「繰り返しに耐える」ということ(本を書く心がけ)
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「繰り返しに耐える」ということ(本を書く心がけ)

繰り返しに耐える」ということをよく考えます。

結城浩のメールマガジン 2017年7月18日 Vol.277 より

結城はマジックが好きで、特にテーブルマジックが好きです。観客の目の前でマジシャンが演じるいわゆる「クロースアップマジック」が大好きです。

選んだカードを当てる。デッキの中に入れたはずのカードが一番上に現れる。さっきサインしたばかりのカードが、生のレモンの中から(レモン汁まみれになって)現れる。そんなマジックには心が躍ります。

特に、有名なクロースアップマジシャンの前田知洋さんが演じるクロースアップマジックを初めて見たときには、めちゃめちゃ感動しました。

何度繰り返し見てもおもしろい。何度リピートしても驚く。ぶっちゃけ、種を知ってても驚く。そういうマジックです。しかも、前田さんのマジックは魅力的です。上品でやわらかい話し方、声も仕草もまったく飽きません。

◆クロースアップマジシャン前田知洋
http://h3m.jp/maeda/

マジックの基本は、同じマジックを二回やらないというものです。でも、前田さんのマジックは違います。あるTV番組で前田さんは、中居正広さんの前で何度も何度も同じマジックをやってみせていました。中居さんは苦笑しながら「くそ〜、絶対に見破ってやる〜」と言いながら、楽しそうに毎回幻惑されていました。

もしもマジックが「何が起こるかわからない」からおもしろいとしたならば、何が起こるかわかった二回目以降はつまらなくなるでしょう。

もしもマジックが「タネがわからない」からおもしろいとしたならば、タネを知ったらもう見なくなるかもしれません。

でも、前田知洋さんのクロースアップマジックは違います。何度見てもまったく飽きません。不思議です。

 * * *

結城はけっこう「しつこい」性格をしています。結城は毎日毎日同じ音楽を聞きます(バッハのフーガの技法)。何度も何度も同じものを聴き、何度も何度も同じものを見ます。それは、

 「繰り返しに耐えるもの」

こそがホンモノだと思っているからです。

何度繰り返しても、まったく飽きない。それを観てその理由を考えたいのです。

繰り返しに耐える理由、飽きない理由を結城は何とか知りたいのです。

フーガの技法を聞き飽きないのはなぜか。前田知洋のクロースアップマジックを見飽きないのはなぜか。その理由を知りたい。

相手を飽きさせない技法を知りたい。繰り返しに耐えるマジックを知りたい。

 * * *

繰り返しに耐えるマジックを知りたいのはなぜかというと、結城自身がそのような本を書きたいからです。

何度読んでも飽きない本。

読み返すたびに、必ず新発見がある本。

そのような本を書きたいと常に思っているからです。

繰り返しに耐える本。再読に耐える本。そのようなホンモノの本を書きたいと願っているのです。

 * * *

本に書かれた文章は、印刷された文字が紙面に固定されて読者に届きます。紙面に書かれた文字が変化するわけではありません。

しかし、それにも関わらず、読み返すたびに読者に新発見をもたらすとしたら、それはすばらしいことではないでしょうか。

接するたびに新しい側面を見せるなんてことは、命をもっている存在にしかできません。つまり、再読に耐える本というのは、命をもっているといえるでしょう。

 * * *

結城は「繰り返しに耐える」ということをよく考えます。

繰り返しに耐える本を書きたい。再読に耐える本を書きたい。来年も、再来年も、五年後も、十年後も、再読するたびに新しい発見がある本を書きたい。それは、

 自分の本に命を吹き込みたい

という願いといえます。

結城は、自分の本に命を吹き込み、本を介して読者に命と喜びと驚きを送りたいのです。

 * * *

……と、そんな話を書いていたら、

思いがけず、クロースアップマジシャンの前田知洋さんご本人からリプライをいただきました。

感激です!

以下は前田さんのツイートの引用です。たいへん味わい深いリプライをいただきました。

僕のマジックについて、素敵ツイートをありがとうございます。感激です。自分が実現できているかは不安ですが、表現をするときに努めていることがいくつかあります。そのひとつは、多くの人が心の奥に抱えている悩みや望みを含ませることです。
  たとえば、手の中で敗れたトランプが復活するマジックには、「壊れた愛情や友情が“できれば”復活してほしい」という暗喩が含まれています。不意に訪れるな不幸をどのように肯定していくのか。その辺りが肝だとも思っています。
 それと、まとまりがあって、美が含まれていること。それは表面的な煌びやかさだけでなく、徳の高さだったり、均衡だったり。それは音楽や数式も同じかも…、と素人ながらに思っております(笑)
https://twitter.com/tomo_maeda/status/883675375376650240

以下は、結城から前田さんへのお返事です。

 前田さん!お忙しいところていねいなお返事をありがとうございます。前田さんのクロースアップマジック大好きです!お返事に感激です!言及した後たくさん巻き込みリプして失礼しました。
 マジックの表現で「多くの人が心の奥に抱えている悩みや望みを含ませること」というお話に、なるほどと思いました。マジックを通して多くの人の心の奥に届くメッセージを伝えておられるのだな…と感じます。
 私は数学者ではありませんが、物語を通じて数学の美しさや学ぶことの喜びを読者に感じてもらいたいと願っています。物語と数学がばらばらに存在するのではなく、できるだけ自然な形で、できるだけ深く。前田さんのお言葉で大事なヒントをいただきました。感謝です。前田さんのますますのご活躍を!
https://twitter.com/hyuki/status/883707294042570752

 * * *

以上「繰り返しに耐える」ということをお話ししてきました。

あなたがいくら繰り返しても飽きないことって何でしょうか。繰り返し触れることに耐える作品って何でしょうか。

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結城浩

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本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。