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自然現象を数学で説明できる理由

質問

数学って人間が作ったものだと思うんですが、自然現象はなぜ数学で説明できるんでしょうか。

結城浩のメールマガジン 2018年4月24日 Vol.317 より

回答

これはすばらしい質問です。

ウィグナーという物理学者は、このことを「自然科学において数学は理不尽なまでに有効」と表現しました。自然科学とは無関係に作り出したもののはずなのに、自然科学の研究や表現において数学が非常に有効に働くということを表現しているのですね。

現代の数学は「もしもこのような前提条件が成り立つとしたら、いったい何がいえるか」を極限まで厳密に追求したものといえます(話をかなり単純化していますけれど)。ですから、自然科学を研究している人が、もしも自分の研究課題を数学の前提条件に結びつけることができたなら、研究は数学の力を借りて千里を一気に駆けることができるのです。

数学者が作る数学的体系はその意味でハイウェイのようなものといえます。どんな車が高速道路の入口にやって来るかは知らず、数学者たちは淡々と立体交差の高速道路を建築しています。いったんその入口をうまく入ることができたなら、何十キロ、何百キロの先まで高速に到達できるというわけです。

自然科学者はしばしば自分の研究課題の数理モデルを作ります。あるいは微分方程式の形で、あるいは代数的構造の形で、自分の研究課題を抽象化して数学で表現するのです。それは先ほどのたとえでいうならば、数学者が用意した数多くのハイウェイ、その入口の一つに入ろうとする試みです。いったんハイウェイに乗り、遠くの出口で降りたとき、数学なしではたどりつくのが困難であった遠くの結論まで驚くほど高速に到達できるでしょう。

ただし、一点注意が必要です。それは自然科学は数学そのものではないということです。自然科学での研究対象を数学の前提条件に結びつける段階(数理モデルを作る段階)では、必ず現実世界との間に多少なりともずれがあります。現実世界のすべてを完全に数理モデルにできるわけではないからです。そのずれのことを忘れないようにしなければなりません。

すばらしい質問をありがとうございました。

なお、『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』のあちこちには、このご質問に重なる話題が顔を出しています。たとえば第3章「物理学と数学の境目」では、どうして積分によって投げたボールの位置がわかるのか、という話題が出てきます。ぜひお読みください。

◆『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』


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