どうしたら「数学的思考力」を鍛えられるの?(学ぶときの心がけ)
質問
数学が好きで、学校の「数学研究部」に所属しています。
しかし、どんなに好きでどんなにがんばっても、「数学的思考」や「数学的発想」ができません。
作文や英語の方は好きでもないのに得意のようです。
どうしたら、数学の「好き」という気持ちに合うだけの「数学的思考力」を鍛えられるでしょうか。
回答
ご質問ありがとうございます。
「数学が好き」なんて、とてもいいですね!
ところで、あなたのいう「数学的思考」というのは、具体的にどういう意味でしょうか。
あなたは質問の中で「数学的思考」や「数学的発想」ができないと書いていますが、それは具体的に「何ができない」と言ってるのでしょうか。
想像して、いくつか列挙してみますね。
・計算ができない
・数式の変形が苦手
・計算や数式の変形に時間が掛かる
・方程式が解けない
・証明を読むことができない
・証明を思いつくことができない
・思いついた証明を書き表すことができない
・抽象的な概念がなかなか理解できない
・たくさんの定理や公式が覚えられない
・公式を覚えても適用ができない
・解法を適切なときに引き出せない
・そもそも、論理的な考え方ができない
・文章から数学的関係を取り出せない
・場合分けができない
いま思いつくまま列挙してみましたが、もちろんこれで「数学的思考ができない」ことを網羅しているわけではありませんし、各項目をさらにブレークダウンすることもできるでしょう。
自分が学校にいた時代には、クラスメートが解ける問題を自分が解けなかったり、誰かがすばやく理解することを自分が理解できなかったり、そういう経験が多々ありました。あなたもおそらく、そのような経験をする出来事があり、今回の質問を送ってくださったのだと想像します。
そういう「自分にはできない」経験をしたときには、
自分はいったい《何が》できなかったのか?
を注意深く考えることをお勧めします。
つまり、「私には数学的思考力がないから問題が解けなかったのだ」のような極端な抽象化はやめましょうということです。そうではなく、自分が経験した出来事にもっと密着して、自分が解けなかった理由をぐぐぐっと考えるのです。
極端な抽象化は無意味です。簡単な例でいうと、計算ドリルでミスをしたときに、「私には計算力がないからミスをしたのだ」と考えても何の役にも立ちませんよね。
そうではなくて、自分のミスを注意深く観察して、
・繰り上がりをミスするのか、
・数字を読み間違えるのか、
・プラスマイナスの符号を間違えるのか、
という具体的な原因を確かめるでしょう。その上で、同じミスを繰り返さないための練習をします。
この計算ミスの話を一般化すると、あなたの場合への答えになるのはわかりますね。
「数学的思考力」と呼べるものは存在するでしょう。でもそれは、非常に多くの構成要素から作られているはずです。それは、ちょうど人間の筋肉のようなものです。「筋力」を鍛えるために「筋トレしなくちゃ」と考えるのは、悪いわけではありませんが、とても大ざっぱです。
筋肉はたくさんあるのですから、どの筋肉の筋力を鍛えるかを考える必要があります。「数学的思考力」についても、自分が体験したことから、
・どんなことを考えればよかったのか、
・何を見落としたのか、
・単に何かを記憶すれば解決するのか、
・練習が必要なのか、
のように考えを進めることが大事ではないでしょうか。
「筋トレしなくちゃ」みたいに大ざっぱな話ではなく、具体的な問題を通して、少しずつ自分の思考力を鍛えるのです。
問題を解く力は問題を解くことで養われ、証明を考える力は証明に取り組むことで養われます。いろんな問題を解き、証明に取り組み、そしてそこで得られた経験を自分の次の学びに生かすのです。
数をこなすことも必要ですが、やみくもに数をこなすだけではなく、問題を考え、解き、うまく行っても行かなくてもしっかり振り返る。その繰り返しが肝心だと思います。
以上のような態度は「数学的思考力」に留まらず、もっと広い「思考力」を鍛える方法ともいえるでしょう。
あなたには大きな武器があります。
それは「数学が好き」という気持ちです。
あなたが学んでいく上で「数学が好き」という気持ちは、とてつもなく大きな力となるはずです。
少しずつ、たゆみなく、学んでいきましょうね!
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年1月30日 Vol.305 より
結城浩はメールマガジンを毎週発行しています。