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これが、私の働き方(仕事の心がけ)

何年か前、ある年配の方から「結城さんは好きな仕事ができていいですね」と言われたことがあります。特に皮肉ではなく、軽く「うらやましいな」という気持ちを込めた言葉でした。その方と対話した時間は短かったのですが、その後もずっとあのときの対話を反芻しています。

ちなみに結城はよくそういうことがあります。ひとつの対話を何年も何十年も繰り返し思い出し「あれにはどんな意味があったんだろう」と振り返ることがあるのです。

「好きな仕事ができていいですね」と言ったその年配の方も、傍目には立派な仕事をしており、第三者から見たら「うらやましい」と言われるような方です。

でもその方自身に言わせると、やってきた会社の仕事というのは、あくまでも「生活のための仕事」であったというのです。

プライベートと仕事とを切り分けて考え、プライベートはプライベート、仕事は仕事として長年過ごしてきた。でも定年が近くなってくると、大きな空洞が心にある感じがする。その方はそんな表現をしました。

結城は対話を何度も振り返り、言葉の意味を考えています。対話を何度も振り返っているために、いくぶんか結城の解釈も混じってしまいますが、その方はどうも、「自分が仕事に振り向けてきた時間は、いったいどこに消えてしまったのか」と思っていたようです。

長い間、会社の中で仕事に追われて「これが大事だ」「こここそが正念場だ」と思ってがんばってきたけれど、いま振り返ってみると、本当にそうだったのだろうか。本当に「大事」だったのか。本当に「正念場」だったのか……その方の主張の根幹にあるのは、そんな思いでした。

結城自身の話をします。私は確かにずっと好きな仕事をしています。でも、それほど単純に「好きな仕事でよかった」と、自分の仕事を総括することはできません。確かに好きな仕事ができるのは感謝なのですが、なかなかそう一言でまとめられない重みがあるのです。時間は単色ではない。注意深く見ていくとさまざまな色が混じり合っている。

結城はもともと不器用で、たくさんのことをいっぺんにはできません。ですから、同じことをずっと続けてきたというだけのことかもしれません。

結城は、目標を立ててヴィジョンを描き、それへ向けて計画を立てて進むというのも苦手です。だからその都度、自分にできるささやかなことだけに力を注いできたとは言えます。

三十代後半から少しずつ楽になり始め、年を経るごとに、「これしかできないし、これでいいし、これでいいのだ」と思う気持ちが強くなりました。これが、私の働き方なのだという開き直りに近いのかもしれませんね。

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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年6月21日 Vol.221 より

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