ライターとエディター(本を書く心がけ)
※ほぼ半分を無料公開しているノートです(結城メルマガVol.043より)
「本を書く心がけ」では、結城が本を書くときに心がけていることなどを書いています。今回は、ライター(書く人)とエディター(編集する人)について。
●ライターとエディターの違い
ライターは「書く人」であり、エディターは「編集する人」です。
この二人の役柄は重なっているところもあります。人に見せる文章を作り上げるときに、ライターとエディターの仕事と関心はかなり重なります。ライターの仕事の一部をエディターがやったり、エディターの仕事の一部をライターがやることもあるでしょう。文章を読む力、文章を書く力はライターとエディターの両方に必要です。でも、その根底には大きな違いがあります。
結城は、ライターかエディターかでいえばまちがいなくライターです。企画を立てたり、ゲラ読みをするときなどはエディター的な作業も行いますが、結城の関心は基本的に「書くこと」にあります。複雑でややこしいものをいかに解きほぐし、いかにわかりやすい文章に変換して読者に届けるかが最大の関心事です。
エディターの関心事は、少しそこから身を引いています。ライターよりも広い視野で文章を読み、業界を見、世の中を見ています。「文章が書かれているものとしての本」を少し越えて、「プロダクトとしての本」に関心があるように思えます。実際、エディターはライターよりずっと広い仕事をしていますし。
●エディターの役割
「編集者」という名前に惑わされてしまうと、ライターが書いた文章の誤字脱字を見つける仕事だけをしている錯覚に陥ります。でも、エディターの仕事はそれだけではありません。エディターはプロデューサーのような役割を持っていると思います。
プロデューサー。
価値のあるものをプロデュースする人。そのために労力を注ぐ人。
自分自身が直接プレイすることもあるけれど、多数の人とやりとりして、段取りをつけて、プロダクトを世に送り出す人。
結城が考えるエディターにはそんなイメージがあります。ライターが作り出す文章は、プロダクトとしての本の主要な要素ではありますが、決してそれがすべてではありません。
ライターが書いた文章が本になって読者の手に届くまでには、さまざまな人とのやりとりがあります。企画、編集、組版、印刷、表紙デザイン、装丁、宣伝、営業、販売、などなど……たくさんの役割を持った人が動いています。エディターは、あるときはその出版社内で東奔西走したり、またあるときは業界の人とやりとりしながら情報収集したり、キーマンを見つけたり、またあるときはライターをおだてたりなだめたりはげましたり。
プロジェクトを動かした経験のある人は、複数人がからむプロジェクトが進む中でありとあらゆる問題が起きることを知っているでしょう。矛盾をはらんだ要求が飛び交う中で、プロジェクトをリードする人はいつも何かの「判断」を迫られます。そして「建設的な妥協」を強いられます。何が大事で何が大事でないか、どの項目を優先して、どの項目を後回しにするか。そのような判断をすることはプロジェクトを推進させるのに必要です。
そして――プロジェクトを進めるのは人間なのですから、人間とのやりとりに長けていなければならないこともわかると思います。
結城が思うに、本を作るというプロジェクトにおいてエディターは上のような「判断」を行う役割を担っています。ライターは文章を作るのが仕事。エディターはそれを本というプロダクトにするのが仕事。大げさにいうならば、ライターは作品を作り、エディターはそれを商品にするのです。
作品がどこかにポツンとあっても、読者の手に的確に届くとは限りません。適切に宣伝され、適切な価格で、適切なタイミングで流通しなければ読者にはなかなか届かないのです。エディターは、その大きな流れをコントロールしていると思います。
●自己出版時代のエディター
ところで、電子書籍の話。
結城が発行している有料メールマガジン「結城メルマガ」でも、Kindleダイレクト・パブリッシングについて何度か書きました。ライターが自分で電子書籍のファイルを用意してWebでアップすれば、アマゾンに自分の本をすぐにでも並ばせられる時代になりました。そんな中でエディターの仕事はあるのでしょうか。
「もちろん、あります」が結城の答えです。
電子書籍の時代こそ、エディターが活躍する場がある時代であると思います。ワープロが出始めたころ、変な文書がたくさん作られました。Webが出始めた頃、変なWebサイトがたくさん作られました。電子書籍が出始めて、変な「書籍」がたくさん作られるでしょう。読者が満足する「品質の高い書籍」を出すためにはエディターの存在が重要になります。ではその「品質の高い書籍」の「品質」とは何でしょうか。たくさんの要素が考えられます。
コンセプトデザイン(企画、構成)。
コンテンツデザイン(章立て、文章チェック、誤字脱字確認、図版、目次、索引)。
ヴィジュアルデザイン(タイポグラフィ、グラフィックデザイン、組版)。
そのほかに、もちろんコスト管理や法律関係などの重要な要素もあります。
一本の映画で、最後に流れるエンドロールにたくさんの人が絡んでいるように、一冊の本にも、たくさんの要素が絡んでいるのです。
このたくさんの要素を、ライター一人で作り上げることは(不可能ではありませんが)なかなかたいへんなことだと思います。
ですから、個人出版の時代であってもエディターの役割は重要なのです。
●エディターの価値の提示
ところで、エディターという仕事の「価値」を人に示すことはとても難しいだろうな、と思います。
たとえばある優秀なエディターがあるライターの本を編集するとします。
その企画はライターが考えたもの。ライターは自分で執筆し、自分で写真を撮って書籍の中の画像を作る。そして、Kindleダイレクト・パブリッシングで販売しようとしている。
そこにエディターがやってきて対話が始まります。
エディター「その本を、私に編集させてください」
ライター「あなたがいなくても、私は本を出せます」
エディター「でも、私が編集した方が良い本になりますよ」
ライターは次になんと言うでしょうか。きっと、こうです。
※ここまででおおよそ半分です。以降も同じような調子で文章と画像が続きます。もし「おもしろそうだな」と思った方はぜひご購入をお願いします。
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