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ぜんぶ文章にしてしまえ(本を書く心がけ)

いま「グラタン」というコードネームをつけている本を書いています。別に、コードネームでカッコつけているわけではありません。ただ、まだちょっと迷いのようなものが残っているので、コードネームにしているだけです。

新刊の準備でだいぶ放置状態になっていたグラタンを再始動しています。思えば今年は「習慣の力」を生かすという目標を掲げていました。週に何回かグラタンに意識的に手を付けて進めたいと思っています。習慣の力、習慣の力。

日和らずに、文章を決めていく段階が必要

あちこちの章に手を付けていたのですが、改めてグラタン第1章を書いています。以前ここを書いたのは数ヶ月前。数ヶ月前の文章に加筆していくのです。おもしろいことに、自分の中ではこの章に入れるべきことがだいぶ熟成していたらしく、さくさくと文章が出てきます。

まだまだ「スケッチ」のような文章ではあるけれど、単語の羅列のような「メモ」ではありません。つまり、この章をどのように進めるかという判断を行い「決めている」感覚があるということです。

「メモ」や「案」の段階だと、いくつか可能性を保留していることがあります。可能性の保留というのは、

こういうことを書くかもしれないが、別のこんな話題にするかもしれない。どちらにするかはまたいつか考えます……

という意味です。ちょっと日和っている。

でも、スケッチしていく中では、「うん、あの話題はナシ。書かない」と決めていかざるを得ないタイミングが出てきます。さもないと、その章の全体像を描けないから。円を描きながら、三角形を描きつつ、実は長方形になるかも。そんな器用なことはできませんよね。

いくつかのメモ、いくつかの案の中で、「これで行く」と決めます。そしてそれ以外は潔く捨てる。そういう作業によって初めて仕事が進む場合があります。グラタンは現在そういうフェーズにあるようですね。一つを選び、他を捨てる。

単語の羅列からなるメモは、いつまで放置してもメモ。そこから思い切って、文章の形に広げていかなくてはなりません。さもないと、何も判断できませんから。形にならなければ、善し悪しの判断はできませんから。

原稿の中に、自分宛の手紙を書いていく

結城の場合に固有の話かどうかわかりませんが、結城はぜんぶ文章にして考えています。つまり、本文になるテキスト候補だけではなく、書き進める方針も文章にするということです。この章はこういう話題を扱って、こういう展開になる……みたいな構想も、それなりの品質を持つ文章にしてしまうのです。

それは、未来の執筆者(自分)に宛てた手紙ともいえます。原稿ファイルの中に自分宛の手紙を残すのは良い考え。いま考えている良い構想も忘れてしまう可能性があるからです。完全に忘れることはないかもしれませんけれど、芳醇な香りを放つ核の部分を失う可能性はとてもこわい。

だから、自分宛に明確に意思を伝えたい。

明確に意思を伝える方法は、明確に表現してしまうのが一番。つまりそれは、結城の場合は「文章にする」ということにほかなりません。未来の自分宛の手紙の形で、この章がどういう方向に向かうかを明確に書く。

本文となるテキストはもちろん、原稿ファイルに書く。方針もテキストにして、原稿ファイルに書く。でもさすがに「文章を書くこと」一般に関するテキストは原稿ファイルには書かない。そういう内容はTwitterでツイートする。そして後ほどツイートを読み返してとりまとめ、結城メルマガの題材にする(この文章のこと)。

思考は多重な層をなし、各層で大きくうねる。それぞれの「うねり」をテキストという形にまとめていくのは、大きな知的喜びといえますね。

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追記:なお、この文章で触れているコードネーム「グラタン」という本は、『数学ガール/ポアンカレ予想』として無事に刊行されました。

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結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2014年10月21日 Vol.134 より

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