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ファクトベースの自己アピール(仕事の心がけ)

私は、自己アピールが苦手です。

普通の自己紹介も苦手ですが、お仕事で自分自身をアピールしなければいけない場面も苦手です。でも、最近少しずつわかってきたこともありますので、その話をしましょう。それは、

 ファクトベースの自己アピール

というものです。

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自己アピールが苦手なのは、二つの矛盾する感情が入り交じるからです。

・自分のことをきちんと高く評価してアピールしたいけれど、あまり偉そうなことを書いて反感を買いたくない。
・つつましく自分のことを表現したいけれど、しっかり書かないと他の人からきちんと評価されないだろう。

この両方は相反する内容ですから、しっかり考えようとすると頭がぐるぐるして、混乱してしまいます。自己アピール文は難しいです。

手術するお医者さんが「いや、私は不器用で、あまり自信がないんですよ」なんていったら、患者さんは不安になりますよね。そんな医者には掛かりたくありません。その一方で、いいことばかりアピールするお医者さんがいたら、それはそれでうさんくさく感じます。

さじ加減、難しすぎ!

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でも、あるときふと気付きました。それが「ファクトベースの自己アピール」という方法です。

「ファクト」というのは「事実」のこと。つまり「ファクトベース」というのは「事実を土台にする」という意味です。「ファクトベースの自己アピール」というのは要するに、

自分に関する客観的な事実を述べ、それによって自己を自然にアピールする

という方法です。別の言い方をするならば「ファクトベースの自己アピール」というのは、

自分に関する評価を自分で下すのではなく、自分に関する評価を相手に委ねる

という方法ともいえるでしょう。

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もう少し詳しくお話ししますね。

自己アピールを行うときに、まず自分の仕事に関する確固たる事実を集めます。たとえば、結城を例に取るとこんなふうになります。

・誕生日は○○○○年○月○日である。
・男性である。
・○人家族である。
・本を書いている。
・最初の本は○○○○年に刊行した。
・現在までに約○○冊の本が刊行されている。
・プログラミングの本、数学読み物、暗号の本などである。
・メールマガジンを発行している。
・Web連載を書いている。
・クリスチャンである。

これらは「事実」なので、さくさくと書けます。もちろん事実でも書けないことはあるでしょうし、書きたくないこともあるでしょう。

ともかく、ゆるがない事実を書き並べるというのは強力です。意図的な嘘を書かなければ(たとえば既婚者が独身だと書いたりしなければ)、ためらわずに書くことができます。誰にも文句を言われる筋合いはないからですね。

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もちろん、自己アピールをするときに、すべての事実を書き並べるわけにはいきません。文字数の制限もあります。それに何より自己アピールには「意図」があるからです。

結城の場合、Twitterにせよ書籍に書く略歴にせよ、自分の仕事を進めていくために、私自身を知ってもらいたいという「意図」があります。

そのためどんな事実を書くかという取捨選択は必要になります。ここでも《読者のことを考える》という原則が使えそうですね。つまり「この自己アピール文を読んだ読者は、結城のことをどのように思うだろうか」という観点に立つのです。

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「ファクトベースの自己アピール」は、事実の羅列では終わりません。文字数に応じて膨らませることができるでしょう。客観的な「事実」というのは確定しているものですが、そこから少し発展させて「未来」の香りを付けるのです。

・自分はこういうものに関心がある。
・自分は今後こういう仕事をしたい。
・自分のモットーはこれこれである。

そのような要素を加味すれば、無理せず自然な「自己アピール」ができるのではないでしょうか。

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「自己卑下」と「自慢話」は要注意です。

「自己卑下」と「自慢話」は、方向が逆のようですが「自分で自分を評価している」という点では似ています。

自分はこういうところがダメで……というのは、ダメという評価を下しています。
自分はこういうところがスゴイんだぜ……というのは、スゴイという評価を下しています。

「自己卑下」も「自慢話」も自分で自分を評価しています。ですから、話が自分だけで完結してしまいます。言い換えると、読む人を巻き込んでいません。読者不在の文章になってしまいかねません。

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「自己卑下」と「自慢話」に対して「ファクトベースの自己アピール」では、自分が知っている事実を並べることによって、「読者に対して判断材料を提供する」ことになります。

ある人は、結城の自己アピールを見て「ああ、この人は長い時間を掛けて、たくさんの本を書いたんだな」というふうに高く評価するかもしれません。

でも別の人は、まったく同じ自己アピールを見て「何だ、けっこう歳食ってるんだな」と低く評価するかもしれません。

どちらでもいいのです。

提示された事実に対して読者がどういう評価を下すかは、自己アピールを作る側がコントロールできる話ではないからです。

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「ファクトベースの自己アピール」ということを考えると、ファクトとして残せる成果物の重要性がよくわかります。

結城の場合は、端的に言って「どんな本を書いたか」がメインの成果物であり、重要なファクトを構成すると考えています。つまり自分の著作物一覧が私の履歴書となります。

研究者ならば、どんな論文を書いたか、になるでしょうか。
経営者ならば、どのような会社を経営したか、でしょうか。

成果物を具体的に「これ」と名指しできない人もいるでしょう。また、数字で計れない何かが活動の成果となる人もいるでしょう。でも、よく探してみると、自分の活動について語れる「ファクト」は必ず存在する、と結城は思います。

あなたがファクトベースの自己アピールをするとしたら、どんな「ファクト」が思い浮かびますか。

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以上「ファクトベースの自己アピール」というお話でした。

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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年10月4日 Vol.236 より

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