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数式が何を表しているか理解していない生徒にどう教えたらいいのか

質問

結城先生にお聞きしたいことがあります。

自分は、塾でアルバイトをしています。

個人的な経験ですが「数学が苦手な生徒」の一つのパターンとして「式という文字列」と「それが表しているもの」がリンクしていないパターンがあると感じます。

簡単な例を示します。

(1)$${x^2 \times x^3 = x^5}$$

(2)$${(x \times x) \times (x \times x \times x) = x \times x \times x \times x \times x}$$

たとえば、上ので(1)が成り立つことは知っていても、それが(2)と同じことを表しているのは理解していないという具合です。

なまじ記憶力がよければ基本的な問題はある程度解けてしまうので「自分は数学ができていない」と自覚していないパターンが多いのが特に困ります。

そういった子は「問題が解けないのは、文字列を変形するルールを覚えきれていないからだ」と考えることが多いようです。

そのため、勉強を教わるときでも「細かい御託はいいから結論を教えてくれ」というスタンスに立っていると感じます。

結城先生でしたら,そのような生徒にどう勉強を教えますか。

結城浩のメールマガジン 2019年11月12日 Vol.398 より

回答

ご質問ありがとうございます。

なかなか難しい話です。お書きになっていた例について教えるとしたならば、ズバリそれを尋ねる問題を出すかもしれません。

でもそういう個別のことよりも問題なのは「細かい御託はいいから結論を教えてくれ」という態度の方ですね。

そのような態度をしている生徒さんに教えることはかなり、かなり難しいと思います。「魚の釣り方ではなく魚をくれ」という人に魚の釣り方を教える難しさに通じます。

あなたの言う通り、ある程度はパターンを覚えたりルールの積み重ねによって学習していけるでしょうし、点数も取れてしまうでしょうね。点数が取れてしまうから、望ましい考え方が身につかないという逆説的な現象になります。

また、「ちゃんと理解しろ」や「何のために学んでいるのか考えろ」や「もっとがんばって勉強しろ」や「ちゃんと学べ」という導き方も功を奏さないでしょう。「理解する」とは何なのか、「考える」とは何なのか、「学ぶ」とは何なのかについてのイメージが誤っている可能性が高いからです。

もしも私がそういう生徒に教えるとしたら、数学を教えながら(教えるよりも前に)、たくさんおしゃべりをするでしょうね。どういうことに興味を持っているか。勉強とはどういうことだと思っているか。自分が「わかった」といえる体験をしたことがあるか。おしゃべりを通じて、その生徒を「理解」しようと考えるでしょう。

そして、私が話すことに耳を傾けてもらえる状況を作ります。また、私がその生徒に悪意を持っていないと思ってもらえるようにします。要するに、その生徒とのあいだに信頼関係を築こうと考えるということです。話はそこからですね。

しかし、そのような気の長い話を塾のアルバイトという立場で行うことはかなり難しい(ほぼ不可能)であると感じますね……

完全な解答というわけではありませんが『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』では、まさにここで提示されているような話題と、その解決につながりうるヒントを扱っています。とても難しい(けれども、とても大切な)話であると思います。

◆『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』


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