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発言者は「本当にそう思って」発言しているのか(コミュニケーションのヒント)

質問

SNSを通じて、多くの人のさまざまな発言に触れることが増えました。それにともない、他者をおとしめる発言や過激な発言を目にする機会も増えました。

自分が想像する以上にそういう発言を目にするので、発言者が「本当にそう思って」発言しているのかに興味を持っています。

たとえば、誰かが「本当にそう思って」発言しているなと感じるのはどんなときでしょうか。

また、結城さんはSNSで「本当にそう思って」発言していますか。

結城浩のメールマガジン 2018年8月21日 Vol.334 より

回答

ご質問ありがとうございます。

おもしろい質問ですが、難しい質問でもあります。また、いささか無意味な質問ともいえます。なぜなら、本当にそう思っているか否かは判定不可能だからです。本人ですら判定できないこともあるし、時が移れば意見も変わるでしょうし。

誰かの発言を見て「本当にそう思って」発言しているなと感じるのは、その人のふだんの発言を知っている場合に限りますね。発言の積み重ねを知っていて、その発言の積み重ねを通して「ああ、この人はこういう人なんだろうな」というイメージを抱きます。それを踏まえて初めて「本当にそう思って」発言しているのだろうと推測できると思います。

私自身は、基本的に正直なところを話しているつもりでいます。あなたの表現を使うなら「本当にそう思って」発言しているつもりです。それは誠実でありたいという気持ちからでもありますが、実用的な意味もあります。いわゆるポジショントークや、その場限りの嘘は、コストが高くつくからです。自分がどんなことを言ったかを覚えていなくては、どこかで話が破綻してしまうからです。

それは、長年ネットで活動していてわかったことでもあります。ネット上で、複数のキャラクタをメンテナンスすることは長期的にはほぼ不可能です。自分が本当にそう思っていること、自分の正直な気持ちをベースに活動するのが最も楽なのです。なぜなら、その都度その都度、正直な気持ちで発言すればいいからです。

ただし、「自分が言わなくてもいいことまでは言わない」という自制は必要になります。正直な気持ちで語るとしても、正直ならば何言ってもいいというわけではないからです。失礼なことを言わないという常識は必要です。まあ、人によって常識は変わるので何ともいえませんけれど。

逆に、人はしばしば偽善的だと思われるのが嫌なあまり、偽悪的に振る舞いたがる傾向があります。結城はそちらの方向にも陥らないようにしたいと思っています。「優等生ぶってカッコつけたような言葉」でも、自分がそう思うなら言うことがあります。

もちろん、私もしばしば失言をしたり不適切な言い方をしたりしますが、そのようなときには、間違いを認めて謝罪したいと思っています。

過激な表現をする人や、他人をカジュアルに罵倒する人がいるのは知っています。それについては私は良くないと思っています。ただ、自分の気持ちを言葉で表すのは難しいものなので、語彙が少なかったり、強調表現のバリエーションが少なかったりすると、過激な罵倒になることも想像できます。また、のっぴきならない事情で過激なことを言う人もいるだろうと想像できます。さらに、報酬をもらって罵倒する人がいることも想像できます。

語彙が少ない人が過激な言葉を使ったとき、その人は「本当にそう思って」言ってるのだろうか。と考えると、「本当にそう思って」という表現の粗雑さに気付きます。「本当にそう思っているか」を追求することの無意味さともいえます。

ときどき、こんなことも思います。心の中では相手のことを憎らしく思っているのだけれど、自分の「本当の気持ち」を押し殺して、礼儀正しく振舞って、相手にやさしい言葉をかけたとします。つまり憎悪という感情を意志の力で外に出さない人がいたとします。その行為はいいことであり、勇気のいることだと思います。「本当にそう思って」の発言ではないわけですけれど。

SNSでは多数の言葉が飛び交いますが、外に出さなかった言葉も多数あるはずです。各人がそれぞれの思いで「これは私の中に留めておこう」と決心したり「これ以上は言うまい」と決めたり。それはときに、多大な心的エネルギーを使うものです。その意味では、努力によって自分の本心と発言を乖離させているともいえますね。その良し悪しを判定するのは難しいことです。

語られた言葉。語られなかった言葉。そのどちらにも背後には語り手の気持ちが必ず存在します。うまく表現できることもあれば、うまく表現できないこともあるでしょう。しかし、発言の向こう側にはゆらぎながらも生きている人間が存在することは意識したいと思っています。ちょうど、ゆらぎながらも生きている自分がこちら側に存在しているように。

そんなことを考えつつ、結城は日々のネット活動を行なっています。

ご質問ありがとうございました。

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#結城浩 #コミュニケーションのヒント #コミュニケーション #本当にそう思っているのか #本心 #SNS


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本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。