まず、書きましょう。(文章を書く心がけ)
結城のところには「文章が書けるようになりたい人」や「本が書けるようになりたい人」から、しばしばメールがやってきます。
大ざっぱにまとめるなら、こんなメールです。
文章が書けるようになりたいのですが、どうすればいいかわかりません。
本が書けるようになりたいのですが、どうすればいいかわかりません。
できるだけ個別には返信しているのですが、私の時間には限りがあるので、全員に返信することは不可能です。
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文章が書けるようになりたい。本が書けるようになりたい。そういう気持ちを持っている人の第一歩は、一言で表現できます。
まず、書きましょう。
この一言で、話の八割くらいは終わります。
まず、書きましょう。
まず、書きましょう。
まず、書きましょうよ。
自分に文才がないことを嘆いたり、自分の境遇を嘆いたりするのではなく、
まず、書きましょう。
これが第一歩です。つべこべ言わずに、まずは書きましょう。自分が考えていること、自分が書きたいことを、まずは文章という形にして「自分の外に出す」のです。
それが「文章が書けるようになる」ための第一歩です。第一歩を踏み出さない人に、第二歩はありません。
まず、書きましょう。
文章を書く人は、文章を書く。文章を書かない人は、文章を書かない。もしもあなたが文章を書く人になりたいなら、方法はたった一つしかありません。それは文章を書くことです。
まず、書きましょう。
誰が何といおうとも書く。非難されても、けなされても、ほめられても、書く。書く。
よく「好きこそものの上手なれ」といいますよね。あれは真実です。なぜならば、人は好きなことを実行するからです。文章が好きなら、文章を書きましょう。これで第一関門突破です。簡単でしょう?
人間は、言い訳が得意な動物です。ですから、自分が文章を「書かないですむ言い訳」をたくさん考えます。
・私には才能がないから……
・私には時間がないから……
・私にはチャンスがないから……
・私には教えてくれる人がいないから……
・私はまだ準備ができてないから……
・私は読書家じゃないから……
・私はツールに詳しくないから……
私は、私は、私は、私は……
私は、言い訳をする人を非難したいのではありません。人には言い訳をする自由があります。でも、言い訳をしているうちは、文章は進みません。言い訳をいう時間を、文章を書く時間に割り当てましょう。
短いブログ記事でも、個人的な日記でもいい。超大作の書籍でもいい。文章を書く人に必要なのはともかく、言い訳はさておき、行動です。
まず、書きましょう。
書かなければ文章は生まれません。あなたが書かなければ、あなたの文章は生まれません。これは真理です。
ふだん文章を書かない人にとって、書くことは、自分との戦いです。
多くの人は、自分の「うまい文章を書かなきゃだめだ」や「すばらしい文章を思いついたら書き始めよう」という自意識と戦うことになります。
結城は「うまい文章」や「すばらしい文章」を書こうとするのはよくないと思います。
その理由の一つは、そんなことを言っていたら、なかなか筆が進まないから。筆が進まず、文章が形にならなかったら、「うまい」か「すばらしい」かなんて判断できません。
もう一つの理由は「うまい文章」や「すばらしい文章」を書くこと自体が失敗だから。大事なのは、すばらしい文章ではありません。大事なのは、読者が文章の良し悪しなど気にせず、内容に集中できるような文章なのです。
ふだん文章を書いていない人が、いきなり名文を書けるわけがありません。まず、書きましょう。そして書かれた文章を読み返し、書き直し、自分が理想と思う形に正していくというのが王道です。
ということで、文章を書くための第一のアドバイスは、これです。
まず、書きましょう。
このアドバイスは身も蓋もないけれど、文章書きにとっての最初のハードルを越える、大切なもの。少なくとも結城はそう思っています。
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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年4月5日 Vol.210 より
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