人の話をさえぎらない(コミュニケーションのヒント)
※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです。
こんにちは、結城浩です。
今日は「人の話をさえぎらない」ということをお話ししましょう。
話し合いで、発言者の言葉を「さえぎる」のは基本的に良くないことです。
大げさに言えば、発言をさえぎることにはリスクが伴います。
・発言者が持っている情報をみなが共有しないうちに議論が始まってしまうリスク。
・発言者が「ぜんぶ言い切らなかった」ことで不満を感じるリスク。
・発言者が「おれもおまえの言葉をさえぎってやろう」という気持ちになるリスク。
でも、話し合いで、発言をさえぎる人は意外と多いものです。相手の言葉をなぜさえぎるのでしょうか。
・相手に長いこと話させると、場の支配権を奪われた気持ちになるから。
・相手のいっていることはもう自分はわかっているのだから、ながながと聞くのは時間の無駄だと思うから。
・自分の話す内容の方が重要なんだ!先にそちらを話題の中心に置きたい!…から。
こういう気持ちも理解できなくはありません。でも、もしも参加者全員がこういう気持ちになったらどうなるでしょうか。みんなが相手の言葉をさえぎりあい、議論が先に進まないという事態に陥ります。そうですよね。
ちょっと試しにそういう状況を描いてみましょうか。
みんなが相手の言葉をさえぎってばかりだとどうなるか。
《さえぎってばかりの話し合い》
A「私はその開発プランには賛同できないです。まず、この間の無理な開発で、メンバーの士気がだいぶ下がっています。それから——」
B「それは別の話だろう。作業者のモチベーションアップこそリーダーの仕事だし、それに——」
A「ちょっと待ってください。モチベーションをダウンさせている最大の原因は無理なスケジュールでしょう! そもそもこの間の——」
B「あの開発案件は絶対にとらなきゃいけなかったんだよ。納期が第一だったし、ライバルの○社がちょうど参入——」
A「違うって。そこから違うんだなあ。納期が第一といっても、開発メンバーのことを——」
やれやれ。
相手の発言をさえぎる対話を書いているだけで、何だか背中がむずむずしてきます。「人の話は、ちゃんと最後まで聞こうよ」って言いたくなります。なりませんか?
上記の「対話」を聞いていると、次のことがわかります。
・相手の言葉を抑えようとしてさえぎっても、完全に発言を封じることはできない。
・話の主題がどこにあるのか、だんだん不明確になっていく。
つまり、結局、相手の言葉をさえぎっても、何の意味もないのですよ。
発言を抑えたいなら、発言をさえぎるのではなく、逆に「可能な限り話させる」のが一つの方法です。みんな黙って聞く。好きなだけいくらでも話してくださいな。どうぞどうぞ。
そして、誰かが要点をまとめ、「結局、あなたの言いたいのはこういうことですか?」と問う。そして、一つずつそれに答えていくのです。
そういう状況を描いてみましょうか。
《可能な限り話させた様子》
A「私はその開発プランには賛同できないです。まず、この間の無理な開発で、メンバーの士気がだいぶ下がっています。それから——」
B「それは別の話だろう」
C「まあまあ、Aさんの話を最後まで聞きましょう」
A「それから、○○の開発を新規に始めるよりは、△△の安定駆動を先に検討すべきだと思います。ユーザからの苦情が殺到しているんですよ。それから、前回の開発での反省が、この開発プランに生かされていません。それから、ええと…」
C「Aさんの意見はそのくらいですか」
A「それから…まあ、そのくらいですね。だからこの開発プランには賛同できませんね」
C「ちょっと整理しますと、Aさんはこの開発プランには賛同できない。理由は3つあって、(1)メンバーの士気、(2)△△の安定駆動を優先、(3)前回の反省を踏まえるべき、とこういうことでしょうか(板書する)。では、Bさん、さっき言いかけていたことをどうぞ」
B「いまCさんが整理してくれたうちの、(1)メンバーの士気をここで問題にするのは何だか別な話じゃないかと——」
A「何でだよ」
C「おっと、まずはBさんの話を聞きましょう」
B「でも、確かに(2)に出ていた△△の安定駆動を優先というのは言えるなあ。かなり問題になっているから。(3)の前回の反省という点では僕もそう思う。でも確かこのプランはまだ草稿段階なんだろ。だったら、ちゃんと反省を踏まえるように練り直せばよいということかな」
C「では、見解が分かれた「メンバーの士気」に関して、もう少し具体的に内容を検討しましょうか。Aさん、補足説明してもらえますか」
A「はい。具体的に言うと、開発メンバーのうち、□□さんのことなんですよ。彼はほかの業務を兼務していて…」
さていかがでしょう。みんながさえぎり合っている状況よりはだいぶましですよね。
私たちは、一度に一つのことしか話すことができません。ですから、三つの項目を話そうとしても、一つめで発言を遮られたら、残りの二つを話すことはできなくなります。当然のことですね。
建設的な話し合いでは、参加者の頭脳をうまく連係させて問題解決に当たる必要があります。そのためには、各人が考えている題材を「場」に並べなければなりません。その題材がそもそも重要なのかそうでないのか、解決すべき問題なのか単なる情報なのか、それは、場に出してみなければわかりません。
考えを「場に出す」ことが重要。
人の言葉を途中でさえぎるというのは、題材を「場に出す」ことを阻止しています。ですから、人の言葉をさえぎることは、建設的な話し合いを阻害する危険性につながるのです。
もちろん、要点があいまいなままにダラダラと話し続ける人がいるのも事実です。そういう人は、司会者がうまくさばく必要があります。でもそれは、話し合いの参加者が互いに互いの発言をさえぎり合うこととは違います。
今度の打ち合わせで、人の話をさえぎってばかりいる人がいたら「まあまあ、最後まで話を聞きましょうよ」というディレクションを試みてはどうでしょう。
もしかしたら、何か変化が起こるかも。
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