停滞プロジェクトを再開する三つの指針(仕事の心がけ)
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年3月29日 Vol.209 より
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「仕事の心がけ」のコーナーです。
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『数学ガールの秘密ノート/場合の数』の再校読み合わせも終わり、これで本書の原稿に関する作業はほぼすべて終わりました。あとはサイン本を作ったり、アナウンスしたりなど、発売前の楽しい活動が残っています。
さて。
今回の『数学ガールの秘密ノート/場合の数』は、結城の中でNOTE7というプロジェクト名がついていました。NOTE7が一段落を迎えようとしている現在、結城が考えなければならない最優先プロジェクトは、GIRL6です。すなわち、
『数学ガール6』
です。前回のGIRL5である『数学ガール/ガロア理論』が刊行されたのが、約4年前、2012年のことですから、ずいぶん間があいてしまいましたね。もちろん何もしていなかったわけではなく、少しずつ勉強を進め、執筆も続けていたのです。でもまだまだ道遠しという状況。
この文章は『数学ガール6』の現状についてというよりも、しばらく進んでいなかったプロジェクトを再開する話として書いています。題して、
停滞プロジェクトを再開する三つの指針
です。
もしもあなたが「やらなくちゃいけないとわかっているけれど、停滞していてなかなか取りかかれない活動」を持っているなら、この文章はあなたのために書かれたものといえます。
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●心と戦う話
まずは前提として「心と戦う話」をしましょう。
あまり進捗がよくないプロジェクトや、しばらく中断していたプロジェクトを再開するときには、「自分の心と戦う」という状況になりがちです。自分の心と戦うというのは、
・何で私はこんなにプロジェクトを放置してしまったんだろうか。
・時間がこんなに過ぎたのに、私の成果はぜんぜん出ていない。
・私の能力ではどうもだめなのではないだろうか。
といった思いと戦う。そういう意味です。これは仕事や勉強をしようとしている人ならば、多かれ少なかれ感じたことのある気持ちではないかと思います。
誰しもこのような「自分の心と戦う」経験はあると思いますが、ここからどういうアクションを取るかは、人によって違うでしょう。
「まずいぞ」という状況認識や、「やばいな」という危機感をバネにしてプロジェクトを再開し、新たな気持ちでバリバリと仕事を進められる人もいるかもしれません。
でも、そうはできず、何となく手が付かないまま、うじうじと過ごしてしまう人もいるでしょう。
結城自身はどちらかといえば「うじうじ」と過ごしてしまうタイプですね。いつもではないですよ。ぱっと気持ちを切り換えてバリバリと進められることもあります。でも、手が付いていなかったことを気にして、どうしてもおっくうになってしまう。そして、おっくうで手が付かないことによって、さらに「自分の心と戦う」ときの戦況は悪化していく……結城はつい、そうなりがちです。
そもそも、知的生産に関わるプロジェクトを進めるときには、心の持ち方がとても大切です。つまり、生き生きとした気持ちで前向きにプロジェクトに向かっているときや、落ち着いた気持ちで淡々と作業を進めているときはいいのですが、心に何か「気になること」を保ちながら知的生産を行うのはとても難しい。
だから、できるだけ心の重荷を軽くした状態で仕事に向かいたい。だから、「進捗が良くない」という状況で「自分の心と戦う」方に心的なエネルギーが奪われてしまうのは非常につらい。壊れかけたエンジンで進もうとしているような、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような、いや……それよりも、「ギアとハンドルは動かしているけれどアクセルを踏んでいない」ような、そんな感覚に陥ります。
こういう話はなかなか重苦しいですね。何らかの打開策が欲しいところ。少なくとも打開策の「案」くらいは。
仕事に関するTipsやコツやハックはWebでよく見かけますが、「そのコツが毎回有効とは限らない」や「そのコツは自分にはあてはまらない」というのもよくあります。
結城の経験では、他人のコツというのはあまり大きな参考にはならず、他人のコツを聞いているうちにふと気付いた「自分なりのコツ」がよく効くことが多いようです。
結城はいま『数学ガール6』に力を注ごうとしているのですが、いまのところ効いているのは以下の三つの指針です。
・指針1. これまでと違う場所を決める
・指針2. 毎朝の一番いい時間に、その決まった場所で、ファイルを開く
・指針3. 一定時間経ったらやめる
順番にお話ししましょう。
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