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教えるときの二刀流(教えるときの心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです。

こんにちは、結城浩です。

「教えるときの心がけ」のコーナーです。

このコーナーでは「教える」という言葉をかなり広い意味で使っています。このコーナーでのお話は、先生が生徒に教える場面だけではなく、会社で上司が部下に教えたり、先輩が後輩に教えるという場面にもあてはまると思います。それから、親が子供に教える場面(逆に子供が親に教える場面)にもあてはまるでしょう。

説明の都合上「教師」と「生徒」という表現を使いますが、あなたの立場に応じて、自分が教える場面の役割に読み替えてくださいね。

今日は「教えるときの二刀流」という話をしましょう。

●教えるときの二刀流

「教えるときの二刀流」というのは、

 相反する(あいはんする)二つのものを使って教える

という技法のことです。二刀流(にとうりゅう)というのは、剣士が右手と左手の両方に刀を持ち、両方を使う流儀です。どちらかに偏ってはいけないし、もちろんどちらか片方を捨ててもいけない。両方を互いに補わせ、両方を最大限に用いるという方法です。

教えるときにはこの「二刀流」がときどき姿を現します。

今日は、

 ・インフォーマルとフォーマル
 ・バーバルとビジュアル

という二種類の二刀流の話をします。

●教えるときの二刀流 - インフォーマルとフォーマル

教えるときの二刀流、まずはインフォーマルとフォーマルから。

 ・インフォーマル(informal)というのは、ここでは
  形式や厳密さにこだわらず、大づかみに教える方法です。

 ・フォーマル(formal)というのは、ここでは
  あらかじめ定めた形式に従ってきっちり厳密に教える方法です。

洋服でいえば、

 ・インフォーマルはTシャツやジーンズ。
 ・フォーマルは背広や礼服。

そんなイメージです。

インフォーマルに教えると、生徒は全体像をさっとつかみ、雰囲気やイメージをすばやく捉えることができます。でも、生徒の理解はおおざっぱなものになってしまうでしょう。

 ◆インフォーマルな教え方の例:

 「ボールをポーンと投げると、ひゅうっとカーブを描くよね。
 これが放物線なんだよ」

インフォーマルに対して、フォーマルに教える場合には、その形式や言葉の意味を厳密に理解するところから始めなければいけませんから、時間や手間がかかります。抽象的になることもあり、パッと把握できないことがあります。その代わり、しっかり理解すれば内容を厳密に捉えることができます。

 ◆フォーマルな教え方の例1(Wikipediaより引用、一部省略):

 平面幾何学において放物線とは、準線と呼ばれる直線 L と、
 その上にない焦点と呼ばれる一点 F が与えられるとき、
 準線 L と焦点 F とをともに含む唯一つの平面 π 上の点 P であって、
 P から焦点 F への距離 PF と等しい距離 PQ を持つような準線 L 上の
 点 Q が存在するようなものの軌跡として定義される平面曲線である。

 ◆フォーマルな教え方の例2:

 「座標平面で方程式 y = ax^2 + bx + c (a≠0) が描く曲線は
  放物線になる」

インフォーマルに教えるか、フォーマルに教えるか、これはどちらが良い、どちらが悪いというものではありません。教えるときの目的と状況、それから生徒の理解やモチベーションの度合いに応じて、両方を補いつつ自由自在に使いわける必要があるでしょう。

教える順序としては一般的に、

 まずはインフォーマルに教える
  ↓
 それからフォーマルに教える

という順番がよいと思います。

ちなみに、このコーナーのタイトルは、この教える順番に合わせて「インフォーマルとフォーマル」というタイトルにしています(「フォーマルとインフォーマル」だと逆転してしまうという意味です)。

 ◆インフォーマル→フォーマルの順

 インフォーマルな表現で大ざっぱに話し…

 「ボールをポーンと投げると、ひゅうっとカーブを描くよね。これが放物線なんだよ」

 それから、フォーマルな表現で厳密に話す。

 「座標平面で方程式 y = ax^2 + bx + c (a≠0) が描く曲線は放物線になる」

 ◆インフォーマル→フォーマルの順

 インフォーマルな表現で大ざっぱに話し…

 「バイナリーサーチというのは、たくさんのデータの中から
  目的のデータを見つけ出すアルゴリズムの一種です。
  バイナリーサーチでは、データを大きく二つの山にわけて、
  どちらの山に目的のデータが入っているかを判別し、
  目的のデータが入っている山のほうをさらに二つの山にわける…
  という処理を繰り返します」

 それから、フォーマルな表現で厳密に話す。

 「以下に示すのが、バイナリーサーチをプログラムとして書いたものです」
 (プログラムの提示)

まずインフォーマルに教えて、生徒に大ざっぱに全体像を理解してもらう。それからフォーマルに教えて、より正確で厳密に内容を理解してもらう。これが基本形です。何か特別な理由がない限り、インフォーマル→フォーマルの順番で教えるのが良いでしょう。

「インフォーマル→フォーマル」という順番は、「既知から未知へ」という順番にも通じるものです。インフォーマルに教えるときには、生徒の直観や生徒のこれまでの経験や生活に題材をとり、直観に訴えます。ですから「既知」からスタートしていることになりますね。

●余談:ええカッコしたくなる教師の誘惑

ちょっと余談になりますが、注意を一つ。

いま結城は、教えるときには「インフォーマル→フォーマル」という順番が基本的に良いとお話ししました。「既知から未知へ」という順番も良いですね。

でも、不思議なことに、わざわざこの逆をやりたがる人がいるのです。

 ・生徒が全体像をつかんでいないのに、形式的に厳密に教えたがる人
 ・生徒のなじみのない、知らないことから教えたがる人

そして当然ながら、このような教え方は生徒を置き去りにしてしまいます。

ここからは想像ですが、教師の心の中には、

 ・奇をてらった教え方をしたくなる
 ・生徒にあっといわせたくなる
 ・自分がどれだけ難しいことを知っているか見せつけたくなる

という気持ちがときどき起きるのかもしれません。そのために、フォーマルから始めたり、未知から始めたりするのかも。

なぜこんな想像をするかというと、実は結城自身、本を書いているときにこういう気持ちが心に浮かぶからです。生徒に対して(読者さんに対して)「ええカッコ」したくなるのですね。

 「ほら、ボクってこんなにすごいんだぞ」

と生徒にアピールしたくなる。これは大きな誘惑です。でも、これは教師としては減点ですね。

もちろん、生徒に対して良い効果があると考えてフォーマルに始める教師もいるでしょうけれど、結城の場合にはそういうことは少なくて、単に「ええカッコ」したい気持ちでフォーマルに始めてしまう。難しい用語から始めてしまう。けれど、教えるときには、しょっちゅう初心に帰る必要があります。

 ・文章でいえば《読者のことを考える》
 ・教えるときには《生徒のことを考える》

この態度が重要なのです。

くどいですが「ええカッコ」したくなる誘惑はとても大きいです。意識して振り切らないと簡単に陥ります(結城はそうです)。

余談は以上です。話を「教えるときの二刀流」に戻しましょう。

●教えるときの二刀流 - バーバルとビジュアル

もう一つの「教えるときの二刀流」についてお話しします。バーバルとビジュアルです。
教えるときには、

 ・バーバル(verbal):言葉や記号を使って表現する
 ・ビジュアル(visual):図や絵を使って表現する

この二つの方法があります。これもまた「教えるときの二刀流」です。

バーバルとビジュアルはどちらが良いというわけではありません。どちらも同じように大切です。

 「バーバルな教え方」というのは、「言葉や記号」を使って説明するものです。言葉を使えば、細かいところまで厳密な表現ができますし、描くことができない抽象的な概念も取り扱いやすくなります。その一方で、単なる記号の羅列を扱っているだけになってしまい、生徒が意味をとらえないという危険性もあります。

 「ビジュアルな教え方」というのは、「図や絵」を使って説明するものです。描かれたものを教師と生徒が共有しますので、大きな誤解を防ぐ効果があります。全体像も理解しやすいでしょう。その一方で、生徒が何となくわかった気になってしまい、実際の論理的な内容は把握できていないという危険性もあります。

二刀流をうまく使いこなして、バーバルとビジュアルの両方を生かして教えるとよいでしょう。具体的には、

 ・いったん「言葉」で説明してから、再確認の意味で「図」を描いてみせる。
 ・あるいは逆に、「図」を描いてみせてから、「言葉」でその図を解説する。

このようにすることで相補的な教え方が実現できるでしょう。

それから、もう一つ。生徒によって、バーバルとビジュアルで理解のしやすさが違うということも覚えておくとよいでしょう。

 ・ある生徒は言葉や記号を並べて教えてもらったほうがわかりやすく感じる
  (バーバルな能力が優位な生徒)

 ・ある生徒は図や絵を使って教えてもらったほうがわかりやすく感じる
  (ヴィジュアルな能力が優位な生徒)

これは生徒だけではなく、教師も同じです。

 ・ある教師は言葉や記号を並べて教えたほうがしっくりくる。
  (バーバルな能力が優位な教師)

 ・ある教師は図や絵を使って教えたほうがしっくりくる。
  (ヴィジュアルな能力が優位な教師)

どちらが優位になっているかは人それぞれです。

生徒の理解の様子を見ずに、自分のやり方を押しつけるのは教師が陥る誤りの一つです。それは「こういう教え方ならわかってくれるだろう」という基準を、自分に置いてしまう誤りです。

 (危険な誤り)
 「自分がわかりやすい方法だから、生徒もわかってくれるだろう」

このような予想が当たるのは、自分と生徒のタイプが同じときだけです。実際に教えてみて、バーバルとビジュアルのどちらが効果的だったか、相手がほんとうに理解するのはどちらが効果的かを試さなければいけません。

多くの場合に有効なのは二刀流です。つまりバーバルとビジュアルの両方を使う方法です。

言葉を使って説明するとともに、それと同じ内容を図で説明しましょう。そして、その際には言葉の説明と図の説明が一貫している必要があります。一貫していないと生徒は大混乱に陥ります。

わかりやすい説明図を描くことは、非常に難しく、想像以上に時間がかかるものです。説明のための良い図の描き方については、またいつかゆっくり話しましょう。

●まとめ

教えるときに「相反する二つの方法」を使うのは効果的です。

 ・「インフォーマルとフォーマル」を使うと、生徒の理解とモチベーションを保ちつつ、厳密な話ができますし、
 ・「バーバルとビジュアル」を使うと、教師と生徒の理解しやすいタイプを補いつつ教えられます。

教えるときの二刀流をうまく使うためには、

 ・自分は「何を」教えようとしているのか

を熟知している必要があるのはもちろんですが、

 ・自分は「どのように」教えようとしているのか

についてもしっかり意識している必要がありそうですね。「教える」というのはなかなか難しく…そして楽しいものです。

ということで――
今日の「教えるときの心がけ」のコーナーは、

 「教えるときの二刀流」

というお話でした。いかがでしたか?
ぜひ、あなたのご意見やご感想をお聞かせください。

次回もどうぞお楽しみに!

 * * *

この文章は「結城メルマガ」Vol.010の内容を編集したものです。あなたもぜひご購読ください。
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教えるときの二刀流(教えるときの心がけ)

結城浩

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結城浩です。はげまされるのはとってもうれしい!
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本を書いています。『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など。https://link.hyuki.net/mm でメルマガ配信中。https://link.hyuki.net/girlnote でcakes連載中。2014年度日本数学会出版賞受賞。

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先生が生徒に、上司が部下に、先輩が後輩に、親が子供に「教える」ときはよくあります。そんなときの心がけをお届けします。

コメント (2)
感想です。教わる心は少なく知的好奇心は多い。師弟関係が消滅した社会。幸・不幸の感覚は具わっている。これ等が眞なら人は不幸を知って後に幸を求めるのでしょうね。とっても面白かったです。(´・ω・`)
誘惑多いです(笑)。でもインフォーマルからフォーマル、さらにバイナリーサーチという方法論、為になりました。
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