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結城先生はどうしてライターになれたんでしょうか(Q&A)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです。

こんにちは、結城浩です。

「Q&A」のコーナーです。このコーナーでは、読者のみなさんからいただいた質問にお答えします。今回の質問はTwitter経由でいただきました。質問は編集してあります。

●質問

C MAGAZINEに書いていらしたころに結城先生のことを知りました。結城先生はどうしてライターになれたんでしょうか。いま私は個人作品のマネタイズに腐心しています。結城先生がどんなふうにして『数学ガール』の著者にまでなったのかを知りたいです。よろしくお願いします。

●回答

こんにちは。ご質問ありがとうございます。C MAGAZINEはソフトバンクさんが発行していたコンピュータ雑誌ですね。休刊になってしまいましたが、結城はあの雑誌にほんとうにお世話になりました。

さて、私がどうしてライターになれたかというご質問ですが、短く答えれば「書いたから」ということになると思います。あまり細かいことを書いてもしょうがないので簡単に書きますと、ある雑誌でコンピュータ関連記事の募集企画があって、結城はそれに文章を書いて応募しました。編集者さんが私のその文章を読んで、記事を書く仕事を私に依頼するようになったのです。

ですから、ライターになるきっかけは、「文章を実際に書いて、それを出版社さんが読んだこと」です。まあ当たり前の話ですけれど、誰かに読んでもらい評価してもらう何かを「実際に書く」ことはお仕事のきっかけとしてとても大切ではないかと思います。

さて、記事を書く仕事をしていると、他の編集者さんからも声がかかるようになり、文章を書く仕事も増えてきました。そのうちに連載を持つようになり、やがてそれをまとめて本を出版するようになりました。そのようにして出版に至ったのが『C言語プログラミングのエッセンス』という本。これが結城の処女作です。1993年のこと。

雑誌連載していたC言語の入門記事もまとめました。それが『C言語プログラミングレッスン』という本。そのうち、雑誌連載とは別に直接書き下ろしの本も作るようになりました。C言語の文法書を書いたり、CGIの本を書いたり、PerlやJavaの本も作りました。

やがてプログラミングの本だけではなく、『暗号技術入門』や『プログラマの数学』など、ちょっと別系統の本も出すようになりました。

出版とは並行してネットでの活動もあれこれやっていました。結城はちょっとした物語を書くのが好きだったので、まったく個人的な趣味でWebで物語を公開し始めました。そして、それが数学ガールの前身になりました。

2007年に『数学ガール』が書籍として刊行されることになりました。たいへん評判がよかったので「数学ガール」をシリーズ化することになり、2012年には5巻目が刊行されました。そしてその後、もう少しやさしい数学ガールを読みたいという声に応える形で「数学ガールの秘密ノート」というシリーズも始まりました……

……結城のお仕事はおおよそ以上のような流れになっています。数学ガールがどのようにして生まれたかは、『数学ガールの誕生』という本に詳しく書きましたので、ぜひそちらをご覧ください。

さて、あなたのご質問の趣旨は、おそらくあなたご自身も本を書く(あるいはそれに類する)お仕事をなさりたいということだと思いますので、少しそちらの方向に絞ってお返事を書きたいと思います。

結城メルマガでも何度も書いていますけれど、本を書くときに最も大切なのは、

 読者のことを考える

ということだと思っています。私はこれを強く信じています。そしてこれは、一般のビジネスにもぴったりあてはまるはずです。つまりよく言われるカスタマー・サティスファクション(顧客満足)ですね。「読者のことを考える」というのはこの顧客満足にとても近い方針です。

ですから、もしもあなたがお仕事をしたいなら、この「読者のことを考える」ということを心に留めておくのを強くお勧めします。何か重要な決定をするとき、どんな本を書くかを考えるとき、本の内容や構成を考えるとき、常に「読者のことを考えたら、どうなるかな?」と自問するのです。

さて、あなたのご質問の中にあった「個人作品のマネタイズに腐心しています」という点についてちょっとコメントします。ライター(およびそれに近い仕事)をやっている人で、個人作品のマネタイズに腐心していない人はほとんどいません。誰しも、自分の作品をどうやってマネタイズしようかと真剣に考えています。生活がかかっていますから当然です。

結城メルマガも、私の文章のマネタイズの一環といえますね。有料メルマガというのは、ネット経由で自分の文章を直接売るという電子書籍の一形態だと思っています。読者さんからいただく反応も楽しいですし、購読者数の増減ときたらもうドキドキものです。

(もっとも、有料メルマガというのは、厳密には文章を売っているわけではなく、ある種のインパクト、トリガー、エクスピリエンスを購読者さんに味わってもらうものともいえますが。また、個々の文章を買っていただくというよりも、結城の活動全般を支援していただいているという側面も強くありますけれど……)

さて、自分の作品を出版社で出版してもらい、原稿料や印税を受け取るというのは、ライターにとっての一般的なマネタイズだと思います。もちろんそれに限りません。最近はインターネットで自分の作品を直接販売することも容易になってきていますから(noteもその一つですね)、いろんな可能性が考えられるでしょう。でも、実は、難しいのは技術的な側面ではなく、

 「どうやって良い作品を作るか」

そして、

 「どうやって自分の読者さんにリーチするのか」

ということだと思います。

どんな出版社さんもきちんと売れる書籍や企画を強く求めていると思います。ですからライター(あるいはクリエイターでもなんでもよいですが)として仕事をしたいと思ったならば、きちんと売れる書籍や企画であることを出版社さんに納得させればよいということになります。

最初の一歩が一番たいへんです。なぜなら実績がないからです。すでに世に売れている作品があるならば、

 「私はこのような(売れる)作品を作っています」

と出版社さんに提示することができますから、話を進めやすいですね。

でも、何も実績がなければ、何もできないというわけではありません。(そんなことをいったら、いつまでも何も始まりませんからね)実績がなくても、何か目に見える「モノ」があれば、話を進めることができるでしょう。

 「私はこのようなモノを作ることができます」

と出版社さん(あるいはお金を払ってくれる人)に提示して、相手を説得(納得)させれば仕事になるわけです。つまりは最初のモノを用意することがとても重要ということになります。

そこで大きく間違えないでいただきたいのは、あなた自身の努力の量や、かけた時間は、作品の価値には直接は無関係であるということです。「これはがんばって作った作品です」というのは宣伝文句としてはいいのですが、出版社さんや読者さんに大きな影響を与えることは少ないでしょう。

あなた自身が本を買うときを想像すればよくわかります。著者ががんばったから本を買うわけではなく、本がおもしろい(らしい)から買うわけです。その点を間違えないように注意が必要です。これもまた「読者のことを考える」の一例といえるでしょう。

もちろん、結城の場合は毎回の本をものすごくがんばって作ります。さぼっていいことは何もありません。がんばってがんばって作ります。でも、私ががんばったから読者さんが読んでくれるわけではなく、できた本がおもしろいから読者さんが読んでくれて、自分の知人に紹介したり、ブログに書評を書いてくださるのだと思います。そこは非常にシビアです。だからこそ仕事はエキサイティングなのですが。

結城は「読者のことを考える」というのがとても大切だと考えています。自分が書こうとしている本の内容を、自分が想定している読者さんに的確に届けるには、どんな順序で、どんな例を出して、どこまでの詳しさで書くべきか…を真剣に考えます。読者さんが途中で飽きないような工夫も必要ですし、逆にところどころには「おっ」とひっかかるように、歯ごたえのある内容も置く必要があるでしょう。

特に大切なのは、読者さんが結城の本を読んだときに「なるほど!」と思ってくれることです。

 「なるほど、わかった!」
 「なるほど、そういうことだったのか!」
 「なるほど、そりゃすごいや!」

「なるほど!」という思いは重要です。本を読みながら「なるほど!」を体験できたなら、読者さんの満足度は非常に高くなります。そして、

 「ああおもしろかった!
  結城さんの書いた他の本も読んでみたいな!」

と思ってくれれば最高です。読者はうれしい。著者もうれしい。読者さんに「なるほど!」と感じていただけるように結城は努力していきたい。

さらに言えば、結城の本だけではなく、誰が書いた本であれ、関連した本を読んでもらいたい。そして自分の頭で考えてもらいたい。学ぶこと、考えることは人生の大きな喜びです。自分が書いた一冊の本が、読者さんをその喜びへ導くお手伝いができたなら、こんなにすてきなことはありません。

自分の書いた本だけに読者さんを閉じこめるのではない。自分の書いた本をきっかけにして、読者さんが大きく羽ばたく。そのような方向に進むこと。これが「読者のことを考える」だと結城は思っています。

青臭いことを言うようですが、「読者のことを考える」がきちんとできれば、お金は後からついてきます。でも、「お金のことを考える」が中心になって、読者さんのことを忘れてしまったら、お金もついてこないでしょう。

結城はそのように考えています。

ご質問ありがとうございました!

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