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自分を豊かにし、文章を書き続けるためのヒント(文章を書く心がけ)

※全文を公開している「投げ銭」スタイルのノートです(結城メルマガVol.115より)

■鶴の恩返しではなく

メールマガジンを書いています」というと「ネタ切れになりませんか」と聞かれることがあります。さいわい、ネタ切れを経験したことはあまりありません。

いつのころだったか、もう忘れましたけれど、文章を書くとき「鶴の恩返し」のイメージを抱いていたことがあります。

「鶴の恩返し」の物語では、鶴が機(はた)を織る仕事をする。機を織る仕事で使う素材は、自分の羽根。くちばしで自分の羽根を抜いてはそれを布に織り込んでいく。その鶴の姿を物書きの姿に重ねて考えていたことがあるのです。つまり、何か文章を書くというのは、自分の一部分を削って(減らして)行う行為ではないか……と思っていたのです。

でも、現在はずいぶん違うイメージを抱いています。自分を削って文章を書くのではなく、むしろ書くことで自分が豊かになっていくというイメージです。

文章を書くとき、確かに自分の何かを絞りながら書いているのですが、それで自分の何かを「減らしている」わけではないと思うのです。

■ストックを用意しておくのではなく

自分を「減らしている」のではないのですが、たくさんの貯金(ストック)を用意しておくというのでもありません。

たぶん、作家の森博嗣さんが書いていた話だと思うんですが、たとえばブログで何か書くときは、ストックしておいたネタを使うのではなく、そのときどきに関心のあることをいきなり書いているそうです。結城は、その話を最初読んだとき「すごいなあ」と思ったけれど、現在はむしろ「それはいい方法なのではないか」と思っています。

特に、メルマガやブログなど「継続的に書く」ためには、「ネタをストックしておかなくては書けない」という状態はまずいのではないか、とさえ思うようになっています(これは結城個人の考えですので、ストックして書く人を非難しているわけではありません)。

ストックは腐りやすい。

ずっと以前に自分が考えたことと、現在自分が考えたことは違います。生きている人間は変化していて、関心も変化している。以前のストックに頼っていると、過去の自分をなぞるばかりで、「いま、ここ」に生きている自分の考えを進めることが下手になってしまうかも。そんなふうに思うこともあります。

■内なる対話を大切に

自分を減らすのでもなく、ストックを使うのでもなく、どうすれば文章が書けるんでしょうか。特に「継続的に書く」ためにどうすればいいんでしょうか。

もちろん簡単な答えはないのですが、結城はひとつのヒントが「対話」にあると思っています。

ほら、聞き上手な人と話していると、思わずたくさん話してしまうってことありますよね。会話が弾んで、忘れていたことを思い出したり、自分でも思いもしなかった新鮮なアイディアが導かれたり。

文章を書くときにもその「対話」が大切だと思っています。素朴な疑問を自分に発したり、簡潔な要約を自分に求めたり、そして自分に向かって真摯に答えようと努力する。そのプロセス、動的な活動の中から興味深い文章が生まれてくる可能性がある。結城はそんなふうに考えます。

■意識にのぼらないものを大切に

自分を減らすのでもなく、ストックを使うのでもなく、「継続的に書く」ためのもう一つのヒント。それは「意識にのぼらないもの」を大切にするということです。

これは説明しにくいのですが、

 「あのことを書こう」
 「自分はこれに興味がある」

というときって、その題材が明確に意識にのぼっていますよね。そういう「意識にのぼるもの」だけではなく「意識にのぼらないもの」も大事にしようということを思っています。

ああ、これじゃ伝わらないかな。

意識にのぼらないものとは何かというとですね……

たとえば、自分のお気に入りの場所。

 「なぜかはうまく説明できないけれど、好き」

という場所って誰しもあると思います。「理屈で考えると不便なんだけれど、なぜかついつい行ってしまう場所」なんてところもあるかも。それは「意識にのぼらないもの」の一つです。「意識にのぼらないもの」というよりも、「うまく言葉で説明できないもの」といったほうが適切かな。

論理的に、効率的に、合目的的にすべてを選ぶのではなく、ときには直観で、あるいは天邪鬼に、あるいは「何となく」選んでみる。そのような試みを大事にする必要があるなあ、と結城は思っているのです。

自分との「対話」を大事にしたり、「意識にのぼらないもの」を大事にするというのは、とても広く解釈すれば「ストック」といえなくもないです。結局は自分の中に蓄えられたもの、ですからね。

でも、「対話」や「意識にのぼらないもの」は、自分の制御下にはありません。自分の自由にならないというか、何が飛び出すかわからないというか。結城はそこがポイントじゃないかと思います。

自分の制御下にないものの方が大切なんて、ずいぶん逆説的ですね。

言い換えるなら、

 自分の中に《他者》が存在する状態を持つ

ということなのかもしれませんが、そこまでいくと話が広がりすぎるので、今日はこのへんで。

■まとめ

まとめます。

 ・書くことは必ずしも「鶴の恩返し」のように、自分を削り・減らすこととは限らない。

 ・書くことは必ずしも蓄えた「ストック」を使う行為でもない。むしろ、ストックは腐りやすい。

 ・自分との「対話」を大切にする。

 ・「意識にのぼらないもの」を大切にする。

自分との「対話」を大切にし、「意識にのぼらないもの」を大切にしつつ書いていると、自分の内側が耕され、豊かなものが生まれてくるように感じています。

書くほどに自分が豊かになっていくなら、継続して書き続けていられるでしょう。

あなたは、どんなふうに思いますか。

 * * *

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※Photo by Walt Stoneburner.
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※以降に文章はありません。「投げ銭」感謝。

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結城浩

書籍執筆者。著書に『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など。http://bit.ly/hyuki-mm にて「結城メルマガ」をnote配信中。https://bit.ly/girlnote にてcakes連載中。2014年度日本数学会出版賞受賞。

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