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はてなマークを見極めよう(教えるときの心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです。

こんにちは、結城浩です。

「教えるときの心がけ」のコーナーです。

今日は「はてなマークを見極めよう」という話をしましょう。

人に何かを教えるときには、しばしば「人に何かをやってもらう」という場面が出てきます。

すごく簡単な例を出しますね。

奥さんが出かけるとき「サラダを作ってあります」と自分の夫に教えるとします。そんなとき、奥さんはこう言います。

 妻「サラダを作ってあるから、お昼に食べてね」

このときは、相手にサラダを食べてほしいわけです。せっかくサラダを作ったんだから、食べてほしい。しかし、それに対して夫が、

 夫「えー?

という返事が返す場合があります。さあ、ここに「はてなマーク」が登場しました。「えー?」の「?」ですね。

ご家庭をお持ちの方なら思い当たることがあると思いますが、これだけのやりとりに端を発して、家庭内でもめごとが起きたりします。

 妻「サラダを作ってあるから、お昼に食べてね」
 夫「えー?
 妻「なにそれ。せっかく作ったのに、食べたくないってわけ?」
 夫「違うよ」
 妻「だいたいね、あなたはいつもそうなのよ」
 夫「違うよ、違うって」

などなど。

# 念のために書いておきますが、これは我が家での出来事ではありません。
# あくまでフィクションです。フィクションです。ほんとうです。

最初のやりとり、

 妻「サラダを作ってあるから、お昼に食べてね」
 夫「えー?」

から、会話の何かを掛け違えているということは推察できますが、いったい何を掛け違えているのかは、落ち着いて考えてみないとわかりません。

「えー?」と発言した夫の真意として、すぐに思いつく可能性は三つあります。

 (1)「がよく聞こえなかった」
 (2)「意味がよくわからなかった」
 (3)「それには従えないという意思の表明だった」

(1)「声がよく聞こえなかった」というのは、最初の「サラダを作ってあるから、お昼に食べてね」という「言葉そのもの」を聞き逃したという意味です。

別のことを考えていたり、ヘッドフォンで音楽を聞いていたり、テレビがうるさかったりした場合ですね。言葉そのものが届いていないけれど、何かを言われたことはわかった。そこで「えー?」といって「聞き返した」わけです。

「えー?」というのは「もう一度言ってよ」という意味合いです。この場合には、別にサラダをお昼に食べたくないと言っているのではありませんし、反抗しているのでもありません。

(2)「意味がよくわからなかった」というのは、「サラダを作ってあるから、お昼に食べてね」という言葉は聞こえた。でも、その言葉に関連した疑問が起きているときです。

 「食べてねというけれど、いったいどこに置いてあるの?」
 「どんなサラダなのかな、ポテトサラダかマカロニサラダかな?」
 「もしかしていまから出かけるところ?」

何かしら疑問が生じたので「えー?」と聞き返したのですね。

(3)「それには従えないという意思の表明だった」というのは、「サラダを作ってあるから、お昼に食べてね」という言葉そのものは聞こえたし意味もわかった。疑問もない。でも、それには従えないというときです。

 「昨日も一昨日もサラダだったんだから、今日は別のものを食べたいよ」
 「お昼には自分は出かけてそとで食べるつもりなんだから食べないよ」
 「こないだのサラダは激マズだったんだよ。もう食べない!」

このような「従えない」という意思を「えー?」という言葉に託したのです。

夫が(1)や(2)のつもりで「えー?」と言ったのに、妻は(3)のつもりで「えー?」という発言を聞いた。そのとき会話の掛け違えが起きたことになります。

このような会話の掛け違いというのはよく起きるものです。

「えー?」という言葉が、

 「声がよく聞こえなかったのか」(声)、
 「意味がよくわからなかったのか」(意味)、
 「それには従えないという意思の表明だった」(意思)、

のどれなのかによって、その後の適切な対応は変わります。


 ・声が聞こえないなら、もう一度言うなり、テレビを消すなりすればいい。
 ・意味がわからないなら、やりとりして意味を明確にすればいい。
 ・意思の表明なら、さらに別の話し合いになるでしょう。

いずれにせよ、「はてなマーク」を見極めることが必要です。

会話は双方向ですから、お互いの歩み寄りが必要です。両者が会話の掛け違いを補正するように心を向けないと、修復は難しくなります。

両者に信頼関係があるなら修復は容易ですが、信頼関係がないとときには修復は困難です。そのときには「声・意味・意思」を外さないような注意が必要になります。

ここまで「サラダを食べてほしい」という日常の会話を例に使いましたが、これは一般化できます。

 ・学校で生徒に授業を行う場合
 ・顧客に商品説明を行う場合
 ・上司に自分の企画をプレゼンする場合

どんな場合でも、まったく同じことに会話の掛け違えは起きるものです。明確な言葉になっていなくても掛け違えは起きます。

 ・授業中に、生徒が「?」と首をかしげた。
 ・説明していると、顧客が「?」というつぶやきを漏らした。
 ・プレゼン途中で、上司が「?」と眉をひそめた。

相手は「はてなマーク」を付けたわけですが、それがいったい「声・意味・意思」のどのレベルのものなのかを見極める必要があります。

「声」や「意味」のレベルでの「?」だったのに、それを「意思」と勘違いして、

 「この生徒は自分の指示に従わないつもりか、いかんなあ」
 「あ、やっぱりだめか、今回も営業失敗だあ」
 「せっかくよく練った企画なのに、没にしようとしているな!」

などと先取りしてしまわないように気をつけたいですね。

ということで――
今日の「教えるときの心がけ」では、

 「はてなマークを見極めよう」

というお話をしました。いかがでしたか。

考えてみますと「大きな声ではっきりと話す」というのは、「声・意味・意思」の「声」でのずれが起きないようにする工夫ですね。

また「適切な用語を使う」や「用語をきちんと定義する」というのは、相手と自分の間で「意味」でのずれを小さくする工夫かもしれません。

次回もどうぞお楽しみに!

この文章は「結城メルマガ」Vol.009の内容を編集したものです。あなたもぜひご購読ください。
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結城浩

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書籍執筆者。著書に『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など。http://bit.ly/hyuki-mm にて「結城メルマガ」をnote配信中。https://bit.ly/girlnote にてcakes連載中。2014年度日本数学会出版賞受賞。

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