孤独の中で決断する(仕事の心がけ)
Twitterは楽しい
結城はTwitterが大好きで、まるでネットに「常駐」するかのようにツイートしています。しかし、まじめな話、結城の「主戦場」は書籍にあります。良い本を書くこと。良い本を残すこと。良い本を読者に渡すこと。そこが結城の主戦場です。その意味では、いくらTwitterが好きであったとしても、そこが自分の仕事の主戦場というわけではありません。
もっとも、多くの人がそうだと思います。仕事に疲れた合間に、あるいは逃避に、リラックスした会話を求めてTwitterにやってきます。
仲間とはげましあい、おしゃべりし、また自分の主戦場に戻っていく。結城は、Twitterにいる多くの人からたくさんの元気をもらい、それを糧に日々の活動を行っています。たいへん感謝なことですね。現代的なソーシャルの力といえるでしょう。
主戦場は孤独
でも、主戦場では孤独です。
自分の仕事の細部を、他の人と相談で決めるわけにはいきません。多数決で決めるわけにもいきません。著者は選択し、決断します。何を書くか、何を書かないかを選択し、決断します。だから、本の表紙に名前が載るのです。選択したのが誰であるか、決断したのが誰であるかを明記するために。
「選択し、決断するのは私である」
その覚悟があれば、仕事は進みます。その覚悟がなければ、仕事は進みません。誰かに「おうかがい」を立てなければ決断できないなら、仕事はなかなか進まないでしょう。それは当然のことです。
みんなで過ごすのが悪いわけではありません。仕事のことは人に相談するなといっているのでもありません。それどころか多くの人からたくさんの助けを借りることもよくあります。でも、こと選択と決断に関しては孤独です。私はそう思っています。
『数学ガール/フェルマーの最終定理』で主人公の母親がそんな話をしていました。おかあさんが赤ちゃんを産むとき、多くの人の助けが要る。でも、実際に産む母はひとり。そういうことです。
孤独とは仕事の領分のこと
何の話をしているのか。
現在、大きな孤独を感じながら仕事を、勉強を、さまざまな活動をしているあなたに語っているのです。論文書きでも、バグ取りでも、設計でも、教材研究でも、受験勉強でも。すべて同じではないでしょうか。材料集めや参考意見がたくさんあったとしても、真剣な仕事のどこかで、最終的に孤独の中での選択と決断が登場します。
何をどうする。どれをいつやる。その選択と決断を、他人が肩代わりすることはできません。もしもそれが、あなたの仕事ならば。
「孤独」自体は決して悪ではありません。そしてまた欠陥でも欠点でもありません。私は「孤独」は「領分」だと思います。仕事の領分。あなたが決断を下す領分のことです。
あなたが立ち、あたりを見回し、次の一歩を定める場所のことです。その場所のことを孤独と呼ぶのなら、孤独とは仕事の領分にほかなりません。孤独こそ、あなたに決断が委ねられている場所を意味しています。
「何でこんなことを考えなければいけないのか」
「私よりもずっと適役がいるのに」
「だめ、だめ、私にはできない」
「誰も助けてくれないの?」
そんな言葉を発したくなるときがあります。相談してはいけないということではありませんし、すべてを自分で背負えといってるのでもありません。
十分に関係者と相談した上で、その上でなお、あなた自身が選択し、決断しなければならない局面が必ずやってくる。そういう話をしています。
みんなそれぞれに孤独
確かにそれは孤独です。でもその孤独は、みんながそれぞれに抱いている孤独です。違う場所、違う仕事、違う人同士が、それぞれの場面で孤独を感じつつ決断しています。
肚をくくって選択し、決断する。その瞬間、自分の孤独を通して、多くの人と思いを共有することになるといえるでしょう。
一回目はビビる。でも何回も経験していくうちにわかってくる。「そうか、こういうのが仕事なのかもしれない」とわかってくる。そして次第にその「領分」を広げていく。毎回ビビりつつも、自分の仕事を進めていく。
結城はぜんぜん体育会系ではないけれど、それでも「覚悟を決める」や「肚をくくる」局面に何度も直面してきました。これからも直面するでしょう。仕事とは、こういうものなのでしょう。すべて感謝として受け止めるしかありません。
そしてまた、そこを通過しないとわからない「何か」があるのです。少なくとも私はそう感じます。「ああ、正念場はここか!」という感覚です。
もしも、孤独のうちに覚悟を決められなかったら、結城は結婚もできなかったし、仕事もしていないはずです。人生には、そのような理屈を越えて覚悟を決めるタイミングがある。
私はそんなふうに感じているのです。
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以上「孤独の中で決断する」というお話でした。
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年7月19日 Vol.225 より
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