どうやって理解を確かめるか(学ぶときの心がけ)
ヒエログリフを学びつつ
Web連載「数学ガールの秘密ノート」で「いにしえの数学」というシーズンを書いたことがあります。ある週では「古代エジプトの数学」ということで、ヒエログリフで書いた数字に取り組んでいました。多くの読者さんに楽しんでいただけたようですし、もちろん私も、とても楽しみつつ書きました。
その二週間で、ヒエログリフで書いた数字にはずいぶん慣れました。これまで何度となく数学史の本を読んでも、さっぱり覚えられなかったのに、不思議なものです。やはり「自分で書く」のが最高の勉強法ということでしょうか。
ちなみに、有名な『リンド・パピルス』はヒエログリフではなく、ヒエラティックで書かれています。ヒエラティックはヒエログリフの崩し字的な位置づけになります。いうなれば、ヒエログリフを楷書とするなら、ヒエラテックは行書のようなものでしょうか。ヒエラティックはぜんぜん読めません……
書いて理解を確かめる
さて「自分で書く」のは最高の勉強法です。それはきっと、自分で書くためにはしっかり理解する必要があるからですね。
「ひとさまに説明できるくらいになってはじめて、それなりに理解したといえる」と考えるのは、私には、とてもいい判断基準に思えます。
あることを自分が理解したかどうか知りたかったら、他人に説明してみよ。うまく説明できたなら、理解していると見なし、うまく説明できなかったら理解していないと見なす。これはとてもいい判断基準であり、試金石じゃないでしょうか。
数学ガールの物語には、「テトラちゃん」というキャラクタが登場します。テトラちゃんは素直で、邪気がありません。そして疑問はすかさず質問する。その質問は、相手をいじめようという意図からではなく、純粋な疑問です。
あなたの心の内側に、テトラちゃんが住んでいるなら、あなたが試みた説明に対して即座に邪気なく聞き返すでしょう。
「その言葉、どういう意味ですか?」
「絶対にそうなると言い切れるんですか?」
「よくわかりません。何か具体例はありますか?」
素直なテトラちゃんが提示する、そのようなシンプルな質問に答えられてこそ、理解したといえるのではないでしょうか。
なんて甘美な一人ゼミ。
例示で理解を確かめる
自分の理解を自分で確認するための、最も基本的なパターンは「適切な例を作る」ことです。それは、『数学ガール』の中心的なスローガンである、
《例示は理解の試金石》
へ繋がっていきます。
あることを自分が理解したかどうか知りたかったら、例を作ってみよ。うまく例が作れたなら、理解していると見なし、うまく例が作れないなら、理解していないと見なす。
「適切な例を作る」は「たとえば?という問いに答える」ともいえます。先ほどのテトラちゃんの問いかけにも出てきましたね。自分のことを信頼してくれて、自分の言葉にしっかりと耳を傾けてくれる人が、
「よくわかりません。何か具体例はありますか?」
と尋ねてきたようすをイメージする。想像する。そのストレートでシンプルな問いかけに答えられるか、どうか。それは確かに、理解の試金石となるでしょう。
問いかけで理解を確かめる
問いかけは重要です。学ぶことに慣れている人は、必ず自分で自分に問いかけるもの。
「定義は何だっけ?」
「条件は全部使ったかな?」
「求めるものは何だろう?」
「与えられているものは?」
「たとえば?」
素直な問いかけに答えようと試みることは、思考を前進させることと、ほぼ同義じゃないでしょうか。
よく誤解されるけれど、学ぶ途中での問いかけは、非難ではありません。
問いかけは、非難ではない。
問いかけは、不信ではない。
問いかけは、人格否定でもない。
自然に生じた疑問を問いかけに変換すること。そして、その問いかけに答えようと試みること。そうすると、世界が広がり、理解が深まる。
いつも心にテトラちゃん。
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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年1月24日 Vol.252 より
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