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演出とプログラミング

プログラミング言語処理系Gaucheの作者であり、なおかつ俳優でもあるShiro Kawaiさんのブログ記事を興味深く読みました。

少し引用します。

何度か演技のクラスで一緒になった俳優のDennis Chun氏は役者の仕事は"how to make the scene work" を考えることだ、と言っていた。とすれば演出は "how to make the play work"を担当するってことかもしれない。

うまいなと思う演出家って、「こういう演技をしてくれ」とは決して言わない。 芝居全体に一貫性を持たせる枠を設定したり、キーポイントでの解釈を 決めたりする。それに沿って「シーンを成立させる」ように演技してれば自然に 芝居が形になる感じ。「役者をのせるのがうまい」ということなのかもしれないが。

Mai Poina in Maui / 演出家の仕事
https://blog.practical-scheme.net/shiro/20160918-mai-poina-maui

ここには二つの概念と二つの役割があります。芝居のシーン(scene)と芝居全体(play)。そして役者と演出。役者はシーンを担当し、演出は芝居全体を担当。

記事の中では、役者の演技と演出の考えがずれたとき、すりあわせをどうするかについても書かれていました。演出は、役者の演技そのものに口を出すのではなく、演技のもとになっている「解釈」の方をすりあわせする。そんなお話でした。演出と役者が「解釈」においてすりあわせできたなら、そこからさきの演技は役者にまかせる、と。

この記事を読みながら「部下の行動を細かく指示したがる上司」という「あるある話」を思い出していました。

上司と部下の責任分担がしっかりしていて、それぞれに十分なスキルがあれば、細かい指示を減らすことができます。上司の「方針」が何らかの形で部下に伝えられ、部下はそれを適切な方法で実現する。その連係プレイが組織で動く妙味になるでしょう。

それはまた、プログラミングでのインタフェースの重要性にもつながる話です。一つのモジュールが、他のモジュールの実装詳細に立ち入ると、メンテナンス性は悪くなります。

わたしは何に責任があるか。
あなたは何に責任があるか。
・そして、わたしとあなたが協力して目的を達成するため、わたしたちはどんな情報交換と合意が必要か。

このくらいの抽象度で考えると、「演出と役者」「上司と部下」「複数のモジュール」は、とても似ているように感じます。

結城浩のメールマガジン 2016年9月27日 Vol.235 より

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