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教える準備(教えるときの心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです。

こんにちは、結城浩です。

「教えるときの心がけ」のコーナーです。

今回は「教える準備」についてお話ししましょう。

●教師と生徒

「教える」という活動では、教える人と教えられる人(学ぶ人)がいます。

お話を進める都合上、ここでは「教師」と「生徒」と呼びましょう。「教師」と「生徒」といっても実際には、「先輩」と「後輩」かもしれませんし、「上司」と「部下」かもしれません。

要するに、

 ・教師 …… 教える人
 ・生徒 …… 教えられる人(学ぶ人)

という関係だと思ってください。
このコーナーでは、主に「教師」の側に立つ人へ向けてお話をします。

●教える準備

教師の役目は生徒に教えることです。

でも教師は、生徒に接しているときだけが仕事ではありません。生徒に教えるためには「教える準備」をする必要があります。教師が「教える準備」をしないなら、うまく教えることは難しいでしょう。

教える前に、教師は教える内容を学んでいる必要があります。教える内容を知識として単に頭に入れておくだけではいけません。その内容を深く理解している必要があります。

たとえば、数学の教師が「二次方程式の解の公式」を生徒に教えるとしましょう。「二次方程式の解の公式」に関して、教科書や参考書に何が書かれているかを教師が頭に入れておくことはもちろん必要です (数学の教師をやっているなら、当然頭に入っているわけですけれど)。でも「方程式」「二次方程式」「解」「解の公式」といった用語を暗記しているだけではだめですよね。ずっと深く理解する必要があります。つまり…

 ・説明できる?
 
  その用語の「意味」を平易な言葉で即座に説明できるか。
  短く説明せよ、といわれれば短く説明できるか。
  長く説明せよ、といわれれば長く説明できるか。
  一言で説明せよ、といわれれば一言で説明できるか。
  詳細に説明せよ、といわれれば詳細に説明できるか。
 
 ・具体例が出せる?
 
  その用語の「具体例」を出せるか。
  もっとも簡単な例を出せるか。
  典型的な例を出せるか。
  複雑な例を出せるか。
  生徒が誤解しやすい例を出せるか。
 
 ・関連する用語を出せる?
 
  その用語と関連する「別の用語」を出せるか。
  類似の用語を出せるか。
  反対の用語を出せるか。
  より発展させた用語を出せるか。

…ということです。

「知識として頭に入れていること」と、「内容を深く理解していること」との間には、とても大きなギャップがあります。

「自分で《なるほど》と言うこと」と、「生徒に《なるほど》と言ってもらうこと」との間には、とても大きなギャップがある、という表現もできるかもしれません。

生徒に《なるほど》と言ってもらうためには、より深い理解を求めて準備をしておくことが大切なのです。

●どこまで準備をすればいいのか?

学校の教師ならば、「教える準備」に十分時間を掛けられるかもしれません。それがメインのお仕事ですからね (学校は忙しいのでそうでもないのでしょうか…)。しかし、教えることが仕事の一部である人は、なかなか十分な時間を掛けることも難しいでしょう。

たとえば会社で、先輩が後輩に仕事の手順を教えるときに、教える準備に何日も掛けることは難しいかもしれません。

では、どこまで準備をすればいいのでしょうか。

そのときのよい判断基準は、

 「生徒のことを考える」

です。教える準備をするときには、自分の生徒のことを想像します。自分が生徒に教えているときの場面を想像します。たとえば…

 ・最初に生徒に話すことは何だろう。
  そのときの生徒の反応はどうかな?
  生徒の表情はどうかな?
  生徒の心の中にはどんな思いが浮かぶ?
 
 ・自分が生徒にここまで教えたら、
  生徒からはどんな質問が出てくるだろうか?
  質問してくれるかな?
  生徒はうまく質問を言語化できるかな?
 
 ・生徒に作業の手順を教えるときには、
  口頭でどこまで説明したらいいかな?
  どこから具体的な作業を見せたらいいかな?
  生徒は手順を守れそうかな?
  手順は多すぎないかな?
  例外を最初から話したほうがいいかな?
  どこまで自分がやってみせて、どこから生徒にやらせればいいかな?

…この調子でどんどんと想像していきます。気付いたことを紙にメモしながら、生徒とのやりとりをずっと想像していくのです。

繰り返し書きますが、ここで大切なのは「生徒のことを考える」点です。教えるときには必ず「教師」と「生徒」がいます。生徒に接するとき、教師はもちろん生徒のことを考えています。でも「教える準備」のときも同じなのです。

どんなちょっとしたことを教える場合でも、前もって生徒のことを考えて「教える準備」をしておくのはいいことです。準備のための時間が長ければ長いなりに、短ければ短いなりに、必要なものが見えてくるはずです。

教える都合だけを考えて「教える準備」をするのは、しないよりはずっとよいですが、効果は少ないです。教える準備では「生徒のことを考える」のが大切なのです。

●まとめ

ということで――
今回の「教えるときの心がけ」のコーナーでは、

 「教える準備」

という話題をお話しました。

もちろん今回の話で「教える準備」についてのすべてを説明したわけではありません。まずは「生徒のことを考える」という最重要ポイントをお話ししました。

次回もどうぞお楽しみに!

あ、そうだ。

「教えるときの心がけ」はダイジェスト版をWebでも公開しています。教えることに興味がある人はぜひお読みください。自分でいうのも何ですが、教える立場の人は必見です。

このWebページには、大学生や高校の先生、SEの方などからの感想文も公開しています。読むと元気が出てきますよ!

 ◆教えるときの心がけ(Web版)
 http://www.hyuki.com/writing/teach.html

この文章は「結城メルマガ」Vol.003の内容を編集したものです。
http://www.hyuki.com/mm/

(Photo by velkr0. https://www.flickr.com/photos/velkr0/3472576304)

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