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どんなふうに生きていこうか

ときどき「どんなふうに生きていこうか」と思う。

といっても、大きな目標があるわけではない。結城はこれまでも「《次の一歩》はこうしよう」という感じに進んできた。できそうなことをやってきて、できないことはやってこなかった。まったく目標への道がわからないけれど、ここへ向かおうというほどの力量はなかった。いつも「次の一歩」だけを考えてきたように思う。しかし、それでも十分たいへんだった。

大きな目標はなくて、今後もきっと「次の一歩」を考えて進むことになりそうだ。そしてそれに対して特に不満はない。

感謝なことに、結城のささやかな活動を応援してくださる方は、非常にたくさんいらっしゃる。それで何とか生計が立っている。まったく感謝なことである。これ以上何を望もうかというほどに。

「どんなふうに生きていこうか」という問いかけは大きなものだけれど、それに対して、

 「次の一歩をよく考える。良いと思うことを続け、違うと思うことをやめる」

という、まるで小学生のような答えになると思う。

 * * *

五十を過ぎると「人生」という言葉を使う機会が多くなる。五十を過ぎてしみじみと「人生は短い」と思う。人生は短くて、自分ができることの分量には大きな制約が掛かっている。それは能力とか機会という以前の話である。そもそもの時間が短いのだ。

人生は短い。

ときどき、

 「ビルゲイツは何歳でこれをやっていた」
 「だれそれは何歳でこんなことを成し遂げた」

という話題がある。それに比べてあなたはどうか。それに比べて自分はどうか。そういう論説である。

多くの場合は「能力のある人は若い時代からこんなことができていた」という主旨で語られる。でも、別の見方もできる。

つまり、活動に年齢など関係がないということである。やりたいことを早くやって、何も悪いことはない。老人に許可を求めるなよ、ということだ。

偶然のためか、天才のためかは知らないが、たまたま若者が「何か」を見つけたとしよう。すばらしい発想のビジネスであれ、科学上の発見であれ、何かすごいことの萌芽を見つけたとしよう。

「これは、もしかすると、すごいぞ」という何かを見つけた若者が、古い発想の老人に、

 「あの、ボク、これやってもいいですか?」

と許可を求めるのは悲しい光景ではないだろうか。「やめろ」と言われたらやめるのだろうか。「やめろ」と言われてもやるんだよね。だったら、最初から聞くなよ。

老人は……少なくとも、物事のよくわかった老人は、喜んで若者の尻ぬぐいをする。若者の失敗の責任を喜んでかぶる。それは、失敗の意味を知っているからだ。若者が、失敗の果てに未来を作り出すことを知っているからだ。

若者は、老人に許可など求めず相談もせず、たくさん「やらかす」。そして、老人が必要ならばその尻ぬぐいをする。そのためのバッファを老人は確保している。そんなこんなしているうちに、多数の若者のうちの誰かが、大きなブレークスルーを起こす。 十年に一度」か「百年に一度」かは知らないが、その大きなブレークスルーに世界全体が期待する。

結城はそういう社会は(多少殺伐としているものの)、健全な活力をもった社会ではないか、と想像する。無力な老人に許可を求める若者や、有能な若者にたかる老人というのは健全ではない。

おっと、ちょっと強い言い方をしてしまった。いささか言い過ぎたかな。

でも、若者は自分を忘れるほどの大きなヴィジョンを広げ、老人は自分を忘れるほどの深い夢をみる。それが健全な社会ではないかと思う。

過去をたくさん見てきた老人こそ、深い夢を見ることができる。血気盛んな若者こそ、大きなヴィジョンを広げられる。立場が違えども、自分の今を生かすことができる。

若者は老人を尊敬し、高い抽象度のアドバイスを受け入れ、老人は若者を応援し、実利的なサポートをかげながら受け持つ。そして互いに、尊敬や応援に応えられる存在になろうと心がける。そんな関係ならば麗しいのにな、などと思う。

 * * *

結城はまだ自分を老人とは思わないけれど、若者だとも言いがたい(若者だと思っているけれど)。まだまだ自分の仕事をしていくけれど、若者を応援する気持ちはたくさんある。

もしも、そういうタイミングがあるならば、若者の尻ぬぐいをするのもやぶさかではない。少なくともそういう気持ちは持っている。

以上「どんなふうに生きていこうか」というお話でした。

 * * *

※結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年6月16日 Vol.168より

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