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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年12月19日 Vol.299

はじめに

おはようございます。結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

 * * *


ABC予想の話。

つい先日のこと(2017年12月16日)、 朝日新聞にABC予想に関する記事が掲載されました。 望月新一教授が「ABC予想(ABC Conjecture)」 を証明した論文が査読付き専門誌に載るという内容です。

 ◆数学の超難問・ABC予想を「証明」 望月京大教授
 http://www.asahi.com/articles/ASKDD5Q6MKDDPLBJ007.html

ABC予想は、数学のいわゆる「未解決問題」です。 数学の「未解決問題」の多くは、 そもそも問題自体の主張を理解するために専門知識を必要としますが、 ABC予想はフェルマーの最終定理に似て、 問題自体の主張を理解するのは難しくありません。

以下では、鯵坂もっちょさんが、 たいへんていねいにABC予想の主張を解説しています。

 ◆"独創的すぎる証明"「ABC予想」をその主張だけでも理解する
 http://www.ajimatics.com/entry/2017/12/16/175035

望月新一教授は、 宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論という新しい理論を作りました。 以下では、加藤文元教授がその理論について解説しています (「数学の祭典 MathPower2017」のイベント生放送)。

 ◆話題の「ABC予想」に関する番組を公開
 http://blog.nicovideo.jp/niconews/55890.html

難解な証明の場合、 証明がほんとうに証明になっているのか、 それを判断するのは専門家でも難しいものです。 今回の望月教授の証明も査読に5年掛かっています。

今回の証明が正しいかどうかは、 もちろん私にはわかりません。 また、査読誌に載った証明に、 後から誤りが見つかった例も存在すると聞きますので、 まだどきどきは続くのでしょう。

しかしながら、 大きな未解決問題に対して証明がなされ、 それが査読誌に載るというのはやはり興奮するできごとですね。

 * * *


定理発見の話。

こんな質問をいただきました。

 結城さんはいままで、
 「新しい定理を発見した」という経験はありますか。
 そんなときどうしましたか。
 自分もそのような定理を見つけたので参考にしたいです。

結城の回答は、こうです。

 自分で定理を発見したり、
 非自明なことを世界で初めて私が証明したり、
 という経験は私にはありません。

 もしもあなたが、
 そのような発見や証明をしたのであれば、
 数学の先生に相談してみることをお勧めします。

回答は以上なのですが、 以下、補足的なお話を書きます。

世の中には有名な「不可能問題」があります。 いわゆる「角の三等分問題」などです。 数学的に不可能なことが証明されているので不可能なのですが、 「がんばったらできるのでは」と勘違いする人がいるので、 その点は注意が必要になりますね。

定理を発見した!というときに、 数学の先生に相談するのをお勧めするのは、 そういう理由からです。

「角の三等分問題」に関しては『数学ガール/ガロア理論』 にやや詳しく書きました。 そこでは「五次方程式に解の公式が存在しない」 こととの類似性と合わせて解説しています。

 ◆『数学ガール/ガロア理論』
 http://www.hyuki.com/girl/galois.html

「不可能問題」の別の例として「立方体の倍積問題」があります。 「与えられた立方体の二倍の体積を持つ立方体を作ることは不可能である」 という問題です。この問題のポイントは、 定規とコンパスしか使ってはいけないという条件がある点。 この条件がなければ、もちろん可能になります。

「不可能問題」はしばしば誤解されます。 問題の前提条件や数学における証明の意味をよく理解していないと、 「自分は解いた!証明した!」と勘違いしてしまうからです。

一般論として、数学の非専門家が新たな発見をすることは珍しいです。 有名な問題である場合は特にそうです。 ただし、既存の有名な問題に別の証明を与えたり、 条件をやや変化させることで新しい定理を作ったりすることは、 非専門家でもできますね。

新しい証明を見つけることや、少し変形させた定理を作ることは、 数学の活動として楽しく、また素晴らしいことです。 しかし、それが学問としての数学上、 どのくらい意味を持つかは、専門家でないと判断は難しくなります。

天才が本当に新しい理論を作ったようなケースでは、 専門家でも判断が難しくなります。 新しい理論の場合には、表現する言葉自体が荒削りだったりするので、 「まったく意味をなさない!」 と誤解されてしまうことがあるからです。

専門家でなければ新しい定理を探すのが無意味だ、 といってるわけではありません。 また、未解決問題の証明に徒手空拳で取り組むことは無意味だ、 というのでもありません。 過去、幾多の数学ガールや数学ボーイが、 フェルマーの最終定理に徒手空拳で挑んだことでしょうか。 実際にフェルマーの最終定理を証明したワイルズも、 少年時代にそのような一人だったのです。

「小さなことでいいから新しい発見をして数学を楽しみたい!」 という方へのおすすめは、

 「フィボナッチ数列」
 「パスカルの三角形」

です。フィボナッチ数列の各項のあいだに面白い関係はないか。 パスカルの三角形の中に見える図形と数とに面白い関係はないか。 探してみるのはとても楽しいですよ!

 ◆『数学ガール/フェルマーの最終定理』
 http://www.hyuki.com/girl/fermat.html

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共通テストの話。

2017年11月13日〜24日の期間、全国の約1900校で「大学入学共通テスト」 の試行調査(プレテスト)が行われました。 ここで出題された問題がそのまま使われるわけではありませんが、 分析のための検討材料となるようです。

2017年12月4日に結果速報が大学入試センターによって公開されました。

 ◆試行調査(平成29年11月実施分)の結果速報等について
 http://www.dnc.ac.jp/news/20171204-01.html

試行調査で出題された数学の問題のあちこちに 「会話文」が登場していました。 数学的な命題が与えられ、それを探求していく過程の会話文を読み、 条件を変えて話を発展させるというスタイルになっています。

 ◆数学I・数学A(必答問題 第1問[2])より


 ◆数学I・数学A(必答問題 第1問[2])より


数学ガールでは「数学トーク」と称して、 数学的な対話で理解を深めていく場面がよく登場します。 会話が有効に使われるなら、 思考や論理の流れを追う問題として面白い出題ができると思っています。

 ◆平成29年度試行調査(趣旨、試験問題など)
 http://www.dnc.ac.jp/corporation/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h29.html

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信頼の話。

止まっている時計は一日に二回、正しい時刻を示す。 だからといって時計の役には立たない。 「正しい時刻をいつ示しているか」 までは教えてくれないからだ。

正しい時刻からちょうど一時間遅れている時計は、 決して正しい時刻を示すことはない。 しかし、一時間遅れていることがわかっているなら、 正確な時計として使うことは可能だ。

信頼には、 予測可能性が関わっていることがわかる。

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文章作成の力の話。

質問

結城先生は、どうやって文章作成の力を身につけましたか。

回答

「雑誌や本の原稿を書くことで身につけました」 というのが短い答えとなります。 つまり、見よう見まねで文章を学びました。

でも、小さいころからたくさんの本を読んできた経験が、 見よう見まねで文章を学ぶことを支えていると思います。 文章をたくさん読まなければ文章は書けません。 本をたくさん読まなければ本は書けません。

 読まなければ書けない

というのが重要であると思います。

「読まなければ書けない」という表現には二つの意味があります。

一つは、前もってたくさん読んで、 自分の中に単語や文章表現のストックがなければ、 文章を書き始められないという意味。

もう一つは、自分が書いた文章を自分で読み、 良し悪しを判断できなければ書き終えられないという意味。

文章を書くプロセスの中には、 文章を作り出す段階と、それを練る段階があります。 そのどちらにおいても「読む」ということが重要になるのですね。

実は『文章読本』や『小説の書き方』 の類いの本もたくさん読みました。 それらの本は害にはなりませんでしたが、 直接的に役に立ったかどうかはよくわかりません。 結局は、

 とにかく文章を書いてひとさまに読んでもらう

という経験が一番役に立っているように思います。

ああ、それからもう一つ。 結城は、

 自分の文章を繰り返し読む

のが大好きなんです。 それは文章を書く力をつけるのに役立っていますね。 特に、

 自分の文章を時間をおいて読み返す

のが役に立ちます。なぜかというと、 書いた文章を読み返したとき、 意味がわからなくて驚く経験をするからです。

読者は、文章からのみ情報を得ます。 そのような読者の立場に立つのに、 自分の文章を時間をおいて読み返すのは有効じゃないかと思います。

 * * *

それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

今回は「Q&A」特集のような内容になりました。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

はじめに
ささいなことが気になる/学び方の上手い人、下手な人 - Q&A
怒りについて/生きることを学ぶ旅 - Q&A
どうしたらプログラミングが楽しくなりますか - Q&A
おわりに


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結城浩

書籍執筆者。著書に『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など。http://bit.ly/hyuki-mm にて「結城メルマガ」をnote配信中。https://bit.ly/girlnote にてcakes連載中。2014年度日本数学会出版賞受賞。

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