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完全な文章は書けない(文章を書く心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです。

こんにちは、結城浩です。

「文章を書く心がけ」のコーナーでは、文章を書くときに心がけたほうがよいことをピックアップしてご紹介します。

今回は「完全な文章は書けない」という話をしましょう。

●自分の気持ちと文章のずれ

実は先日、私は家内のメール文を代筆することになりました。所属しているお友達グループに対して、家内がちょっぴりオフィシャルなメールを書く必要があったからです。

 「あなた、文章書く仕事をしてるんだからお願いね」

という顧客(?)からの依頼を受けて「よっしゃ」と腕まくりをして、ぱたぱたメールを書きました。15分ほどで書き上げて「できたよ」と家内に渡します。自分としては「あら、もうできたの!さすがね!」という家内の反応をひそかに期待していました。

しかし、メールを一読して家内が言ったのは、

 「…何だか、私の書いた文章じゃないみたい。
  あなたに書いてもらうんじゃなくて、
  私が書いたものを直してもらったほうがよかったかしら」

というセリフでした。私はちょっぴりがっかり。ネットだったら、 (´・ω・`)ショボーンというアスキーアート(AA)が出てくるところです。

でも一般論として、代筆というものは「私の書いた文章じゃないみたい」になりがちなのです。

そもそも、文章というものは不完全なもの。自分で書いたときでさえ、自分が言いたいことや自分の気持ちとはどうしてもずれてしまいます。

ましてや、他の人が書いた文章ならばその「ずれ」はさらに大きくなるでしょう。

気持ちと文章のあいだに「ずれ」が生じると、読み返したときに

 「こんなこと書きたかったんじゃない!」

といいたくなるものです。

●「ずれ」の修正は大変なもの

文章は不完全なものです。

 「自分の言いたいこと」

 「実際に書かれたもの」

の間には「ずれ」があります。どれだけ一生懸命推敲して修正しても、その「ずれ」が完全になくなることはありません。

 ・もっと簡潔に書きたいんだけど、長くなってしまう!
  (長さのずれ)

 ・こんな言い方をしたくないのに、適切な言い方が思いつかない!
  (表現のずれ)

 ・本当はこういうことも言いたいのだけれど、文章として書けてない!
  (内容のずれ)

長さ・表現・内容…いろんな点でどうしても「ずれ」は生じてしまいます。これはもう、しょうがないことです。

仕事などで日常的に文章を書いている人は、その「ずれ」と何らかの折り合いをつけなくてはいけませんし、折り合いをつけるからこそ文章を書いていられるといえます。

 「まあまあ、おおよそこんなものかな」

というあたりで「妥協」して「完成」とします。

逆説的かもしれませんが、めったに文章を書かない人ほど、どこで「妥協」するかに慣れていません。ですから、完全を求めてとても悩み、時間がかかります。

 ・もっと適切な言い方はないかな…(と言って紙をじっと見つめる)
 ・あれも書こう。これも書こう。あ、そうだ、こんなことも書かなくちゃ。
 ・文章がどんどん長くなって、どんどん読みにくくなっちゃった!
 ・ごちゃごちゃしてもう手に負えなくなった!

実際、家内もメールの文章をほぼ一日掛けて修正を繰り返しておりました。私だったらとっくに送信ボタンを押しているようなメール文をずっと直し続けていたわけです。

必ずしもそれは悪いことではありません。最終的にできた文章は、私がもともと代筆として書いたものよりもずっと素敵なものになりました。時間を掛けたかいがあったというものです。

でも、とても時間が掛かってしまい、一日分の家事が完全ストップしてしまったのも事実。文章と格闘しているうちに、家内はへとへとになってしまいました。

●不完全な文章でも、完成度を上げていく

一つの文章にどれだけ時間を掛けるか。

どこまで完成度を上げたら「完成」と見なすか。

その判断は難しいものです。

特に現代では、コンピュータを使って、文章の修正が非常に容易です。時間とその気さえあれば、あちらを直し、こちらを直し…ずっと直していられるでしょう。永遠に未完成となり、なかなか最終版に至りません。

〆切がない文章の場合はなおさらですね。いつまででも直していられます。

結城は、一つの文章に時間を掛けすぎるのはいかがなものか、と思っています。一つの文章をいじり回していると、いつのまにか、かんじんの「読者に伝える」ことがおろそかになる危険性が高くなるからです。

文章には「伝えるタイミング」というものがあります。

ずっと編集していて伝えるタイミングを逸してしまうのはよくありません。それは《読者のことを考える》という原則に反しているように思うのです。

文章は不完全なものなので、修正にはキリがありません。
ですから、結城は、

 【自分の〆切を作る】

ことを心がけています。

仕事で書く文章の場合、〆切(納期)は重要です。通常は必ず、依頼者からの指定があります。しかし、結城はそれとは別に 「自分の〆切」を作るように心がけています (あ、こういうのを編集者が読むとまずいな…まあ、いいか)。

文章を作るときに、もっとも大きな制約は執筆の「時間」です。時間を充分に取ることができなければ、文章は書けませんし、推敲も満足にできません。ですから、自分の〆切を設定して、文章を書くのに使える「時間」を把握しておくことがとても大切です。

人間は弱いものですから、〆切がないとなかなかがんばれません。「自分の〆切」を決めておくのは、文章の品質を担保する有益な方法でもあります。

また、結城は、

 【保険バージョンを作る】

ことも心がけています。

保険バージョンというのは「形式としてはおかしくない」というレベルの文章のことです。自分の「意」を十分に汲みとっているわけではない、でも「形」としては整っている。そういうバージョンです。

保険バージョンは、形式的にはOKだけど、内容的には不満があるバージョンといってもいいです。

文章を読み返すと、当然ながら内容的には不満があります。ですから、あとは時間のゆるす限り「改善」していくことになります。結城は、あらあらできたものを少しずつ改善していく作業が大好きなのです。

(ただ、このあたりの文章を書く作業の進め方は、雑誌などに短時間で書く記事と、じっくり腰を落ち着けて書く書籍とでは多少かわりますね)

●私たちは生きている

文章は不完全なものです。時間を掛けて完成度を上げたとしても、100%完全な文章にはなりません。

それは必ずしも、自分の技量が足りないという証拠ではありません。

私たちは、生きています。生きているということは、知識は蓄積され、思考も深化していくわけです。ですから、ある時点で「文章」として固定したものを見たときに、何かしら不足を感じるのは当然ともいえます。

文章に最善を尽くすのは当然としても、どこかの時点で、

 よしっ、この文章はこれで完成としよう。
 そして、次に進もう
 私は生きているんだから!

と見切りを付けることは大切だと思っています。

ということで——
今回の「文章を書く心がけ」は、

 「完全な文章は書けない

でした。いかがでしたか。また次回もお楽しみに!

(Photo by Walt Stoneburner. https://www.flickr.com/photos/waltstoneburner/7946581522/)

このノートは「結城メルマガ」Vol.008の内容を編集したものです。よろしければ、あなたもご購読くださいね。
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結城浩

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本を書いています。『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など。https://link.hyuki.net/mm でメルマガ配信中。https://link.hyuki.net/girlnote でcakes連載中。2014年度日本数学会出版賞受賞。

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コメント (2)
これすごくわかります! 小説を書いていると、その時々の考え方や生き方が反映されているのがわかります。そして、ある時点では納得できる表現や内容でも、時間が経てば違和感を感じることがあります。『私は生きているんだから!』という言葉に励まされました。ありがとうございます!
たまにどうにもならないときは寝かせて他の原稿を書きますw
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