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難易度調整をどうするか(教えるときの心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです(結城メルマガVol.069より)

こんにちは、結城浩です。

「教えるときの心がけ」では、人に何かを伝えるとき、教えるときに心がけることをお話しします。

今回は「難易度調整」というお話です。

 * * *

結城は教師ではありませんから、直接面と向かって誰かに「教える」という機会はあまりありません。結城が誰かに何かを教えるときというのはほとんどの場合、

 自分が書いた文章を通じて教える

ということになります。もう少し具体的にいうなら、自分が書いた本を通じて教えるということになると思います。

面と向かって教えることと、文章を通じて教えることの最も大きな違いは、

 生徒の反応をリアルタイムで見ることができるか

という点ですね。

目の前に生徒がいて教えているならば、生徒の表情や生徒の質問などを通じて(程度問題はあるにせよ)理解度を知ることができます。「わかっているのかわかっていないのか」がわかる。それが面と向かって教えることの特徴です。

一方、文章を通じて教えるというのはその点で無力です。生徒が文章を読んでいて理解しているのかどうか、文章を書いている時点でわかるはずがありません。わかる・わからない以前に、

 そもそも読んでもらえているのかすらわからない

というのが文章を通じて教えることの特徴です。

 * * *

そこで「難易度調整」が大事になってきます。

難易度調整というのは、

 ・どういう難易度で教え始め、難易度をどのように変化させていくか。
 ・そして、最終的に自分が教える全体の難易度をどのくらいに設定するか

という二点のことです。

難易度を考えるうえで理解しておかなければならないのは、

 ・難易度が高すぎると、ついていくのが難しい
 ・難易度が低すぎると、ついていくのがつまらない

この二点です。当たり前のことですが。これを前提とした上で、難易度設定について工夫をこらすのが教えるときの心がけになります。

 * * *

難易度調整で結城が心がけていることはこうです。

 ・導入部分の難易度は非常に低めに設定する
 ・しかし、最終的な難易度は少し高めに設定する

このように心がけています。

●導入部分の難易度

導入部分でいきなり難しくするのは好ましくないと思っています。その理由は簡単で、しょっぱなから難しいと、生徒(結城の場合は読者)はあきらめてしまうからです。

 「ああ、これは自分にはわからないくらい難しい話なんだ」

こう思わせるのは望ましくありません。特に文章を通して教える場合にはまずい方法です。なぜなら、生徒はすぐに本を閉じてしまうでしょうから。

導入部分の難易度は非常に低めに設定します。生徒にすこし馬鹿にされてもかまわないくらいに設定します。導入部分の難易度を低くすることには二つの効果があります。それは、

 ・生徒に「自分にもわかる話なんだ」と思ってもらうこと
 ・これから学ぶ題材についてのウォーミングアップをしてもらうこと

という二つの効果です。生徒はただ最初のやさしい話を読んだり聞いたりするのですが、その間に頭は適度に回転を始めます。運動をするときに準備体操をするのと同じように、何かを学ぶときにも準備体操が必要なのです。

ですから、導入部分の難易度は非常に低めに設定するようにしています。

●最終的な難易度

導入部分の難易度を非常に低くするのに対して、最終的な難易度、ゴールとなる課題の難易度は少し高めに設定します(結城はそのように設定するのが好みです)。

それは終了後の生徒の満足度のことを考えるからです。最終的な難易度まで低くしてしまった場合、生徒は確かに最後までついてくることはできるでしょう。でも、全体としての満足度はどうしても低くなってしまいます。

理想をいえば、少しずつ少しずつ難易度を上げていって、

 ・簡単簡単、こんなのすぐにできちゃうよ
 ・これもやさしいよね
 ・おっと、まちがうところだった。でもできる。
 ・ええっと、これは? ああ、こうすればいいか。
 ・え? どうやるの。うーん。うーん。あ、わかった!

こんな流れにもっていきたいと願っています。

●生徒にとっての難易度調整

難易度調整をするときに大切なことの一つに、

 誰のための難易度調整か?

という問いかけがあります。難易度を適切に調整するのは教師のためではなく、生徒のためです。その一点を外さないようにしなければなりません。

たとえば(これは結城個人の考えですが)、導入部分でやさしい話をするとき、生徒に馬鹿にされるくらいでいいと思っています。ここで「生徒に馬鹿にされたり、なめられたりしたらいやだな」というわけで急に難しそうな話をするのは間違いです。

教師のプライドを守るためではなく、生徒の理解のための難易度調整ということです。

生徒になめられないようにしたいなら、「生徒が知らないために難しく聞こえる話」ではなく「生徒が知っていることにも関わらず新しい息吹を感じる話」をする方に自分の力を注ぎたいと思っています。

そして、生徒の理解のために難易度調整するには、

 生徒がいま何を知っているのか
 生徒はどこまでなら理解できるのか

を理解しなければならないでしょう。

面と向かって教える場合には、過去に教えたときの反応やテストの結果を使って情報収集をしなければなりませんし、文章を通して教える場合には、以前の文章はどのように受け止められたのかについて情報収集をしなければならないでしょうね。

それはとても難しく----そして、やりがいのある仕事となるでしょう。

以上、「教えるときの心がけ」の「難易度調整」というお話でした。

 * * *

※Photo by webtreats.
https://www.flickr.com/photos/webtreatsetc/4155634227/

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結城浩

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本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。

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