学のココがわからない
https://bit.ly/hyuki-mathqq

* * *

書店の話。

『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』が先月出版されました。

ところでたまたま先日、新宿紀伊國屋書店に行き、数学書のところをぶらぶらしていたら、私の目の前にいた人が『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』を手に取ったではないですか!

テンションMAX!

はやる心を抑えつつ、少し離れた本棚の影に忍者のように身を潜めて(比喩)その人の様子を観察していました。その読者さんはぱらぱらと中身を見た後、本の後ろの値段を一瞬確認して、そのままレジに向かいました。うれしい!

目の前で自分の本が購入されるのを見るというのは大変めずらしい経験です。たぶん今回が人生で三回目か四回目。

幸せな気持ちで書店を後にしました。

* * *

バックアップの話。

先日、妻が使っているMacのディスク容量が不足するという状況になりました。原因は写真がいっぱいになっていたからです。さて対策をどうしましょうと考えていたらmacOSがまだEl Capitanという古いままになっていたのが気になりました。

そこで、妻のmacOSをMojaveにする簡単なお仕事開始。ところがディスク容量が不足し過ぎていて、Mojaveをダウンロードできない! そこでディスク容量を空けるところから作業を始めることになりました。

といってもTime Machineでバックアップをとっているので難しいことは何もありません。大きなファイルをざくざくと消し、あふれている写真をiCloudに逃がすような設定をし、Mojaveにアップグレードしてからさっきざくざく消したファイルをバックアップから戻せば作業完了。

バックアップがしてあると、何かあったらいつでも元に戻せるという安心感が生まれるのでいいですね。特に「たぶんうまくいくんだけど、もしかしたら想定外のトラブルが生まれるかもしれない」という設定を試すときに重要。安全策だけをとっていたら何も試せなくなってしまうので。

大量の写真をiCloudに逃がしたので、作業前の残り容量が9GBだったのが300GBまで増加しました。たいへん気持ちがよろしい。

ちなみにこういう作業をするときには「ひとりSlack」が非常に役立ちます。Slackというツールで自分がやったことを時系列で書き込んでおきます。バックアップ作業やバージョンアップ作業では、待ち時間が大量に発生するので、作業記録が大事なのですね。

あなたは、自分のマシンをバックアップしていますか。

* * *

今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。

目次

・理解してしまうと、初心者の気持ちを忘れてしまう - 教えるときの心がけ
・自分と他人とを比較する意味
・基礎を積み上げるのが苦手 - 学ぶときの心がけ
・人のいうことを素直に聞けない


理解してしまうと、初心者の気持ちを忘れてしまう - 教えるときの心がけ

質問

ある事項に詳しくなると、初心者でその事項が理解できなかったころの気持ちを忘れてしまいます。どこで詰まりやすいか、何がわかりにくいのかを忘れてしまうように思います。

結城さんは、理解したあとでもわかりやすく説明できるようですが、それはどうしてでしょうか。

回答

ご質問ありがとうございます。たいへん興味深い話題ですね。

自分のことなのでなかなか難しいですが、たぶん「理解したあとも、理解できていなかったときのことを覚えている」という単純な話ではないかと思います。理解はゼロ・イチではなく、グラデーションなので、さまざまな段階での理解のスナップショットを持っているのかもしれません。

何かを理解したときに「なぜ自分は理解できなかったのか」「何をきっかけに理解したのか」「自分の理解のどこにズレがあったのか」を考える性格ともいえます。理解した内容だけではなく、理解のトリガーと理解の差分を蓄える性格なのでしょう。季節の変わり目にリスがくるみを集めたがるように。

単純な例を出すと、数学の極限で lim f(x) = 0と書くところを lim f(x) → 0 と書いてしまうというのは典型的なミスです。結城も高校時代にそういうミスをしたことがあります。そのミスは、lim f(x) という表記が何を表しているかを理解していなかったことから起きました。テトラちゃんも同じ誤解をしてたみたいですね。

理解したときに周辺に散らばるクルミを集める性格は、数学以外にも当てはまるようです。打ち合わせでも雑談でもいいのですが、誰かとおしゃべりしていて、その意図がわからないとき、発言の理由を何年にもわたって考えることがあります。あの発言はどういう意図から出たのだろうと考えるともなく考えている。そういう探索タスクが複数本走っていて、それらが絡んで、人の気持ちの理解が深まるときもあります。数年後に「こういう意味だったのか」と気付くことも。

ああ、それから「概要はパッと理解するけど、ちゃんと理解するまでに時間が掛かる」という私の性格も関係しているかもしれません。説明文を読んでとりあえずのことを理解するのは早いんですが、本当のところまで理解するのは遅いんです。だから、自分の文章を何度も読み返して、書き直すことになる。その結果、わかりやすくなる。そういう側面もありそうです。

そんなところですかねえ。

自分と他人とを比較する意味

質問

自分と他人とを比較することに意味はあるでしょうか。

回答

ご質問ありがとうございます。

自分と他人とを比較することに意味はあるかどうか。それは、自分と他人の「何を、どのように比較するか」によりますね。

まったく共通点がない二つのものを比較することはできません。「比較」には何らかの共通点(共通項)が必要で、その上で違いを調べることになります。比較の目的は、比較することで自分の立ち位置を知ったり、自分の行動を変えたりするところにあるでしょう。そこまでしっかり考えた上で比較するなら「意味がある比較」は多いと思います。

傑出した他人と自分を比較して「自分はダメだ!」と落ち込んでばかりいるなら、比較する意味はありません。逆に「自分はスゲー!」と確認するためだけに比較するのもどうかと思います。どちらも、得られる情報が少なすぎるからです。何のために、自分と誰とを、どんな点において比較するのか。それをよく考えないと比較の意味はありません。

「自分と他人とを比較する」というときにありがちなのは、たまたま目の前にいた人の、たまたま目に付いた特徴と、自分のそれとをざっくりと比較することです。そして、その比較をもとにして落ち込んだり喜んだりする。それは、いわば行き当たりばったりの比較ですね。行き当たりばったりの比較をあえてしているという自覚がなければ、そのような比較は無意味でしょう。

本気で比較するなら、科学者の目になって真剣に考えて比較するのがいいですね。相手の詳細まで研究し、自分をしっかり調べ、冷静に比較する。ちょうどオリンピック選手がライバルの研究をするように。

意味のある比較もあるし、無意味な比較もある。それがあなたの質問への答えになります。

蛇足:質問への答えは以上なのですが、少し視点を変えると話も変わってきます。それは「自分と他人を比較したくなる度合い」はときに「自分の健康のバロメータ」になるという話です。何かに夢中に取り組んでいるとき、喜びに満たされているとき、自分と他人とを比較する気持ちにはなりません。必要以上に他人が気になるとき、意味があるかどうかとは別に他人と自分と比較してしまうとき、「自分の健康」について思いを馳せるのはいいことかもしれませんね。

基礎を積み上げるのが苦手 - 学ぶときの心がけ

質問

さまざまな学術書や教科書を読むとき、基礎的な部分を学ぶのが苦手です。

特に数学などは読み飛ばして進むわけにはいかないので、本を初めから読んでいきます。でも、ものすごく簡単なことを冒頭から長々と書かれると「分かってるから!」と面倒くさくなり投げ出してしまいます。かといって、そこを飛ばして先を見てみても、基礎ができていないので当然出来ません。

基礎に対する忍耐力不足なのか、基礎に向き合う体力不足なのか、どうしても初めから読んで勉強ができません。もちろん、先を見ても出来ないということは、基礎を理解できていないのでしょうが、先に進めない焦りとイライラでじっくり向き合えません。

自分はどうも、文字通り一瞬で理解しないと気がすまないようなのです。

昔から努力もしないで乗り越えられてきたので、いま壁にぶつかっても、努力の仕方も、勉強のしかたさえも分からなくなっています。そんな過ごし方をしてきたので、中途半端なものしか積み上げておらず、きちんと説明できることもなければ、ふだん使っている言葉の意味すら怪しいものになっています。

そこで基礎から、何もかも初めから積み上げ直すつもりで勉強しようとしていたのですが上記の通りです。

このようなとても愚かな私に、何か処方箋か劇薬はありませんか。

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結城浩

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結城浩

書籍執筆者。著書に『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など。http://bit.ly/hyuki-mm にて「結城メルマガ」をnote配信中。https://bit.ly/girlnote にてcakes連載中。2014年度日本数学会出版賞受賞。

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