『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』を誰に届けたいと思って書いたのか(本を書く心がけ)
質問
『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』を読みました。
小・中・高と、自分にちゃんと向き合ってくれる先生に出逢えた自分は幸せだったと初めて思いました。
この本をすべての先生に読んでもらいたいと思います(特に小学校の先生に)。
結城先生は『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』を誰に届けたいと思って書いたのでしょうか。
回答
お読みくださり、ありがとうございます!
私が「誰」に届けたいと思って、この本を書いたか……
もちろん「あなた」に届けたいと思って書いたんですよ!
本は、読者の中で完成するものです。結城は、本を書くときにいつも「たった一人のあなた」に向けて書きます。もちろん、私は「あなた」に会ったことはありませんし、全国で結城の本を読んでくださる読者全員と面識があるわけじゃありません。でも、あえて、「たった一人のあなた」に向けて書いていると宣言します。
ある人は本のある場所に惹かれ、別の人は別のところに惹かれる。そしてそれぞれの人が「ああ、これはまるで私のために書かれた本ではないか! 私がいま読むために手渡された本ではないか!」と感じる。最高のタイミングでそれぞれの読者の心に響く。
私は、そのような本を書きたいといつも願っています。その意味で私は「あなた」に届けたいと思って書いた、といいたいのです。
さて、それはそれとして想定読者がいないわけではありません。『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』の想定読者は、まず中高生、大学生、もしかしたら小学生。つまり「数学を学ぶ側の人」に届けたいと思って書きました。でも、それだけではなく、学校の先生や塾講師の人。つまり「数学を教える側の人」にも届くことを願っています。
そして、忘れてはいけないのが、生徒の保護者。つまり「数学を学ぶ側の人に大きな影響力を持っている人」に読んでもらいたいと強く願っています。生徒の親であることが多いでしょうけれど、もしかしたら祖父母かもしれません。生徒の保護者にあたる人には「自分のこと」として読んでもらえたらうれしいなあと思います。
あなたは、質問の中で「小・中・高と、自分にちゃんと向き合ってくれる先生に出逢えた自分は幸せだったと初めて思いました」と書いてくださいました。本書を読んだあなたが「自分のこと」として考えを深めてくださったのを、私はとてもうれしく思います。
教育は、とても難しい問題です。そして、難しい問題に立ち向かうとき、誰しもしばしば「失敗」をします。言い換えるなら「失敗した人」や「うまくいかない人」を批判するのはとても容易です。
教育は、とても難しい問題です。その中にあって、失敗を隠すのではなく、効果が上がらないことをごまかすのではなく、安易に批判するのでもなく、建設的に考えて行動できるか。
生徒が悪い、先生が悪い、家庭が悪い、システムが悪い、国が悪い、あんたが悪い、自分が悪い……のような批判に終始していないか。
本書が、そんなことを考えるきっかけになってくれたらいいなあ、と私は思っています。
追記:続編『図形の証明』も出ています。
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